161.石切り(1)
新しい仕事を見つけに冒険者ギルドにやってきた。朝一で冒険者ギルドに並び、求職者がごった返すクエストボードの前でクエストを確認する。
うーん、私にぴったりな仕事はないかな。町が広いからとにかく色んな仕事があって選びきれないよ。えーっと、あれ? 身体強化を使える人募集中?
一枚のクエスト用紙を手に取って、人込みから出てから確認する。そのクエストは石切りの仕事で、石でできている山を切り崩す仕事らしい。そして、その仕事に必須なスキルは身体強化。
石を切る時に力がいるから身体強化が必須なのかな。ということは、身体強化が使えればいいっていうことだよね。素の力はそんなに強くないけど、魔力はあるし私でもできる仕事かな。
それに切った石は町や村の壁の石として使われるみたいだ。かなり頑丈な石らしいから、スタンピードが来ても魔物の侵入を防ぐのに一役買っているらしい。誰かのためになる石、そう聞くと興味を惹かれてしまう。
町や村を守るための石、その石を切り崩す仕事。うん、やりがいがありそうだ。
「よし、これを受けてみよう」
期間は十日間、報酬は二万ルタ、現地でテントに寝泊りで食事つき。魔物が出るけど護衛の冒険者がいて、比較的安全に作業をすることができるらしい。久しぶりに町の外へ出ての仕事だ、今回も頑張ろう。
◇
頑張ろうって思ったけど、これってちょっと場違いな感じ。
今、私は馬車に乗って作業現場に移動している。よって馬車に乗っている人は今回の石切りに参加する人であって、一緒に働く人たちだ。その人たちの鋭い視線が私に集まっている。
他の人たちは屈強な人たちが多くて、冒険者みたいな人がいっぱいいる。というか全員それっぽく見える。そんないかつい人たちに囲まれて、私は馬車の隅で縮こまっていた。
よく考えれば分かったことじゃない、こういう人たちの仕事だって。屈強な人たちが多いって気づいていれば良かったのに、つい身体強化っていう文字に惹かれた結果がこれだよ。うぅ、周りの人たちの視線が怖い。
「おい」
「は、はいっ」
目の前に座っていた男性が低い声で話しかけてきた。おそるおそる顔を上げてみると、その人は不機嫌そうな顔をしてこっちを見ている。
「お前、どうしてこんなクエストを受けたんだ」
「えっと、身体強化ができる人を募集していたので、私でもできるかなって思って……それで」
「身体強化ができるってだけで応募したのか。だから、お前みたいなちっこいヤツが参加してきたのか」
男性は呆れたような顔をしてそんなことを言ってきた。その通りだから言い返せない、本当に場違いなんだろうな。
「身体強化が必要かもしれんが、それなりに力も必要だ。そんな細い腕で石なんて切れるのか?」
「身体強化があればできるとは思います……」
「そうはいってもなぁ」
その人は困ったような表情をした。あれ、もしかしていちゃもんをつけられているんじゃなくて、心配されているのかな。ちらっと他の人を見てみると、やっぱりいかつい顔をしているから怒っているようにも見える。
場違いなことに怒られているのか、それとも場違いだから心配されているのか、どっちだろう。考えていると、女性の声が聞こえてきた。
「まぁ、いいじゃないさ。とりあえず、やってみないことには分からないんだからね。現場に行ってできなかったら町に帰ってもらえばいい」
声が聞こえてきた方向を見ると、斜め向かいに筋肉質な女性が座っていた。くすんだ赤髪を後ろで一本に結び、左目を眼帯で隠し、左足の膝下から無くなった足を一本の細い木で支えている。
「本人ができるって言っているんだ、やらせてみればいい」
「ヒルデ姐さん、そうはいいますがねぇ」
「そこの嬢ちゃんだってやってみないと分からないだろう?」
「……はい」
その女の人、ヒルデさんがそういうと周りの男性たちは困ったような表情をして話し合いだした。やってみないと分からない、やらなくても分かる、でもなぁ。そんな声ばかり聞こえてくる。
「ごちゃごちゃうるさいねぇ。一度やらせてみればいい、決めるのはそれからにしな」
「はぁ……」
「そこの嬢ちゃんも自分で請け負った仕事だ、しっかりとやんな」
「は、はいっ」
優しいのか、厳しいのか分からない人みたい。とにかく、私は現場には連れていかれることになる。ちょっと怖いけど、ここで逃げるわけにはいかない。何としてでも、みんなから認められるようにならないと。
◇
森を抜け、半日をかけて山へとやってきた。その場所は一面が岩で囲まれた場所で、山肌が人工的に切り取られている。あちらこちらに巨石が転がっていて、それも人工的な切り口で削られていた。
馬車から降りると、担当者が前に出てきた。
「昼食は馬車の中で食べたな。よし、これから作業を開始するぞ。今回初めての者はいるか?」
「は、はいっ。私が初めてです」
「そうか、なら君はこちらへ。他の人は作業に取り掛かってくれ」
担当者がそういい終わると、他のみんなは返事をしてバラバラに行動を開始する。私は担当者に近寄り、話を待つ。
「やけに小さな子が混ざっているなと思ったが、肉体労働だからな。無理はするなとはいいたいが、石を切るのは大変だ。もし、石を切れなかったら帰ってもらう」
「はい、頑張ります」
「じゃあ、やり方を説明するからこっちに来てくれ」
担当者に連れられていくと、山の岩肌の前に来た。その山肌は一番上から地面まで段々になっていて、上まで登れそうだ。そう思っていると担当者がその段を登っていく。
ずっと登って頂上までくるとそこには小屋があり、先ほどの男性たちが小屋から箱を取り出しているところだった。その小屋から担当者は箱を持ち出すと、先ほど登っていたところに戻る。
「まず、石の切り方だ。切りたい線に沿って鉄の棒で穴を開けていく、穴を開け終わるとそれよりも太い鉄の棒を入れると、圧迫された力で空けた穴に沿って石が切られる」
石の切り方って切るんじゃなくて穴を開けるんだ、全然知らなかった。でも、これでやり方が分かった、沢山穴を開けて最後に圧迫の力で石を切る。大変なのは穴を開ける時だ、きっとこの時に身体強化を使うんだね。
「この紐に切ってほしい長さの印が書いてある、これを石に当ててこの通りの長さになるように、石に穴を開けて切ってくれ」
「分かりました。とりあえず、やってみます」
「石が切り終わったら私のところへ来てくれ。仕事がしっかりとできているか確認をする」
「はい」
説明を終えた担当者は登ってきた山を降り始めた。その時、石を叩く音が聞こえてきた、周りを見てみると他の人たちがすでに石に穴を開け始めている。私も遅れないように早く始めよう。
道具箱から打ち込み用の鉄の棒、ハンマー、長さを測る紐、チョークを取り出す。えっと、切り出すのにいいところは……あった、ここがいいね。そこはちょうど角になっている場所で切り出すのにはちょうどいいところだ。
道具を置き、まずは長さを測る。すると、ぴったり石を切り出せる形になっていた。なるほど、同じ場所で同じ大きさの石を切り出しているんだね。これだったら、測るのも簡単だし切り出すのも難しくなさそう。
今度は紐で長さを測り、切り出す場所にチョークで線を描く。あとはこの線に沿って穴を開けていくだけだ。道具を手に持ち、まずは身体強化なしで鉄の棒をハンマーで叩く。
……表面に痕が残っただけだ。これは素の力では全然作業が進まないってことだよね。ということは、説明にあった通り身体強化が必須になるってことだ。
意識を集中させ体に魔力をまとわせる。身体強化の魔法が発動した、よし石を掘りまくろう。
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