157.宿屋の店員(2)
昼食を食べた後は大量にある洗濯物を干していく。干す場所は結構高い位置にあるので、置いてあった踏み台を使う。洗濯物を干す度に踏み台を移動させないといけないのが大変だ、身長がもっと欲しいな。
洗い場に洗い終わったシーツを取りに行き、外へ出ると踏み台に上る。それから皺を伸ばして紐にかけると、服の裾にとめてあった洗濯ばさみを手に取りシーツをはさんでいく。
作業はその繰り返しだ。黙々と進めていくんだけど、量があるからなかなか終わらない。他にも仕事があるかもしれないから、早く終わらせないとね。その後もひたすら洗濯物を干す仕事を続けていった。
集中して作業をしていくとだんだんと洗濯物が減っていく。それとは反対に外には沢山のシーツやカバーがかけられている。目に見えて仕事が終わっていくのが分かるのはいい、目安があるのとないとじゃやる気も変わってくるね。
ラストスパートだ、洗い場と外を懸命に往復して洗濯物を干していく。しっかりと皺を伸ばして、地面につかないように調整をして、洗濯ばさみをはさんでいく。そうやって作業を進めていくと、ようやく洗濯物をすべて干し終えた。
「終わったー。こうしてみると壮観だね」
庭を見渡してみると、沢山のシーツやカバーがかけられていて達成感を感じる。結構時間がかかっちゃったけどしっかりと終えることができて良かったな。
干すのが昼になったから、今日中には乾かないだろう。ということは、これを明日取り込むっていうことかな。取り込む時も大変そうだ、こんなに沢山あるんだから。
まぁ、終わったことだし次の仕事はなんだろう。ここで待っているか、それともお姉さんを探しに行くか、どうしよう。待っていたら時間の無駄になっちゃうから探しに行こうかな。
倉庫の中に戻り、そこにある扉から宿屋の中に入ると廊下を進んでいく。まだお客さんが入っていないのか廊下は静まり返っていて、人がいれば気配で分かりそうだ。そんな廊下を進むと、部屋の扉が開いていた。
ここにいるのかな? そーっと中を覗くと、あのお姉さんがベットメイクをしているところだった。
「すいません」
「わぁっ、びっくりした。どうしたの?」
声をかけるとお姉さんの体が跳ねた。急に話しかけちゃったから驚かせちゃったみたい、ごめんなさい。
「洗濯物を干し終わったんですけど、次は何をすればいいですか?」
「えっ、もう終わったの? 何も問題なかった?」
「はい、特に問題はありません」
「そう、早く終わってくれて助かるわ。そうそう、次の仕事だったわよね。だったら、ちょっとついてきて」
お姉さんは作業の手を止めると、部屋を出ていく。その後を追い、廊下を進んでいくとある部屋の前で止まった。
「この中はシーツやカバー置き場になっていて、ここで干し終わったそれらをアイロンがけするの」
部屋を開けると大きな棚に囲まれた部屋だった。棚には真っ白なシーツやカバーが畳まれて入っており、部屋の隅には大きな籠に山に積まれたシーツやカバーがあった。それに部屋の中央には布製の台が置いてある。
「この籠の中に入ってあるのが干し終わったシーツやカバーね。これを中央にある台の上で広げて、この魔道具でアイロンをかけてほしいの。えっとやり方はね――」
お姉さんに魔道具アイロンの使い方を習い、ここでの作業のやり方を聞いた。今度もひたすらシーツとカバーと向き合うことになるらしい、仕事とはいえちょっと飽きてきちゃうかも。
ううん、そんな気持じゃダメだ。これも仕事のうち、頑張ってやり遂げなくちゃ。
「説明は以上よ、何か質問ある?」
「いえ、大丈夫です」
「じゃあ、後はよろしくね」
説明を終えたお姉さんは足早に部屋を後にした。やっぱり忙しいんだな、だったら自分の仕事はしっかりと終わらせないといけないね。今の感じだと他にも仕事はありそうだし、今回も早めにしっかり仕事を終わらせよう。
台に置かれたアイロンを手にするとスイッチを押し、まずはアイロンを温める。それから山積みにされた中からシーツを取り出して台の上に広げて乗せた。
地味な仕事かもしれないけど、宿屋では重要な仕事だ。なんてったって、お客さんが寝るベッドにかけるシーツなのだから、綺麗に皺を伸ばさないとね。数は多いけど、どれも完璧に終わらせよう。
◇
狭い部屋にこもってひたすらアイロンがけをする作業を続けていった。カバーは小さいからアイロンがかけやすいけど、大きなシーツはとても大変だった。
アイロンがけする範囲が広いから何度もアイロンを往復しないといけないので、それこそ全身を動かしてアイロンがけをしなくちゃいけない。それにシーツが台をはみ出してしまうから、ずらしながらやらないといけないのが手間だった。
あと、暑い。部屋は狭いし、アイロンは熱いし、アイロンをかけ終わったシーツやカバーは熱かった。その熱がだんだんと溜まっていくと、部屋もどんどん暑くなっていく。
途中耐えきれなくなって部屋を出て、魔法で水を出して飲んだ。そこで気づいたけど扉を開けてやればいいんじゃないかって思った。ここはお客さんが来るような場所じゃないから大丈夫だよね。
それから扉を開けてアイロンがけをするようにした。一気に楽になって作業はどんどん進んでいく。それでも数が多いから、山は減ってはいるけどなくならない。
そうこうしているうちに、お姉さんがやってきた。
「リルちゃん、次の仕事へ行くわよ」
「でも、まだ全部終わっていません」
「全部終わらせなくてもいいわ、残りは明日よ。さぁ、給仕に行くわよ」
「はい」
給仕ということは、夕食か。もうそんな時間だったんだね、部屋にこもっていたから分からなかったよ。足早のお姉さんに連れられて廊下を進んでいくと、広い受付を通り過ぎた場所にたどり着いた。
両開きの大きな扉を開けて中に入ると、そこにはいくつものテーブルとイスが並べられている。ここが食堂か、見た感じ五十人以上は入れる広さだ。
中には他の従業員たちもいて、何やら話し合っている。
「お待たせ、この子が臨時の店員でリルちゃんよ」
「よろしくね」
「じゃあ、ホールと皿洗いに割り振っちゃいましょうか」
挨拶をそこそこに話が進んでいく。
「リルちゃんって給仕の仕事やったことある?」
「はい、あります」
「やった、即戦力ね。じゃあ、始めはみんなでオーダーをとったり、料理を運んだりしましょう。その後は分かれてやりましょう」
「じゃあ、今日は皿洗いをやるわ」
「私は会計をやるね」
「それじゃあ、私はメインでオーダーをやろうかな。リルちゃんはテーブルの片づけをお願いね。手が空いていたらオーダーをとってね」
「分かりました」
無駄話をする暇もないまま仕事だけが決まっていく。私はオーダーとテーブルの片づけか、皿を落とさないように気を付けないとね。
それから厨房の場所を教えてもらい、エプロンを手渡されたりした。細かい指示も受けて、これで準備万端かな?
「もう準備はいいね。扉を開けるよ」
お姉さんがそういうと、他の人は頷いた。顔つきは真剣だったから、私も思わず顔を引き締めて頷く。一体、どれだけのお客さんがやってくるのか、今から不安だ。
ドキドキしながら待っていると、お姉さんが扉に近づいて開けた。
「お待たせしました、いらっしゃいませ」
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