151.ギルド補助員(6)
夕方前になると、冒険者ギルドには外から戻ってきた冒険者たちの姿が見え始めた。どの冒険者も複数のグループで行動していて、一人で行動している冒険者は少ないように見える。この地域ではパーティを組んで討伐をするのが主流なのかな?
呑気にカウンターの前に並ぶ冒険者を眺めているとアーシアさんから助言を貰った。
「いい、リルちゃん。夕方前の冒険者はね外泊した冒険者ばかりなの」
「討伐地域が離れているから外泊してくるんですか?」
「それもあるけど、外泊したほうが移動に時間を取られないから討伐数を稼げるのよ。ということは」
「ということは?」
「討伐証明と素材が山ほど提出される時間なの」
そうだ、外泊してまで討伐してくるんだから提出する数も多くなるってことだよね。ということは、こんな早い時間から忙しくなるってこと?
「補助お願いします!」
カウンターを眺めていると早速ギルド員が手を上げた。
「リルちゃん、行ってきて。指示はギルド員から聞いてね」
「は、はい!」
アーシアさんに背を押されて、手を上げたギルド員のところへ近づいた。
「よろしくお願いします」
「じゃあ、この討伐証明を後ろのテーブルで数えてね」
「はい」
袋を渡されるとそれを持ってギルド員の後ろにあるテーブルに中身を取り出す。中には粘着質のある素材、舌が入っていた。なんの魔物なのか分からないけど数えていこう。あんまり触りたくないから指で摘まみながらやっていこう。
舌を指先で摘まみながら並べて数えていく。全部で……二十七本あった。
「あの」
「ちょっと待ってね……よし、数え終わった?」
「はい、二十七本ありました」
「ありがとう。あとは討伐証明を片づけたらもういいわよ」
「分かりました」
ギルド員とやり取りをすると、ギルド員は自分の数えた討伐証明を箱に入れた。私も舌を箱に入れようとすると、アーシアさんが水の入った桶をテーブルの上に置く。その桶の隣にはタオルも置いてくれた。
「手が汚れたらこれで手を洗って拭いてね」
「ありがとうございます」
先回りして用意してくれたみたいだ、いつも仕事をしているから何が必要なのか分かるんだろうな。本当は触るのは嫌だけど我慢して舌を両手でかき集めて箱に入れる。するとアーシアさんがもう一つ用意していたタオルでテーブルの上を拭いてくれた。その間に私は桶に手を入れて洗うと横に置いたタオルで手を拭く。
「今やった通りで問題ないわ。クエスト作成は他の人に任せて、これから終業時間までリルちゃんはギルド員の補助に入ってね」
「はい。これから忙しくなりますものね」
「そうね、ちなみにこれからじゃなくて今からよ。ほら、見てみて」
アーシアさんの視線の先を見ると、入口から続々と冒険者たちがギルド内に入ってくるのが見えた。どの冒険者も汚れていて、一日の汚れには見えなかった。ということは、外泊した冒険者の可能性があって持ち込む素材が多いということだ。
「さぁ、今から大忙しよ」
「が、頑張ります」
どれだけ忙しくなるか分からない。ちょっとだけ怖いけど、逃げられないなら立ち向かうしかないよね。
◇
始めは緩やかな忙しさだった。冒険者の数もそんなに多くなくて、視覚的に楽な部分はあった。だけど、それは冒険者たちが素材を出す前の話の事。出す素材の量が尋常じゃなく多くて、提出を受けてから圧倒された。
山盛りになった討伐証明や薬草などの素材、何十体もの魔物の素材。それを目の前に置かれると呆気に取られてしまう。だけど、ギルド員は慣れているからか表情一つ変えずに対応して、ギルド補助員を呼ぶ。
「補助お願いします」
「は、はい!」
「二種類の素材の数を数えてください」
「分かりました」
山盛りになった薬草を二種類テーブルの上に置かれる。間違えないように並べながら数えていき、二種類とも数え終えることができた。
「できましたか?」
「はい、こっちが五十一、そっちが四十八です」
「ありがとうございます。マジックバッグに入れておいてください」
「分かりました」
やり取りを終えると、丁寧にでも急いでマジックバッグに薬草を収めていく。一息付けそうかな、そう思っていてもすぐに補助をお願いされる。他の補助員も忙しそうにしていて休んでいる暇がない。
次々と山のように積まれた素材や討伐証明を数えていく。ここで間違えば冒険者に迷惑がかかるので間違えられない。でも、のんびり数えていると遅いと怒られそうだからそれなりのスピードでこなさなくてはならない。
そうやって緊張感を持って仕事を続けていくと、入口のほうが騒がしくなった。ふと視線を向けると、大勢の冒険者がギルドの中に入ってくる。大勢の日帰りの冒険者が戻ってきたようだ。
外泊の冒険者が終わると、今度は日帰りの冒険者の対応に変わった。身構えてギルド員の後ろで待っているが、中々呼ばれない。冒険者は沢山居て、ギルド員は忙しそうにしているがいつまで経っても呼ばれなかった。
どうしてだろう? じっと、眺めているとあることに気づく。日帰りの冒険者は討伐証明も素材も量が少ないから、わざわざ補助員を呼ばずともギルド員で事が済んでいた。このまま呼ばれないままで終わるのかな?
「補助お願いします」
「はい!」
呼ばれないということはなかった。手を上げたギルド員のそばに駆け寄ると、カウンターの上には爬虫類系の魔物の体が横たわっていた。
「この素材を後ろに並べて」
「分かりました」
身体強化をかけて二メートルはあるであろう魔物を持ち上げて後ろに並べる。するとまた同じ魔物がカウンターに置かれると、ギルド員がそれを検分する。しばらく確認をするとまた声がかかる。
「これもお願い」
「はい」
また魔物を持ち上げてギルド員の後ろへと並べる。並べて待っていると、また同じ素材が提出されて、同じように後ろに並べる。
「ありがとう、マジックバッグに入れておいて」
「はい」
三体の爬虫類系の魔物の提出で終わった。あとは違う素材もあるらしいけど、それはギルド員だけで大丈夫そうだった。私はマジックバッグを持って頭から被せて中に入れ始める。かなり大きいから入れるのに苦労するけど、なんとか三体の魔物を入れることができた。
マジックバッグはずっしりと重くて、中を覗くと隙間が少ないことに気がづいた。これは一度素材回収室に持って行かないといけない。ついでに他のマジックバッグも持って行った方がいいかな。
他の補助員のそばに行き話しかける。
「一度素材回収室に行こうと思っているんですが、他にも持っていくマジックバッグがあれば持っていきますよ」
「そうなの、ありがとう。なら、この二つを持って行って。あ、このカートを使って持っていた方がいいわよ」
「分かりました」
置かれていたカートを渡されて、その上にマジックバッグを乗せた。他の補助員にも聞いて持っていくマジックバッグを受け取ると、素材回収室へと急ぐ。廊下を抜けた先にある素材回収室へと入り、声をかける。
「素材持ってきました!」
「おう、マジックバッグをテーブルの上に置いてくれ。中身を出すのはみんなでやろう」
「お願いします」
素材回収室にいる人たちは分かっているのかすぐに指示が飛んだ。私は一つのテーブルに二つのマジックバッグを乗せて歩き、男の人たちは中から素材を取り出していく。その動きは無駄がなく、私が入れるよりも素早い動きで素材がどんどん出されていく。
そんなに時間をかけずに素材を取り出し終わり、カートの上にマジックバッグが返される。
「ありがとうございました」
「おう」
軽く挨拶し終えると、早歩きで素材回収室を後にする。廊下を進んでホールに出ると、すぐに受付の中へと戻っていく。受付の中はマジックバッグに入れるであろう素材が積まれてある状態だった。
「……よしっ」
目の前の仕事に気合を入れ直すと、カートを押して近づいていった。
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