150.ギルド補助員(5)
昼休憩中に怒っていたけど、アーシアさんや他のギルド員には私の気持ちが伝わらなかった。何度も顔を見ないでくださいってお願いしたけど、簡単にはぐらかされただけで終わった。明日からはどうやってお弁当を食べようか。
会話をしていると昼休憩はあっという間に終わり、アーシアさんとホールに戻ってきた。昼を過ぎた時間帯は冒険者ギルドは閑散としており、朝の賑やかさはなりを潜めている。でも、あと二時間もしたら徐々に冒険者も戻ってくるから忙しくなるらしい。
午後からの仕事はクエスト作成から始まった。午前中に処理しきれなかった依頼書がたんまりと溜まっていて、全て終わらせるのに時間がかかりそうだ。先に緊急案件のクエスト作成を開始した。
午前中と同じように、まずはクエスト用紙の作成をする。依頼書を見ながら間違えないように慎重にだけど丁寧に素早く記入をしていく。全部書き終わると次にデータ蓄積装置にクエスト内容を入力していく。ここも誤字脱字がないようにしっかりと見ながら一文字一文字入力していった。
そんなわけで緊急案件を二件、記入と入力を終わらせることができた。
「それじゃ、クエスト用紙をクエストボードに貼りに行ってね。リルちゃんの背だったら上まで届かないと思うから、自分の届く範囲に貼ってきて」
「分かりました」
作成したクエスト用紙を手に持って、受付内から出て行く。真っすぐクエストボードに向かうと、一番入口に近いボードの前にやって来た。見上げるとボードは高く、一番上まで手が届かない。せいぜい中間あたりまでしか手が届かなかった。
ボードの中間地点にクエスト用紙を手で押さえて留め、ボードに突き刺さっていたピンを抜いて端を刺し留めていく。二枚とも刺し留めて、後ろに下がってクエスト用紙を確認する。うん、見やすく目立つところに貼れたと思う。後はこのクエストが求職者か冒険者の目に留まってくれればいい。
ボードを離れて受付の内部に戻るとアーシアさんが待っていてくれた。
「じゃあ、クエスト作成の続きをしましょう。これが終わる頃になると、外から冒険者が戻ってくるはずよ。そうしたら、また新しい仕事を教えるわね」
「よろしくお願いします」
アーシアさんと一緒に席に座ると、山になっているクエスト依頼書に手をかける。お腹がいっぱいになっている時のデスクワークは大変だけど、居眠りしないように気をつけていこう。
◇
眠気と戦いながらひたすら明日の分のクエスト用紙を作成していく。その間にも新しくクエストを受ける人も現れるので、そちらの処理も同時に終わらせていく。そうしていると、受付カウンターに魔物の素材を出す冒険者たちが現れた。
「冒険者たちが帰って来たわ。早速、受付の補助に行きましょう」
「はい」
ふー、デスクワークから解放される。大きく背伸びをしてから席を立つと、アーシアさんに連れられてカウンターのそばまでやって来た。
「冒険者たちへの対応はギルド員がやるわ。ギルド補助員はそのお手伝いをするんだけど、ここに木箱があるでしょ? ここにはね、討伐証明で切り取った魔物の一部を入れるものなの」
「受付のギルド員が討伐証明を確認してから、この中に入れるということですか?」
「そういうことよ。ギルド員が確認し終わった討伐証明をここに入れていくの。ギルド補助員はその箱がいっぱいになったら、素材回収室まで持って行って大きなゴミ箱に入れるのよ。それらは後で焼却処分されるわ」
冒険者たちが切り取ってきた討伐証明の処理の仕方だ。受付で提出してきた討伐証明をギルド員が確認した後に要らなくなった部位をこの箱の中に入れておくらしい。そして一杯になったらそれを素材回収室へ持っていき箱の中身を空にする。
「あと素材を持ち込んでくる冒険者がいっぱいいるから、その素材も素材回収室へ持っていくのよ。そのためには、このマジッグバッグを使うの」
「マジックバッグに入れてそれから素材回収室に持っていくんですね」
「えぇ、その通りよ。そんなに高いマジッグバッグじゃないから、すぐに一杯になっちゃうのが大変なんだけどね」
1m以上はあるマジックバッグだけど、付与している軽減はそんなに強くないらしい。受付で出された素材をこのマジックバッグに入れて、これも一杯になったら素材回収室に持っていく。うん、ここまでは大丈夫そうだ。
「簡単にいうとギルド員が冒険者への対応をして、ギルド補助員が素材回収の補助を行う感じね。その他にも討伐証明の数が多かったら、一緒に数えてもらうような補助もお願いすることになるわ。その時になったら呼ばれると思うから手伝ってね」
「分かりました」
「ほら、早速素材が受付に出されているわ。手伝いましょう」
言われてカウンターを見ると大きな狼がカウンターに置かれ始める。だけど狭いカウンターは二頭の狼を置くだけで一杯になってしまう。アーシアさんに続いてカウンターに近づく。
「リルちゃんは狼の頭を持って、私はお尻を持つわ。そこの床に置き始めましょう」
「はい」
二人で狼を持つと、ギルド員の後ろに狼を並べ始める。すると冒険者はすぐに新しい狼をマジッグバッグから取り出して開いたスペースに置く。それを再び持ち上げてギルド員の後ろに並べた。
全部で五頭の狼が並べられた。狼の素材って毛皮かな?
「今から検品しますね」
そういったギルド員は並べられた狼の品定めを始めた。狼の傷口を見たり、大きさを確認したり、毛皮の状態をチェックを進める。一通り見ると今度は席に着き、紙に何かを書き始めた。しばらくその紙を眺めていると、冒険者に具体的な素材買い取りの値段を伝える。
「買い取り完了しました。マジッグバッグに入れて下さい」
「分かったわ。じゃあ、入れましょうか」
「はい。私が狼を持ちますね」
「なら、私がマジックバッグを持つわね」
体に魔力をまとわせて身体強化をすると、狼の体の下に腕を差し込んで持ち上げる。アーシアさんが広げてくれたマジッグバッグの入口にゆっくりと差し入れると、狼を中へとおさめる。
「リルちゃんも身体強化ができるのね。ちなみにギルド員みんな身体強化が使えるのよ、こういう素材の持ち運びをしないといけないからね。さ、残りも入れちゃいましょう」
そうだったんだ、だからどれだけ大きな素材を持ち込んでも大丈夫だったんだな。一つの謎が解明されてすっきりした。すぐに次の狼も持ち上げてマジッグバッグに入れていき、全ての狼を入れ終わることができた。
「これで完了ね、討伐証明入りの箱は……まだ入りそうだからそのままにしておきましょう。じゃあ、一緒に素材回収室に行きましょう」
マジッグバッグを持ったアーシアさんに連れられて受付を出て行く。ホールに繋がっている廊下を進んでいくと、扉のない大部屋が見えてきた。中に入ると、大きなテーブルがいくつも設置された場所に辿り着いた。
「ここが素材回収室よ」
「お、アーシアさんいらっしゃい」
「素材を持ってきました」
「ありがとよ。空いているテーブルに全部乗せちゃってよ」
男の人がアーシアさんに気さくに話しかけてきた。アーシアさんも普通に対応していると、テーブルに近づいていく。そして、マジッグバッグから素材である狼をテーブルに取り出した。その時、男の人の視線が私に向く。
「お、見慣れない子がいるな」
「えぇ、この子今日からギルド補助員として働くことになったリルちゃんっていうの。身体強化も使えるから素材の移動はできるわ」
「あの、よろしくお願いします!」
「ああ、よろしくな! 身体強化を使えるなら仕事は難なくできそうだ、期待しているぞ」
「はい!」
短い紹介をするとすぐにその場を離れる。その途中、壁際に設置してあった大きな箱をアーシアさんが指差した。
「あ、あそこにある大きな箱が討伐証明の素材を入れるところよ」
「あそこに入れて、箱をまた戻せばいいんですね」
「そういうことよ。さぁ、これから忙しくなるから、気張っていくわよ」
「はい!」
夕方頃のあの冒険者ラッシュが始まるんだね。遅れないように頑張らなくっちゃ!
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