149.ギルド補助員(4)
クエスト用紙の作成とクエスト作成画面の入力を地道に進めていくとギルド内で鐘が鳴った。すると、ギルドの出入口から慌ただしく人が入って来た。その人たちは大荷物を背負っていて、いい匂いが漂ってきた。
「お昼ね。リルちゃん、順番に昼食を取ることになるんだけど、今日は先に頂いちゃいましょう」
「はい。ちなみに昼食はどうするんですか?」
「外に食べに出るか、今やって来た弁当売りから弁当を買うかね。リルちゃんはどうしたい?」
あの人たちは弁当売りだったんだね。ギルドには働いている人が大勢いるから、併設されている食事処だけじゃ足りないよね。
「お弁当が気になるのでお弁当にしようと思います」
「なら一緒に買いに行きましょう。更衣室に行ってお金を取りに行きましょう」
「はい」
二人で席を立ち、ホールを出て更衣室に行く。ロッカーを開けてマジックバッグの中から硬貨袋を取り出して、ロッカーを閉めた。
「それじゃ、行きましょうか」
アーシアさんは平べったい革製の小物を手に持っていた。硬貨が入っているなんて見えないくらいの厚さでつい聞いてしまう。
「あのアーシアさん、その小物が財布なんですか?」
「あぁ、リルちゃんは知らないのね。これはね拡張魔法と重量軽減がかかっている財布なのよ」
もしかして、マジックバッグの財布版!? わぁ、そういうものがあるんだ。それだったら一々大袋と小袋に分けなくて済みそう。
「それいいですね、おいくらしたか聞いても良いですか?」
「少な目の拡張機能と重量軽減だけだったから、六万ルタくらいで買えたわ」
「マジックバッグに比べると随分とお得ですね」
「マジッグバッグは用途が大きいからね、財布くらいの拡張ならお得なのよ」
そっか、マジックバッグに比べると拡張も重量軽減も少ないし、時間経過軽減もないから安いんだ。あったら便利なアイテムだけど、結構お高いのがネックだよね。買えなくはないけど、少しでもお金を残しておきたいし、どっちがいいんだろう。
「お金を小まめに出すなら買っておいて損はないと思うわよ」
「そうですよね、この袋は別のことに使って新しい財布を買うのもいいですね」
「その袋に愛着があるのね」
「この袋は優しくしてくれたおばあさんから貰ったもので、思い出の品なんです」
思い出すなぁ、冒険者になる前に薬草採取したりウサギを狩ったりした頃の事。初めて受け取ったお金と一緒にこの袋をくれたっけ。あれから随分と経ってこの袋も傷んじゃったな。あの日を忘れないように大切に取っておくのもいいよね。
「さぁ、買いに行きましょう」
「はい」
私たちは更衣室から出ると、廊下を抜けてホールまでやってきた。待合席付近で陣取っていた外部からの人たちに近づいていく。
「うちで買ってってよ!」
「今日も美味しいお弁当があるよ!」
「午後からの仕事に精のつくものを食べないと力も出ないよ!」
見本に一つのお弁当を広げて呼び込みをしている。お弁当の中身を見ていると、ホルトでは見なかった品が沢山詰まっていた。どれも美味しそうに見えてどれを買うか迷ってしまう。次々と見ていくと、あるお弁当に目が釘付けになった。
「あの」
「らっしゃい!」
「この弁当に入っている塊は?」
「これはお米という穀物を炊いて固めた食べ物さ!食べると柔らかくて、噛むと甘みが出る穀物だよ。食べたことが無いなら一度食べておかないと損だよ!」
まさか、ここでお米に出会えるとは思わなかった! おにぎりは俵型をしていて、それぞれ色が違う。白色、黄色、茶色と色とりどりだ。
「これください」
「毎度! 1000ルタだよ!」
これしかない! 速攻で注文すると、売り子の人は嬉しそうな顔をしてお弁当を差し出してくる。銀貨を手渡してお弁当を受け取った、転生して初めての米に心が弾むように嬉しくなる。つい嬉しくなってお弁当の蓋を開けて中身を確認する。
三つの俵型のおにぎり、ハーブの匂いが漂う肉のソテー、ソースのかかった色とりどりの野菜。どれも美味しそうだけど、一番に目を引くのはやっぱりおにぎりだ。久しぶりに見るその形に顏がにやけるのが止まらない。
「嬉しそうね、美味しそうなお弁当見つかった?」
「はい、お米の入ったお弁当です!」
「あー、お米入りのね。お米も独特で食べると美味しいから期待してもいいわよ」
アーシアさんも片手にお弁当を持って近づいてきた。その場を離れて、またカウンターの奥へと移動する。それから奥にある部屋に移動すると、長机に何脚ものイスが並べられた部屋に辿り着いた。
「ここが休憩室よ。休憩は一時間だから、あそこにある時計を見ながら戻る時間を確かめてね」
高めの壁にかけられた時計を見ると十二時十分を指していた。確認もしたし、早速お弁当を食べよう。席についてお弁当を開けようとすると、手前にコップとフォークを置かれた。
「はい、飲み水ね。飲み水はあそこから自由に取って行ってもいいし、コップとフォークは共用で使っているから好きな物に入れていいわ。使い終わったら洗って水気を取って元の場所に戻してね」
振り向くと壁際に蛇口らしきものとシンクらしき陶器が見えた。その隣の棚には幾つものコップが並べられていて、休憩中に使うものらしい。
一通りの説明を終えたアーシアさんは私の隣の席に着席した。
「さぁ、食べましょう」
「はい」
お弁当の蓋を開けると美味しそうなおにぎりとおかずが見える。まず先に白色のおにぎりを手にしてまじまじと見つめる。すっかり冷めてしまっているが、指先でお米の一粒一粒を感じることができる。本物のお米だ。
おにぎりを一噛みする。おにぎりは簡単に崩れて口の中に入り、咀嚼をするとお米独特の甘みを感じることができた。懐かしい感触と味に胸がジーンと熱くなる。今、私はお米を食べている!
幸せを何度も噛み締めながらお弁当の中身を食べ進める。塩とハーブで味付けされたお肉も美味しいし、ソースで味付けされた野菜は食べやすいだけじゃなくて箸休めにもなる。アーシアさんとお喋りする余裕もなくあっという間にお弁当を完食してしまった。
「はぁ~、ごちそうさまでした」
「ふふ、本当に美味しそうに食べるのね」
「すいません、夢中に食べてしまって」
「気にしないで。こっちも楽しませて貰ったから」
どういう意味だろうか? ふと、顔を上げて見ると先ほどにはいなかったギルド員がいて、みんなにこにこと笑って私のほうを見ていた。もしかして、食べているところを見られていた? うわっ、恥ずかしい!
「リルちゃんが美味しく食べてくれるお陰で私たちの食事も美味しくなった気がするわ~」
「あんなに幸せそうに食べるんですもの、食べなくても美味しい気持ちが湧き出てくるわ」
「お米の入ったお弁当よね。私もそれにすれば良かったなー」
他のギルド員のお姉さんたちはそう言ってお弁当を食べ続ける。恥ずかしくて顔を背けると、男性職員も離れたところに座っておりこちらを見ながらお弁当を食べていた。まさか、ここにいる全員に見られていたなんて恥ずかしすぎる!
「うぅ、みなさん酷いです」
「ふふ、だってあんな顔して美味しそうに食べているからね」
一体どんな顔をしていたのか、すごく気になる。ご飯を食べた余韻が恥ずかしさでどこかに消えちゃったよ。今度は無表情で食べてやる!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます