148.ギルド補助員(3)

 アーシアさんの説明は続いていた。


「ここのクエスト受領って書いてある文字を押してみて」


 言われた通りに文字を押してみると、画面が切り替わった。今度は空欄の四角が現れて何かを入力するような感じだ。


「ここの四角には文字を入力するのよ。まずここの四角を触って、ほら棒が現れて点滅してきたじゃない、こうなると入力できるってことなのよ」


 点滅する棒まで同じとか、やっぱりこれは前世でみた技術だよね。じゃあ、この水晶が機械の役割をしているのかな。だったら、そのシステムをどうやってこの水晶に組み込んでいったんだろう、謎だ。


「ここで登場するのがボードの水晶ね。その水晶に文字と数字と記号が書かれているの。そこを押すとここで点滅している棒に文字が入力されるわけ。どう、分かった?」

「はい、なんとか」

「じゃあ、実際に入力してみよう。入力するのはクエスト用紙に追記してある冒険者証の番号よ」


 これは仕事だ、集中しないと。心を落ち着かせるため一呼吸すると、クエスト用紙に書かれている番号を確認する。それからボードに書かれている数字を順番に押して行く。すると、水晶の画面には押された数字が順番になって入力されていった。


「そうそう上手。この数字で間違いなかったら、四角の下にある矢印を押すと、入力した冒険者のデータが出てくるの。この画面で色んな履歴を見られたり、修正とかもできちゃうわ」

「この画面で何を入力すればいいんですか?」

「ここに四角があるでしょ、ここの欄は今受領しているクエストの番号を書くところなのよ。ここの右上に書いてあるのがクエスト番号ね」


 こうやってクエストの受領の手続きをしてたんだ。ボードの文字は……かな入力っぽいから一押しで一文字ずつ入力できるね。えーっと、ここの四角に番号を入力してっと。


「こんな感じでいいですか?」

「リルちゃんって飲み込み早いのね、その通りよ。あとは、最後に今日の日付を入力してね」


 前世でもやっていた仕事だからね、ちょっとズルしている気分になるね。追加の日付を入力すると、矢印のボタンを押して前の画面に戻ってきた。


「凄いわリルちゃん、とっても順調に終わっちゃったわ。もしかして、他のところでもギルド補助員とかやっていた?」

「いえ、ここが初めてです」

「そうよね、入力も早かったり、機能も分かっているようだったら驚いちゃった。これは即戦力だわ!」


 隣で嬉しそうな顔をして拍手された、なんだか申し訳ない気持ちになる。前世のお陰で分かります、って言えればどれだけいいことか。でも、言ったら言ったで変な目で見られそうだし言わないでおこう。


「クエスト用紙のこととか説明したいけど、その時になったら説明するわ」

「はい、お願いします」

「じゃあ、次々に入力しちゃいましょ。私は隣で同じ作業をやっているから、分からないことがあったらなんでも聞いてね」


 早速一人での実戦だ。簡単なデータ入力だけど、ミスが出ないように丁寧にやっていこう。


 ◇


 黙々と冒険者画面にクエスト番号を入力する仕事を続けた。ダブルチェックをやりながら確実にデータを入力していく。持っていた紙束の入力が終わったら、新しい紙束を貰いに行き、また席について入力をした。


 そうしている内に、貰ってくる紙束の量が明らかに減ってきた。どうやら朝のピーク分は大分終わってしまったらしい。それでもカウンターの業務が終わることはないけれど。


「リルちゃん、クエスト番号を入力する仕事はこの辺りで止めて、次の仕事に移りましょう」

「はい、お願いします」


 簡単な作業だったから問題なくできた。ミスがなければいいんだけど、こればっかりは分からない。


「次はクエスト用紙のことをやりましょう」


 アーシアさんが席を立つと私も席を立つ。冒険者や求職者が並んでいるカウンターには近づかずに、別のカウンターへと近づいていった。そこには先ほどのカウンターほどではないがギルド員がカウンターの前に座り、カウンター越しの誰かと何かのやり取りをしている光景がある。


「こっちのカウンターは仕事を依頼する場所よ。今、受付している人は求人を出したい人ね。ここで聞いたことをまとめて、クエストを出していくの。ギルド員が直接のやり取りをして、ギルド補助員が後ろでクエスト用紙を作成したりするわ」


 そっか、こっちで具体的な求人の話をしていたんだね。ギルド員が話を聞いて、ギルド補助員がクエスト用紙を作成するんだ。直接のやり取りは業務に詳しいギルド員がして、ギルド員が作成するはずの書類仕事を手伝う感じかな。


「クエスト用紙作成には普通と緊急の二種類があって、普通は翌日に求人を出すもので緊急は当日に求人を出すものよ。今は普通のクエスト用紙を作成しましょう。まずギルド員の後ろにある箱の中から、クエスト作成用紙を取って席に戻りましょう」


 受付しているギルド員の後ろの机には箱が二種類置いてあって、その中から一枚の紙を取り出して席へと戻る。


「まずクエスト作成用紙の見方ね。ここに作成者の名前、依頼者の名前、依頼者の住所、具体的なクエストの内容、クエストの依頼料、クエストの依頼日程、クエスト番号、ギルドポイントよ」

「ギルドポイントってなんですか?」

「これは求職者または冒険者のランクアップに必要なポイントのことよ。クエスト内容の難易度によってポイントはギルド員がつけているの」


 なるほど、このポイントがランクアップに必要なものなんだね。こうやってギルド員がつけたポイントをクエストが成功するごとに加算されていく仕組みだったんだなぁ。


「早速クエスト用紙を作成してみましょう。これが定型用紙で、ここの空欄に必要なことを書いていくのよ」


 机の引き出しの中から紙の束を出すと机の上に置いた。その中から一枚の紙を私の前に置くと、ペンを渡してくる。先ほどのクエスト作成用紙も一緒に並べて置いてくれた。


「初めてだから一項目ずつやっていきましょう」

「よろしくお願いします」


 アーシアさんがつきっきりでクエスト用紙の記入を教えてくれた。一項目ずつ指差しで丁寧に教えて貰い、私が言われた通りに記入していく。できるだけ綺麗に文字を書いていき、時間はかかったけどクエスト用紙に記入が終わった。


「できました」

「うん、うん。大丈夫そうね。次にクエスト用紙の内容をデータ蓄積装置の中に記入していきましょう。はじめの画面を開いて、ここにあるクエスト作成の項目に触れてね。そうしたら、クエスト作成画面に辿り着くわ」


 水晶の画面に触れると画面が切り替わった。マウスがなくてちょっと大変だけど、こういうのがあるだけないよりはマシだよね。


「すると項目が分かれているからクエスト作成用紙を見ながら空欄のところを埋めていけばいいわ」

「やってみてもいいですか?」

「もちろんよ。私は隣で見ているから、間違っていたら指摘するわね」


 ボードの水晶を使って入力するだけだから簡単だよね。前世とは文字の配列が違うからタイピングもブラインドタッチもできない、一文字ずつ探して文字を押していくしかない。地道にボードの文字を押していき、間違いがないか画面で確認を繰り返す。


「そうそう、その調子よ。あんまり説明してないのに、スムーズに入力できているわね。凄いわ」

「アーシアさんの説明が良かったからですよ」

「うふふ、そう言ってくれて嬉しいわ」


 アーシアさんと雑談をしながら進めていくと、クエスト作成画面の項目を全て埋めることができた。最後に自分の目で紙と見比べて間違いがないかチェックをして、うん大丈夫そうだ。


「終わりましたけど、これで大丈夫ですか?」


 隣にいるアーシアさんに問いかけると、真剣な表情で画面を見ていたアーシアさんがそのままの表情でこちらを向いた。どうしたんだろう、何か間違いがあったのかな? 不安になりながら反応を待っていると、いきなり両肩を掴まれた。


「えっ」

「私たちはリルちゃんのような人材を求めていたわ。文句なしの満点業務よ」


 作業は大丈夫だったっていうこと、でいいんだよね? ちょっとアーシアさんのキャラがよく分からなくなってきちゃった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る