147.ギルド補助員(2)
アーシアさんと向かい合わせに座りながら説明を聞く。
「まず勤務時間ね。開始は八時半からで、終了は六時半。休憩時間は一時間半あるわ。一日中働くこともあれば、半日で終わる日もあるの。明日以降に勤務表を渡すから、それを見ながら出勤してきてね」
冒険者ギルドが開くのは九時からだから、その前から勤務が開始するんだね。終了は六時半だから、いつもよりは遅い時間になっちゃうね。まぁ、その分お金を貰っているから大丈夫。
なんだか前世の勤務形態を思い出す。無為に過ごしていた前世だけど、今は違う。新しい人生に新しい生活がかかっているんだから、頑張らないとね。
「そうそう、半日の時は日給も半分になっちゃうからそれはごめんなさいね。大体3日働いて、一日半日があって、一日休みがある感じよ」
そっか、そうだよね。前世では月給制度だったけど、今は日給制度なんだからその辺は仕方ない。勤務日数も無理のない範囲だから好感が持てるな。コーバスでの休みの日は何をしようかな、訓練できるところも探しておきたいけれど近場にあるかなぁ。
「じゃあ、施設を案内するわね。まずは従業員の出入口よ」
「はい、お願いします」
席を立って部屋を出て行く。ホール側ではない方向へ進んでいくと、扉があった。その扉から更に進み廊下を抜け、角を曲がって更に進む。その先にも扉があるが、ちょっと重厚な感じがした。
「一度外に出てみましょうか」
アーシアさんが扉を開けるとそこは外だった。外に出ると高い塀に囲まれていて、人が二人通れる通路がある。その通路を進んでいくと、大通りに出ることができた。
「働く時はここを通って、あの扉を抜けて入って来てね。次は更衣室に行きましょう」
来た道を戻り、扉から建物の中に入ると廊下を進む。廊下を進んだ先にある角を曲がると、そこは幾つもの扉があった。その内の一つの前にアーシアさんが止まる。
「ここが更衣室ね」
扉を開けると広い室内に幾つものロッカーみたいな箱が並べられていた。
「えーっと、ここが空いているわね。そうそう、制服を持ってくるからちょっと待っててね」
そういったアーシアさんは部屋を出て行った。残された私はロッカーを間近で確認する。木製でできていて、鍵のところだけ金属でできている。開けてみるとハンガーをかけるところがあって、下には物置に使える棚も小さいながらもあった。
「お待たせ。多分これでいいと思うんだけど、どうかな?」
アーシアさんが戻ってきた、手には二着の制服を持っていた。子供用のサイズってあるんだね、てっきりないものだと思っていたから驚いたな。制服を手渡されると、アーシアさんは部屋から出て行く。
「それじゃあ、外で待っているから着替えたら教えてね。荷物はロッカーに入れておいて、全て入れ終わったら鍵をかけるのよ」
そう言って部屋を出て行った。持たされた制服はパリッとしていて、着心地がとても良さそうだ。こんなにしっかりした服を着るのは初めてかな? パン屋で働いていた時に着た服もしっかりしてたけど、ここまで清潔感のあるものじゃなかったし。
新しい服を前にしてちょっとだけ嬉しくなる。コーバスで初の長期の仕事だ、しかも職場は冒険者ギルド。ここでしっかりと仕事を成功させて、信頼を勝ち取りたい。コーバスで活動するためにはまずは周りから信頼されることから始めよう。
集落でも始めは信頼獲得から始めたんだし、またここからコツコツ築いていくんだ。その先にある領主さまのクエストにありつけるように、今は目の前のことをやり遂げよう!
◇
「あ、リルちゃん。着替え終わった?」
緑色のベストとスカート、白いワイシャツ、襟もとのリボン、髪を一つにまとめてみた。これがギルド補助員としての私の姿だ。清潔感溢れる服装を着て、気持ちも新しく入れ替わったみたい、やる気が漲ってくる。
「どうでしょうか?」
サイズは大丈夫そうだったけど、不安だ。アーシアさんに見てもらおうとすると、アーシアさんは手を組んで満面の笑みを浮かべた。
「可愛いわ~! 小さなギルド員の誕生ね」
これは、大丈夫ということなのかな?
「ふふっ、こんな姿で働いて貰ったら他のみんなも喜んで見ちゃうわね」
なんかブツブツ言っているけれど、もしかして私の格好が似合ってなかったのかな?
「あ、あの……」
「あぁ、ごめんなさいね。ふむふむ、服装はピッタリだと思うから大丈夫よ。それに似合っているわ」
そっか、良かった。年齢的に合わないかもしれない、と思ったけどそういうことはないみたい。でも、人より小さいから姿は目立っちゃうかもしれないなぁ。侮られないようにキリッと顔を引き締めていこう。
「じゃあ、早速朝の仕事をしにいきましょうか」
廊下に出て来た道を戻っていく。扉を開けると、ざわついたホールの音が鮮明に聞こえてきた。そのままカウンター近くまで来ると、説明が始まる。
「まずクエスト受領の処理の仕方よ。クエスト受領が完了したクエスト用紙は受付の人の隣にある箱の中に入れられるの。ギルド補助員はその箱の中にあるクエスト用紙を取って行って、後ろにあるデータ蓄積装置にデータを入力していくわ」
アーシアさんはそういうと箱の中に溜まった記入済みのクエスト用紙を取って、後ろに沢山並んでいる机に近づいていく。その内の一つにクエスト用紙を置き、イスに私を座らせて、アーシアさんは隣にイスを持ってきて座った。
そんな私の前には机の上に平べったく置かれた水晶でできた板があり、その奥には水晶でできた板が木枠に囲まれて立っていた。それはどこかでも見覚えのある光景ですぐにそれがなんなのか気づいてしまう。
前世でいうところのコンピューターだ! 机の上に水平に置かれた水晶がキーボードで、木枠に囲まれた水晶は液晶画面だ。前世で見たまんまの姿形をしていて、なんだか前世に戻ってきた感覚になった。
「じゃーん、これがデータ蓄積装置ね。そのボードで入力作業をして、前にある水晶の板には色んなデータが出てくるわ」
予想通りの説明で驚かない。まるっきり前世と同じ形をしていて、これを作ったのは前世に関係のある人だったりして。そうじゃないと、説明がつかないよ。ということは、この世界には私と同じく転生した人もいるのかな?
「うんうん、こんな不思議なものを見せられたら困惑もするよね。でも使い勝手はいいから、覚えちゃえば楽に仕事ができるわよ」
別の意味で困惑していたんだけど、言えないよね。確か本部に大きな水晶があってそこでデータが蓄積されているって前に聞いたけど、ここの端末とはきっと見えない力で繋がっているんだろうな。どうやって繋がっているんだろう?
「さぁ、まずはやることを始めちゃいましょう。まず板を触ると起動するから、触ってみて」
「はい」
恐る恐る触ってみると、画面が一瞬にして変わった。沢山の文字が並んでいる画面になって、何かを選択するような形になっている。一体どんな機能になるんだろう? ドキドキしながらアーシアさんの言葉を待った。
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