146.ギルド補助員(1)

 クエスト用紙を片手に列に並ぶ。今日もいっぱいの人が並んでいて、受付のお姉さんたちは忙しそうに求職者をさばいている。補助員っていうことは、お姉さんの補助をするってことなのかな?


 じっとお姉さん方を見ているが、補助員らしき人は見つけられない。いや、カウンターの前にはいないけど後ろのほうに人が行き交っているから、その人たちなのかな?


 一体どんな仕事をするんだろう、そんな風にお姉さん方を眺めていると自分の番がやって来た。


「お待たせしました」

「あの、こちらを受けたいと思うのですが、説明をお願いできますか?」

「あら、これはありがとうございます。ただいま担当の者を呼びますので、少々お待ちくださいね」


 クエスト用紙を渡すとお姉さんは自然な笑みを浮かべて嬉しそうにした。言葉を残すと席を立ち後ろのほうへと歩いていき、誰かを呼び止める。しばらく話すと二人のお姉さんがカウンターに近づいてくる。


「お待たせしました、ギルド補助員の希望者ですね」

「はい」

「私は担当のアーシアといいます。こちらの中でお話を進めたいと思いますので、あちらのカウンターの角から中に入って下さい」


 アーシアさんと言った人は長い金髪をして青い目をした、とっても綺麗な人だった。一瞬見惚れてしまったけど、すぐに我に返って言われた通りに移動する。人の間をすり抜けてカウンターの角にいくと、その角の部分のカウンターが開けられる仕組みになっていた。


 そこから中に入るとアーシアさんが待っていてくれた。


「騒がしいところで申し訳ないのですが、奥の方でお話させて頂きますね」


 そう言って、カウンターから遠ざかるように奥へと進んでいく。カウンターの奥には沢山の机が並んでていて、その机に向かってギルド員が作業をしているところだった。その机を通り過ぎた先には幾つかの扉があり、その内の一つの扉が開けられた。


「この中でお話しますね」


 アーシアさんが部屋の中に入ると、私もそれを追う。中に入ると、大きな机が並べられていて、沢山のイスがあるところだった。その内に一つに座るよう促されて、静かに座り、対面にアーシアさんも座る。


「まずギルド補助員に興味を持ってくれてありがとうございます。どうして、この仕事に興味を持たれたんですか?」

「私は外の冒険者もしているので、冒険者歓迎の文字を見て私でもできるんじゃないかなって思いました」

「そうでしたか、冒険者歓迎の文言を書いておいて良かったです。今までの履歴を見たいので冒険者証を貸していただけますか?」


 冒険者証を手渡すと席を立ち「このまましばらくお待ちください」と、一言を残して部屋を出て行った。履歴を見るって今までの私の働いていた履歴を見るってことだよね、こんな履歴じゃダメですって言われないかな?


 今まで色んな仕事をやって来たけど、ギルド補助員に近い仕事なんていうのは無かったかな。そしたら、この仕事を受けるのは無理になるかもね。でも、できたらこの仕事を受けたいな、どんな仕事になるのか気になるし。


 一人でボーッとしながら待っていると、扉が叩かれた。


「お待たせしました」


 アーシアさんが戻ってきた。私の目の前の席に座ると早速話し始める。


「リルさんの今までの履歴を見させてもらいました。色んな仕事に関わってきていて、しかもどの仕事でも好評なのは素晴らしいことですね。外の冒険者としても着実に力をつけているのが分かります」

「ありがとうございます。自分が受けられる仕事を受けていただけなんですが、なんだか嬉しいです」


 今までの仕事が褒められてなんだか嬉しい。コーバスに来たんだから、始めから信頼を築き直しかと思ったらそうではなかったみたい。そっか、あっちの履歴もこっちでは通用するんだね。


「履歴を見せてもらって、ランクは低いですが問題ないと判断しました。ぜひ、ギルド補助員の仕事を受けて頂きたいと思っています。何か質問などありますか?」

「ギルド補助員の仕事って何をするのか分からなくて、それを聞いてみてから決めても良いですか?」

「もちろんです。話を早く進めてしまって申し訳ありません。では、ギルド補助員について説明させて頂きますね」


 そういうとアーシアさんは説明を始めた。


「ギルド補助員はその名の通り、ギルド員の補助を目的とした人員です。具体的な仕事としてはクエスト用紙の作成、整理、貼付。受付事務の補佐と言われるデータ入力や会計業務の補助などですね。あとは素材を運んだり、整理したり、細かい雑務も時々あります」


 色々と気になるけれど、データ入力ってこっちの世界にもあるんだ。きっとあの不思議な鑑定の水晶関連だとは思うけど、一体どういう原理なんだろう。ファンタジーなのかSFなのか、んー分からない。


「ギルド補助員なので主な仕事はギルド員がやりますが、それに付随した仕事を行う人員です。冒険者や依頼者とは直接やり取りはありません、ギルド内の仕事をやって頂くことになりますね」


 話を聞いてみた限りではその名の通り補助員って感じがした。主な仕事はギルド員がやってくれるみたいだし、難しいことはないのかな? 指示された事務を行う感じがするから、私でもできそうだ。


「いかがでしょう、引き受けてくれますか?」

「はい、私でよければ働かせて下さい」


 はっきりと伝えると、アーシアさんの表情がひときわ明るくなった。


「そう、良かった! 履歴には良いことしか書いていなかったから、ぜひ受けてもらいたかったのよ!」


 ん、口調が突然砕けたようになったけど。


「ふふ、突然ごめんなさいね。今までのは業務用の私だったのよ。でもこれからは同じ同僚としてだから、普通に接するわね」

「そうなんですね、驚きました」

「リルちゃんも砕けた感じになっても大丈夫よ」

「いえ、私はこれが素なので」


 そういうとアーシアさんは「えーっ」と残念そうな顔をした。急に態度を変えられて驚いたけど、こっちのほうが打ち解けやすそう。私ももうちょっと砕けた口調になるように頑張った方がいいのかな?


「そうそう、一応契約書は書いて貰うわね。こっちの用紙を読んで、大丈夫だったらサインを書いてね」


 渡されたのは一枚の契約書。契約書を書くのは初めてなのでドキドキする。変な事が書いてないかじっくり読みこんでいくと、働く期間のことが書かれていなかった。


「あの、働く期間なんですけど具体的な数字が書かれていないんですが」

「それはそこに書いてある通り状況によって日数が変化します、と書いてあるでしょ? 具体的な勤務日数は決まっていないのよ。というのも、今回の求人はギルド員の仕事量の緩和のために一時的に人員が補充された感じかな」


 忙しいギルド員の仕事量の緩和かー、期間が決められていないのは様子見をしたいからかな。どれだけ効果があるか見て、改めて人員を補充するか考えるためだったりして。


「ちなみに他にもギルド補助員はいるから、リルちゃん一人に押し付けることはないから安心してね」


 そっか、他にもギルド補助員がいるのなら気負わなくても良さそう。純粋に仕事量が増えて対応しきれなくなった理由からの補充だったのかな。まぁ、私がここで色々考えてても仕方ないよね。


 契約書を読み、自分の名前を書くとアーシアさんに手渡す。


「ありがとう。じゃあ、仕事はこれからでも大丈夫かしら?」

「はい、大丈夫です」

「ふふ、頼りにしているわね」


 今日からギルド補助員。新しい仕事だから、頑張って仕事を覚えないとね。

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