145.新しい仕事は身近にあった
街灯の魔力注入は5日間ほど続いた。久しぶりに魔力を沢山消費したからか、体には独特の疲労感が圧し掛かっていた。それでも翌日には戻っているから、問題ないと言えば問題ないのかもしれない。
結局、一人でコーバスにある街灯全部の魔力注入を行った。一度の魔力注入で満タンにすると15日間くらいは持つそうなので、全部入れ終わった後はしばらくこの仕事はないらしい。不定期の仕事だから、安定して収入が得られないのが残念だよね。
一人で回せる仕事量だから誰か一人を常時雇い入れる形が安定するんじゃないかって思った。けど、それだとお金がかかってしまうので、不定期雇用になっているらしい。責任者の男性も本当は常時雇用がいいんだけどね、とちょっとした愚痴を零していた。
そして、最後の街灯への魔力注入が終わりコーバス街灯組合にまで戻ってきた。一日で終わる仕事よりも、数日間まとめて働けたお陰で仕事を探す手間が省けたのは良かったな。今日もなんとか夕方頃までには戻ってこれた。
「お疲れ様、じゃあ報酬の12000ルタね」
「ありがとうございます」
男性はそう言って報酬の銀貨を渡してくれた。1日目だけ14000ルタだ。2日目からは12000ルタに戻ったのは残念だったけど、それなりの報酬が得られたのでそこは安心したよ。
「5日間お疲れ様。しっかり働いて貰えて本当に助かったよ。地味な仕事だから、途中で飽きちゃって仕事を止める人もいるんだよ」
「そんなことがあるんですね。確かに地味な仕事かもしれませんが、町の様子を見られて楽しかったですよ」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
ランタンの灯りをつけながら男性は席へと座った。
「私、領主さまに恩返しがしたくてコーバスまで来たんですが、ここでの初めての仕事が領主さまに関わることで本当に良かったです」
「なるほど、だから毎日やる気いっぱいだったんだね。街灯はね町民の生活を豊かにするって領主さまの肝入りの政策だったんだよ。それだけじゃなくて、人が活動する時間が長くなればそれだけ経済が回ってくれるっていう思惑もあったんだよ」
ただ明るくすることで色んな効果があるって領主さまは見抜いていたんだ。そうだよね、明るい状態だったら人は活動するし、活動が長ければその分お店も営業できるから売り上げとかも上がるよね。
「ちなみに街灯にかかる費用は税金と街灯をつけた通りのお店の徴収金で賄っているんだよ。始めの頃はお店側から反発もあったんだけど、いざ始めてみるとお店の売り上げが上がって街灯は歓迎されたんだよ」
「そんなことがあったんですね。街灯は増えないんですか?」
「いや、これからも増えていく予定だよ。僕が街灯の主要部分を作る仕事をしているからね、纏まった数ができたら街灯は徐々に広がっていくよ。それに美味しい話を聞きつけたお店の人が早く作ってくれって要望するくらいだしね」
この人が街灯を作っていたんだ。重要な部分をまとめてつくってから、街灯を建てる工事をするってことかな。一つずつ作っていたら余計な時間がかかりそうだし、そのやり方がよさそうだよね。
「話につき合わせて申し訳ないね」
「いえ、街灯の成り立ちが分かって良かったです」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。このクエストを見かけたら是非受けて欲しい。君なら大歓迎さ」
「はい、その時はよろしくお願いします」
不定期の仕事だけど、纏まった働き口が見つかって良かった。他に仕事がない時にぜひ受けさせてもらおう、領主さまにも関われるからね。その内直接的なクエストが出てきたらいいな。そのためにも早くランクを上げておかないと。
コーバス街灯組合を出ると、辺りは薄暗くなっていた。背負っていたマジックバッグから買っておいたランタンを取り出すと、スイッチを押して灯りをつける。その灯りを頼りに通りを進んでいった。
この灯りがあるおかげで、暗くなった時でも行動できるようになった。活動時間が増えたお陰で働く時間がしっかり確保できるのがいいし、夜の町を歩けるようになったから楽しい。
今日は外で夕食を食べてみよう。どんな食べ物があるか楽しみだな。
◇
翌日、朝食を食べ終えた私は前回と同じ時間に冒険者ギルドまでやってきた。まだ早かったから並んでいる人は誰もいない。一人で並んでしばらくすると人が集まってくる。
今日は前回のようにならない。扉が開いたらすぐにクエストボードに移動して、クエスト用紙を素早く読んで、クエスト用紙を取ってカウンターに並ぶ。よし、イメージトレーニングは完璧。
冒険者ギルドが開く時間が近づいてくると、扉の前は人でごった返している。今日は後ろの人には負けない、一番にクエストボードに辿り着いて見せる。
気合を入れていると、扉の向こう側から物音が聞こえてきた。その音が止むと両開きの扉がゆっくりと開かれた。
「冒険者ギルド、始まりまーす」
その一言が言い終わると、すぐに動き出した。早歩きで扉の先へと移動すると、クエストボードに一直線に向かっていく。今日はまず先にやることがある、領主さまのクエストがないか素早く見て回ることだ。
後ろの人に負けないようにクエストボードに近づいていくと、青いクエスト用紙が無いか見ていく。まだ人だかりができていない状態なので、見て回れるスペースがある。素早くクエストボードを見ていき、青いクエスト用紙を探していく。
順々にクエストボードを見ていくが青いクエスト用紙は見つけられなかった。全てのクエストボードが見終わった時には、人だかりができており移動が困難な状態になっている。まぁ、目的は達成されたから問題ない。
最後に見ていたクエストボードのクエスト用紙を眺めて仕事を探していく。できるだけ素早くみていくが、それでもクエスト用紙は次々に取られていく。気持ちが焦りそうになるが、辛抱してクエスト用紙を見ている。
仕事探しは始めたばかりだから遅いのは仕方ない。今は自分に合う仕事をしっかりと見つけていくことが重要だ。気を引き締めてクエスト用紙を見ていく。
一つずつ見ていくと、あるクエスト用紙に目が留まった。誰も手を伸ばさないそれは冒険者経験者歓迎、という言葉が一番目立つところに書かれてあるクエストだ。
思わず手が伸びてクエスト用紙を取ってしまった。それを手に持ったまま人だかりを抜けた先でクエスト用紙を読みこんでいく。
「ギルド補助員募集?」
それは冒険者ギルドの求人募集だった。仕事内容は受付の補助、クエスト用紙に関わる全般のこと、他の雑務と書いてあるけど良く分からない。最後に詳しい話を聞きたい方はカウンターまでお越しくださいと書いてあるだけだ。
クエスト用紙には書き切れないほどの仕事があるのかな、それとも書いて説明するよりも口で説明した方がいいからこんな書き方になったのかな。このクエスト用紙だけでは判断がつかない。
どうしようかと悩んでいると、給金の欄を見てみると15000ルタと高い設定になっていた。いやコーバス全体の仕事が高いような気がするけれど、まだ二回目の仕事だから何が正しいかなんていうのは分からない。
うーん、15000ルタでギルド補助員か。ギルドのことを知れて今後のためになりそうだし、色んな冒険者を見ることができて勉強にはなるし、私にとってはいいクエストなのかな?
仕事内容はこれじゃ何も分からないから、直接聞くとして……押しに弱いから流されないようにしっかりと自分の意思を持って臨もう。うん、とりあえず話を聞くだけ聞いてみよう。
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