144.コーバスでの初仕事(4)
午前中の魔力注入を終え、少し遅めの昼食を取るためお店へとやって来た。席についてメニュー表を見て、店員に食べるメニューを伝えると、私は力尽きたようにテーブルに上半身を突っ伏した。
「はー、疲れた」
2時間集中しっぱなしで精神的に疲れていた。体の負担は少なかったのは良かったけど、魔力を注入するって本当に精神力を使うから大変だ。もしかしたら、討伐のほうが気楽でいいのかもしれない。
魔力も大分減っていて、昼食前に魔力回復ポーションを一つ飲み干している。これで魔力が回復してくれれば疲労も軽くなるんだろうけど、また魔力を使って注入するからまたこの疲労を味わうことになりそうだ。
そんな疲れた自分を励ますためにも美味しいものを食べないとね。というわけで、私は綺麗で可愛いお店に入って来た。ここにはパンケーキがあるらしくて、疲労で甘いものを欲していた私はこの店に飛び込んだ。
パンケーキか、ホルトにはなかったしゃれた食べ物を食べられるだなんて都会に来て良かった。もしかしたらホルトにもあったかもしれないけれど、私には見つけられなかったし、これも都会にきた恩恵かな。
パンケーキのことを考えるだけで沈んでいた気持ちも上昇するし疲労も軽くなる。頬杖をついてパンケーキを待っていると、店員が近づいてきた。
「お待たせしました、パンケーキの果物盛り合わせです」
テーブルの上に皿を置かれる。薄焼きのパンケーキが段になって重ねられていて、上から甘いシロップがかけられていた。そのパンケーキの隣には色鮮やかな果物が可愛くカットされて乗せられている。
おお、こんなに可愛らしい昼食は初めてでテンションが上がるよ。初めは集落の一日一食のスープと小さい芋、働き始めてカルーと一緒に食べた昼食、討伐を開始するとロイと一緒に焼いたホーンラビット、他にも働きながら色んなものを食べたな。
それでもパンケーキは食べられなかった。ホルトはあまり店が充実していなかったから、メニューはどこも似たり寄ったりしていた。けど、コーバスでは違うみたい、ざっと見ても色んな料理がありそうだった。
ここにきて食事の質がぐんと上がった、まぁその分かかるお金も上がってしまっているけど。それでも、日々の楽しみが増えた事には変わりなかった。今日はこのパンケーキを美味しくいただこう。
フォークとナイフを持ち、パンケーキを一口に切り分けて頬張る。ふわっとした感触に甘いシロップの味が広がって、何とも言えない幸せな時間になった。切り分けた果物を食べると、酸味が甘みをリセットしてくれていくらでも食べられそうだ。
夢中で食べ進めていくと、皿の上からあっという間にパンケーキと果物が消えてしまった。幸せな余韻を堪能しながら、フォークとナイフを置く。あー、美味しかったごちそうさまでした。
お腹が膨れただけでなく、甘く美味しいものを食べたお陰で気力が満タンに回復した。魔力注入の疲労も気づけばなくなっていて、お昼の注入も頑張れそうだ。よし、お昼のお仕事に行こう。
◇
甘いパンケーキを食べて気力十分になった私は昼の魔力注入を始めた。紙を見ながら魔力注入する街灯を見つけて、意識を高めて魔力注入をする。一つにかかる時間は10分~15分くらいだ。
連続で注入すると集中が続かないので、一時間に10分くらいの休憩を挟みながら仕事を続けた。黙って座って魔力注入の時と比べて、立って移動しながら魔力注入をするのでそれが気晴らしになって良かった。
まだ慣れない町をじっくりと見て回れたのも良かった。大きな通り限定だが、どこに何があるのかとか、この辺りにはどんな店が集中しているのか分かって今後行動しやすくなるかもしれない。
そんな風に仕事の合間も楽しみながら魔力注入をしていくと、気が付いたら日が沈み始めていた。慌てて残りの本数を数えてみると、4本で終わりそうだ。なんとか日没前までには終わらせたい。
最後は疲れちゃうかもしれないけれど、少し力んで魔力注入を終わらせていく。最後の一本を終わらせて空を見上げてみると、なんとか日没前には終わらせることができた。
いつもだったら仕事は終わっていてとっくに夕食を食べている時間だ。気が焦ってしまいコーバス街灯組合まで走って移動する。辺りは暗くなったのに人通りは多い、人にぶつからないように通りを進んでいく。
すると、周囲にあった街灯が光りだした。一体どういう原理で光っているのか分からないけれど、薄暗くなったから走りやすくなって助かる。急いでコーバス街灯組合に向かう。
街灯のない通りに入ると、歩いている人は手にランタンを持って歩いていた。そういえば、ランタンを買うのを忘れていた、こういう時のために買っておいた方がいいよね。明日、時間があったら買いに行こう。
通りを進んでいくと、コーバス街灯組合に辿り着いた。上がった息を整えてからノッカーを鳴らす。黙って待っていると、奥の方で物音が聞こえた。そして、足音が近づいてくると扉が開く。
「はいはい、あ。魔力補充終わった?」
「はい、ここに書いてある街灯は全部終わりました」
「そっか、ありがとう。報酬を中で渡すから、とりあえず中に入って」
ランタンを持った男性が現れた。中へ誘導されて、部屋の中に入って行く。促されるままに席に着くと、ランタンをテーブルの端に置いた。
「もうちょっとかかると思ってたけど、早く終わってなによりだよ。じゃあ、まず報酬の14000ルタね」
男性は棚にあった箱から銀貨を取り出すと、それを私の前に置く。銀貨が14枚だ、このお金は貯金せずに自分で持っていよう。マジックバッグから袋を取り出して、銀貨を中に入れた。
「魔力回復ポーションは全部使った?」
「はい、全部使ってしまいました」
「足りない状況じゃなくて良かった。体調も大丈夫そうだね」
話ながら男性は席へと座り、話を続ける。
「ところで、明日以降の仕事ってどうする?」
「明日は冒険者ギルドに行ってまた仕事を探そうかなっと思ってました」
「だったら、数日間ここの仕事をしてくれないかな? 他の仕事がいいなら仕方ないけど」
追加の仕事の依頼だ! 領主さまに関わるクエストだから、ぜひやっておきたい。
「私で良ければよろしくお願いします」
「そう、良かった! 不定期の仕事だから人が定着しなくて、いつも人探しが大変だったんだよ。これでしばらくは大丈夫そうだ」
私も領主さまに関係したクエストに関われて本当に良かった。領主さまのために何かしたいっていう気持ちでコーバスに来たんだから、やる気は十分だよ!
「できるだけ負担がかからないように魔力補充をお願いすると思う。魔力回復ポーションは使ってもらうけれど、今日よりは数が少なくするつもりだから安心して」
「それは助かります。回復しながら魔力補充をするのは結構疲れるので」
「そうだろうねぇ。こんな小さい子にお願いするのは気が引けるんだけど、よろしく頼むよ」
「任せて下さい。精一杯頑張ります」
よろしくお願いします、と頭を下げると男性は満足したように笑ってくれた。その日はそれで解散となって、翌日からしばらくコーバス街灯組合に通うことになった。
最初はどうなることかと思ったけど、結果的にいい仕事にありつけたと思う。まずは今の仕事を順調に終わらせることを考えよう。
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