143.コーバスでの初仕事(3)

 クエスト用紙に書かれた住所を見つつ町の中を進んでいく。えーっと、まだ先か。24,25、26……ここだ。この通りの、結構近くにありそう。えーっと、これじゃないし……あったあれじゃないかな?


 目的の建物を見つけることができた。そこはこぢんまりした建物で他の建物に比べると小さい。それでも三階まであるんだから、立派な建物だ。建物には看板が掲げられていて「コーバス街灯組合」と書かれている。


 うん、ここだ。一度深呼吸をして心を落ち着かせると、扉についているノッカーを鳴らす。だけど、反応はない。今度は扉の取手に手をかけると、簡単に開くことができた。


「ごめんください」


 声をかけて、もう一度ノッカーを鳴らす。


「はーい」


 建物の奥の部屋から声が聞こえてきた。しばらく待ってみると、廊下の奥にあった扉が開き30代後半の男性が現れる。


「冒険者ギルドから来ました」

「あ、街灯の魔力補充? 良かった、今日は来ないんじゃないかって心配してたんだから。さぁ、奥の部屋に入ってきて」


 良かった、あってたみたい。男性は出てきた部屋に戻ると、私はその後を追った。短い廊下を進んで先にある部屋の中に入る。部屋の中はテーブルとイス、様々な物が置かれた棚があった。


「まず、イスに座って」


 言われた通りにイスに座ると、目の前のイスに男性が座った。


「まずは質問させてもらうね。街灯の魔力補充は初めて?」

「初めてです」

「他に魔力補充とかしたことある?」

「魔石に魔力を補充したことがあります」

「魔力量はいくらくらいある?」

「C+あります」


 質問に淡々と答えているけどこれでいいのかな?


「なるほど分かった。魔石への魔力補充をしたことがあるんだったら問題ないよ。ぜひ、街灯への魔力補充の仕事をして欲しい」

「ありがとうございます」


 良かった、採用になったみたい。魔石への魔力補充で問題ないっていうんだから、やり方は同じなのかな?


「街灯への魔力補充をしてくれる求職者は少なくてね助かるよ、まぁ魔石の方に人が流れているせいもあるんだけどね。冒険者は片手間にやってくれるんだけど、その日によっていたりいなかったりするからね」


 男性はそう言いながらイスから立ち上がり棚から大きな箱を取り出してテーブルの上に置いた。


「まず簡単に現物を見てやり方を説明するね。街灯にはみんなこの箱のようなものがついているんだ。その箱の鍵を開けると……魔力を補充する魔石が現れる」


 箱の鍵を開けると、中から現れたのは魔石と見慣れない管のようなものだ。


「この魔石に魔力を補充してもらうだけでいい。あとは、街灯の先端の部分が時間になると勝手に光ってくれるんだ。ちなみにこの管は魔力の通り道だから、壊さないようにしてね」

「こんな構造になっていたんですね。盗まれたりとかしないんですか?」

「盗まれることもあるよ。でも、ここ最近では滅多にないかな。何と言ってもこの街灯は領主さまの権限で作られた町の備品なんだ。だから、盗んだ人には重い罰が課されてしまう。その重さを知ると盗みたくなくなるよ」


 この街灯は領主さまの権限でつけられたものなんだ。ということは、領主さまの関係のクエストができるってこと!? コーバスでの初めてのクエストが領主さまに関わり合いのあるクエストで嬉しい、これは頑張らないとね。


「今から魔力を補充して欲しい箇所を記した用紙を用意するから待っててね」


 棚から紙の束と一枚の紙を持ってくると、紙の束を見ながら一枚の紙に何かを書き始めた。それを覗き込むと、どうやら住所のように見える。なるほど、書かれた住所のところを魔力補充するみたいだ。


 しばらく待っていると、書き終わったのかペンを動かす手が止まった。


「ちょっと多くて魔力切れになる可能性があるから魔力回復ポーションを3本渡しておくね。規定よりも量が多くなっちゃったから、日給は14000ルタに上げようと思う」


 規定よりも多い数をこなすことになるんだ、これは気張らないといけないかな。魔石での魔力補充の修羅場みたいなものなのかな、ちょっと不安になってきた。けど、ポーションもあるし日給も上がったしやるしかないよね。


 男性が棚から3本の魔力回復ポーションを取り出してテーブルの上に置き、先ほど書いた紙も差し出してきた。私は受け取ったポーションをマジックバッグに入れて、紙を手に持って書いてある住所を読む。


「そうそう、休憩は好きな時に好きなだけとってもいいよ。昼食も好きな時にとってもらってもいい。ただし、ここに書かれている通りは全て今日中に終わらせて欲しいんだ」

「分かりました。もし途中で魔力が足りなくなったらどうしたらいいですか?」

「そうだなぁ、その場合は一度ここに戻って来てもらってもいいかい? 時間によってはそのまま終了っていうこともあり得るし、時間があるなら追加で魔力回復ポーションを渡すことになるよ」


 話を聞くと急ぎの仕事かな、と思った。やる人が少ないっていうから、魔力補充が満足にできていないのかもしれない。領主さまが建ててくれた街灯だから、魔力切れで光らないっていうことにならないようにできる限り頑張ろう。


「じゃあ、よろしく頼むよ。あと、これが箱を開ける鍵ね、なくさないように。それと終わったら必ずここに顔を出してね」

「分かりました、精一杯頑張りますね」

「頼りにしてるよ」


 よし、初仕事だ。紙を手にして、私は建物を出て行った。


 ◇


 紙を見ながら書かれている住所の通りに向かっていく。と、言っても街灯があるのは大きな通りしかないから道が分かりやすい。この時間になると通りは人で溢れかえり、見たことが無いくらいの沢山の人を見る。


 普通の服の人も居れば、奇抜な服を着た人もいて見ていて飽きない。冒険者も歩いていて、馬車も通っている。周りはガヤガヤと煩くて、改めてここがホルトとは違う都会なんだなぁと思った。


 周囲を見学しながら進んでいくと、目的の通りが見えてきた。あとはこの紙に書かれている番号の街灯を探すだけだ。えーっと、これじゃないな、もっと奥の方になりそう。


 一つ一つ確認していくと、まず始めに魔力補充をする街灯が見つかる。うん、これにすればいいんだね。早速、箱の鍵を開けて扉を開けると魔石が見えた。これに触って魔力を注入していこう。


 魔石に手を置いて深呼吸をする。それからゆっくりと体中の魔力を手に集めて、魔力を押し出すように放出していく。でも、なんだかいつもより魔力の流れが悪い気がする。


 この魔石は特別なのかな、以前やった時とは違う感覚になる。でも、力を入れて注入すると体の負担になるし、今回はゆっくりと時間をかけての注入作業になりそうだ。


 意識を集中させてじっくりと魔力を注いでいく。次第に周りの喧騒が遠くに聞こえて、集中できているのが分かる。身動きを取らずただじっとして魔力を注入するのは集中がいる。


 ゆっくりと入っていく魔力の感覚を感じながら入れ続けていると、魔力が反発した。これで魔力補充は完了となる。手を離して、箱の扉を閉めて鍵をかけた。思ったよりも時間がかかり、少しの疲労を感じる。


 これをまだまだ沢山やることになるのか、簡単そうな仕事に見えて結構大変な仕事だ。まぁ、簡単な仕事なんていうのはないよね。一息つくと、隣の街灯まで歩いて近づいていく。とにかく集中が切れるまで、ドンドン注入していこう。

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