142.コーバスでの初仕事(2)
「次の方どうぞ」
ようやく自分の出番がきた。カウンターに近づいてクエスト用紙と冒険者証を差し出す。
「お願いします」
「お預かりします。少々お待ちください」
受付のお姉さんが用紙と冒険者証を受け取ってクエスト受領の手続きを済ませていく。紙に何かを書いたり、後ろを向いて作業をしたり忙しそうにしている。
「お待たせしました。では、このクエスト用紙に書かれている住所までお越しください。それとこちらの券にクエストが終わったらサインを貰って、カウンターまでお出しください。券の提出は後日になっても大丈夫です」
「あのこの券っていうのは何ですか?」
「初めての方でしたか、申し訳ありません。この券はクエストが成功したかどうかを計る基準となり、ランクアップに必要な経験値になります。なので、この券の提出を忘れてしまいますとランクアップに繋がる経験値が貰えません」
なるほど、これがホルトでいう提出用のクエスト用紙になるんだね。こっちは小さな券になるんだ、じゃあ今度からこれにサインを貰って冒険者ギルドに出せばいいのか。
「他に何かありますか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」
お辞儀をしてその場を離れる。えっと、住所はっと……ふむふむ、ここからそう遠くない場所にありそうだ。住所の見方は昨日の案内の男の子に教えてもらったから問題ないとして、あとは実際にその場所に辿り着けるかだよね。
この町は地区に分かれて番号がつけられていて、さらに通りに番号が振ってあり、なんと建物一つずつ番号が割り振られている。その番号配置の癖さえ分かっていれば、住所の番号を見ながら町を歩けるのだ。
あとは方向さえ間違わなければ、目的地があれば目指して進んでいける。そういえばホルトでは住所みたいな番号を教わらなかったけど、ここよりも小さな町だから間違わずに歩けたね。
さて、行く場所も分かったし遅れないように急いで行こう。
◇
通りの標識を確認しながら町の中を歩いていった。目的の通りを見つけると、今度はその通りを進んでいく。それから建物の番号を確認しながら通りを進んでいくと、目的の建物に辿り着いた。
お店はまだ開店してないみたいだけど、扉は開いているみたい。ここから中に入るんだね、コーバスでは初めてだからちょっと緊張してきたな。深呼吸をして心臓を落ち着かせると、扉を叩いて中に入る。
「ごめんください、冒険者ギルドからやってきました」
中に入ると女性が二人見えた。その二人は不思議そうな顔をしてこちらを見て、固まっている。えっと、働く場所はここであっている……よね。
「もしかして求職者かい?」
「はい、そうです」
「可笑しいねぇ、求職者ならもうここにいるんだよ」
「えっ?」
ど、どういうこと? 確かこのクエストは応募人数は一人だったようだけど、ここに二人の求職者がいるってことになっているよね。店の責任者と私は複雑な表情を浮かべていると、求職者と思われる女性が何かに気づいたように声を上げた。
「もしかして、クエストが重複していたんじゃないかしら」
「クエストが重複ですか?」
「えぇ、時々あるのよね。ギルドの職員が間違ってクエスト用紙を重複して作ってしまうことがあるのよ」
ということは、今回はクエストの重複ミスに当たってしまったってこと。そ、そんなことなんてあるんだ。クエストの受領の時にはそこまで確認する時間もなかったし、いやその前にクエスト用紙を同じものを二枚書いてしまうミスもあるかもしれない。
「そういう場合は、求職者の間では早い者勝ちになるのよ。だから、申し訳ないけどあなたは受けられないわ」
「そうなんですね、教えて下さってありがとうございます」
「折角きてくれたのにごめんなさいね」
「いえ、仕方ないです。では、私は失礼しますね」
そうだよね、そういう場合は早い者勝ちになるよね。まさかコーバス初の仕事が受けられない事態になるなんて思ってもみなかった。今回は運がなかったのかなぁ、やる気が空回りしちゃいそうだ。
肩を落としながら店を出る。大きな町の仕事だ、ホルトではなかったことが起こってしまう。それにしてもクエストの重複か……そういうことがあるから朝の時間はあんな風に競争になるんだろうか。こんなことがあったらタイムロスになっちゃうしね。
よし、気持ちを切り替えていこう。時間は……まだ10時前だ、今日は始まったばかりだからこれから戻って仕事を探そう。いい仕事が残っているか分からないけど、戻ってみないと分からないよね。全部なくなっているってことはない、よね?
◇
私は来た道を駆け足で戻っていき、また冒険者ギルドにきた。中に入ると朝のピークが終わったのか、朝よりは人が少ない。というか、朝一番は町民の姿がいっぱいあったが、今では冒険者の姿が多く見受けられる。外の冒険者はこの時間帯から活動を始めているのかな?
少しずつ冒険者ギルドのことが分かってくる。少しずつ情報を手に入れて、私も溶け込むようにならないとね。外の冒険者の行動は遅い、そう覚えておこう。
さて、そんなことよりクエストボードだ。人が少なくなったクエストボードに近づくと残ったクエスト用紙を確認していく。朝一番に比べるとその数はかなり減っていたが、全くないということはない。
人が少ないのでクエスト内容を吟味できるが、のんびりしている暇はない。素早く読んで素早く決める癖をつけなければ、朝の競争に負けてしまう。できる限り早く読んでいき、自分の受けられるクエストを探していく。
一つ目のクエストボードには自分が受けられるクエストはなかった。今度は裏側を見たがここにもなかった。二つ目のクエストボードに移動してクエスト用紙を眺めていくと、あるクエストが目に止まった。
「街灯の魔力補充」
日給は12000ルタ、都会だから高いのかそれとも仕事内容のお陰で高いのかは分からない。けれど、これだったら宿代と食事代を賄える上に貯金もできそうだ。集落にいた頃に比べてほぼ全額貯金に回せないのが痛いけれど、これは仕方がない。
街灯っていうことは、外にあるあの街灯のことだよね。あれって魔力で光っているんだ、それとも私には分からない構造とかしているのかな。詳しくは分からないけど、魔力補充ならやったことあるから私でもできるかな。
魔石に魔力を注入する感じなのか、それとも別の何かなのか……行ってみないと分からない。まぁ、魔力補充だから難しいことはないよね。やり方も教えて貰えるようだし、これを受けてみよう。
クエストボードからクエスト用紙を取り外すと、カウンターの列に並んで待つ。人はそれほど多くないので、スムーズに人は減っていきあっという間に自分の番になった。まず先に先ほどのクエスト重複の件を話さないとね。
「お待たせしました」
「すいません、先ほどクエストを受けた者なんですがクエストが重複していて受けられませんでした」
「それは申し訳ありませんでした。どちらのクエストでしょうか、用紙はありますか?」
「こちらになります」
お姉さんに先ほど受理して貰ったクエスト用紙と券を手渡す。
「こちらですね、誠に申し訳ありませんでした。次はこのような事がないように努めてまいります」
「ありがとうございます。それで、こちらのクエストを受けたいのですが」
「はい、ただいま処理しますね。少々お待ちください」
先ほどとったクエスト用紙と冒険者証を手渡すと、お姉さんは受け取って処理を進めていく。しばらく待っていると、お姉さんがこちらを向いた。
「お待たせしました。こちらのクエスト用紙に書かれている住所までお越しください。あとこちらが券になりますので、クエストが終了しましたらサインを頂いてこちらに出してください」
「分かりました、ありがとうございます」
お姉さんは終始申し訳なさそうにして対応してくれた、なんだかこっちが申し訳なくなる。お姉さん、私なら大丈夫だよ、これもいい経験になったんだから。そんな気持ちを乗せてお辞儀をすると、その場を離れた。
よし、今度こそクエストをやるぞ!
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