106.難民集落周辺の魔物掃討(4)
女性は女衆に連れられて町へと向かっていった。どうやら門の傍で商売をしているおばあさんに会わせるようだ。そこが始まりだからね、頑張って欲しいな。
私は行く場所が違うからついていけなかった。でも、私がいなくてもみんながいるから大丈夫だよね。もし困ったことがあったら手助けをしてあげよう。
これでしばらくしたらあの子供がお腹一杯に食べられるようになるよね。お父さんお母さん、頑張れ。
みんなを見送った後、私は自分の仕事を開始した。みんなが安全に暮らしていけるように、魔物を捜索して討伐しないとね。
今日は森の端から捜索を開始した。新しいところだからじっくりと捜索しないとね。早歩きくらいの速度で森の中を進み、ある程度進むと聴力強化をして周りを探る。
うん、やっぱり動物の音と声しか聞こえない。でも、いないということはみんなの脅威となる存在がいないっていうことだから良いことだ。そのまま捜索を続けていく。
そして、今日も何事もなく捜索は終わった。集落の周りが平穏なのはいいことだよね、このまま魔物が現れないといいんだけど。
冒険者ギルドに行って報告をして、夕食を食べて集落にまた戻ってくる。後は魔力を消費して、今日も一日が終わった。
◇
四日目の朝。いつも通りに朝を過ごして仕事へと出かける。
今日は昨日の女性はいなかった。聞いた話によると、昼の配給を食べながらお金を稼ぐために薬草摘みを家族総出でやるらしい。
子供は慣れさせるためにも今の内に子供だけの集団の中に入れたらしい。子供は不安そうにしていたらしいけど、他の子供が一緒に遊びに誘うと嬉しそうに輪に加わったみたいだ。
今だったら薬草摘みの間に子供の様子も見に行けるし安心だ。少しずつ子供の不安がなくなって、町の中で働ける時までには慣れてくれればいいね。
私も安心して自分の仕事に集中することができる。今日も頑張って森を彷徨って魔物がいないか捜索をしよう。
集落を出発してまずは森の端まで進んでみる。集落から森の端まで歩くのに午前中いっぱいはかかってしまう。道中で魔物の姿は見当たらなかった。
今日もこのまま魔物が見つからないのかな、と思いながら昼食を食べる。食べ終えると今度はルートを変えて集落までの道を歩く。
森の中を早歩きで進み、時々立ち止まっては聴力強化で周囲を探っていた。その時だ、ゴブリンの声が微かに聞こえた気がする。
神経を集中して声が聞こえた方を探ると、ゴブリンがいそうな方向を見つけた。思わず駆け足でその場所へと向かっていく。
近づいていくとゴブリンの気配を感じて、歩みを遅くした。こちらが見つからないように静かに近づいていく。
木に体を隠しながら少しずつ進んでいくと、木々の隙間からゴブリンの姿がチラッと見えた。もう少し近づいて覗いてみると、そこにいたのは普通のゴブリン1体だ。
目的もなく森を彷徨っているみたいで、その歩みは遅かった。本当に西の森にも魔物が現れていたんだ、その時そんな実感がようやく湧く。
姿を隠しながら剣を抜き、切りかかるタイミングを計る。木の裏から覗き見てゴブリンが後ろを向いている時、木の裏から飛び出していく。
走る音を聞き、ゴブリンはこちらを向いて驚いた顔をした。だが、すぐにこん棒を構えて振り上げてくる。
それを見て剣を下に構えると、振り下ろしてくるこん棒目がけて剣を振り上げた。
「ギャッ」
ぶつかったこん棒は弾かれた。その隙をつき、剣を振り下ろす。
「グギャーッ」
ざっくりと切り捨てる。深い一撃により絶命したゴブリンは後ろに倒れて動かなくなった。
うん、身体強化なしでも余裕で勝てるようになっている。力もゴブリンよりも強くなっているし、これもDランクの魔物と沢山戦ったお陰かな。
剣を鞘に納めると、ナイフを取り出してゴブリンの右耳を切り取る。それから腰にぶら下げていた袋の中に耳を入れた。大事な討伐証明だ、無くさないようにしよう。
もしかしたら、他にも入り込んでいる魔物がいるかもしれない。集落に着くまで注意しながら進んでいこう。
◇
結局ゴブリンは1体だけだった。あの後どれだけ注意して進んでもゴブリンの気配はなくて、気がついたら集落に辿り着いていた。
今日の仕事もこれで終了だ。町へと向かって、冒険者ギルドへと寄る。丁度ピークの時間だったので、冒険者はいっぱいいた。
一番少なそうな列に並び、ボーッとしながら自分の順番を待つ。一人、また一人と冒険者が減っていきようやく自分の番がきた。冒険者証を差し出す。
「Dランクのリル様ですね。今日はどういったご用件でしょうか?」
「今受けている難民集落周辺の魔物討伐の件です」
「はい、ではお話を聞かせて下さい」
私はいつも通りに捜索した範囲を伝えた。そして、今日は討伐したゴブリンの耳を提出する。すると、受付のお姉さんの顏がより一層真剣な顔付きになった。
「西の森に魔物が現れたのですね」
「はい。午後になってすぐに見つかった魔物です」
「そうですか。他の場所から流れ着いた魔物だと思われます。放置していたらいずれ集落に現れた事でしょう、討伐ありがとうございます」
西の森で魔物が見つかるのは本当に稀なことだったんだ。お姉さんの態度を見て、改めてそう思った。
「もしかしたら、まだいるかもしれません。明日が最後のクエストになりますが、気を引き締めて魔物捜索に当たって下さい」
「はい、もちろんです。みんなの平和は私が守ります」
「よろしくお願いします。集落に住んでいる難民は魔物には無力な存在です。最後までよろしくお願いします」
そう言ったお姉さんは座りながら深々とお辞儀をした。真摯な態度を受けてなぜか私が嬉しくなる。難民のことをこんなにも考えてくれるなんて、なんて嬉しいことだろう。
「はい、頑張ります!」
明日はもっと頑張ろう、そう強く思った。集落に住むみんなのために、対応してくれる受付のお姉さんのために、そして何よりもこのクエストを出してくれた領主さまのために。
強い決意を胸に私は冒険者ギルドを後にした。
◇
最終日がやってきた。朝から気合を入れて着替えると、元気よく広場までやってきた。気合の入りようが分かりやすかったためか、周りの女衆からは不思議がられた。
「リルちゃん、今日はどうしたの? いつもとなんだか様子が違うわ」
「はい、今日で集落周辺の魔物討伐が最終日なので気合を入れて魔物の捜索をしようと思ってます。絶対に魔物を見逃したりしません!」
ふん、と気合を入れる。話を聞いた女衆は笑いながらも応援してくれた。うん、みんなが平和に暮らしていけるように今日は今まで以上に頑張って行こう。
気合を入れて配給して、気合を入れて配給を食べた。お腹も満たされたし、気合を入れて魔物の捜索をしよう。
午前中は森の外側まで歩いて捜索、午後は外側から集落がある内側に向けて捜索をする感じだ。一日で森の全部は調べられないのが残念。
ここは私の運頼みでいこう。お願いします運様、森に魔物がいたら遭遇させてください。むむむ、よし行こう。
私は気合を入れて森の外側に向かって歩き出した。
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