107.難民集落周辺の魔物掃討(5)
「ようこそ、冒険者ギルドへ。冒険者証をお願いします」
受付のお姉さんに言われて冒険者証を差し出す。お姉さんはそれを受け取って話を進めた。
「今日はどういったご用件ですか?」
「難民集落周辺の魔物討伐についての報告です」
「はい、ではお話を聞かせてください」
ここ五日間と同じやり取りをして私は話し始める。
「今日の午前中は森の端まで行き、しばらく端を捜索しました。昼食後、ルートを変えて集落までの道で捜索を続けました」
「魔物と遭遇しましたか?」
「魔物とは遭遇しませんでした」
「そうですか、ただいま確認を取りますので少々お待ちください」
気合を入れて魔物捜索に挑んだが、魔物を見つけることができなかった。いや、本当にいなかったのかもしれない。懸命に捜索した結果だから、この結果を受け入れよう。
不安なら集落のお手伝いの日に周辺を捜索してみるのも手だろう。そしたら近くに魔物がいれば自分が討伐すればいいだけのことだから。うん、そうしてみよう。
「お待たせしました。今日が最後の魔物掃討クエストでしたね。五日間、このクエストを受けてくださってありがとうございます。集落に住む難民たちも安心して暮らせることでしょう」
「はい、こちらこそクエストを紹介してくれてありがとうございます」
「では、こちらが報酬の10万ルタになります」
「全額貯金でお願いします」
「かしこまりました」
手持ちのお金はまだあったから報酬は貯金した。お姉さんが貯金の処理が終わり、冒険者証を返してくれる。
「また、よろしくお願いしますね」
「はい、こちらこそお願いします」
頭を下げてお辞儀をした。うん、このクエストは今度あったらまたやりたい。自分の手でみんなを守れるんだ、こんなに強いやりがいはないから。
そのまま冒険者ギルドを出ようとした時、出入口から見知った人が現れた。難民集落の代表者だ。
「お、リルか。今日の仕事が終わったのか?」
「はい、今日で難民集落周辺の魔物掃討が終わったんです」
「そうか。良かったら夕食を一緒に取りながら話を聞かせてくれないか? 代表者として聞いておきたい」
「大丈夫ですよ。待合席にいますね」
「なら、ちょっと待っていてくれ。報告してくるから」
そう言った代表者は受付の列に並んだ。私は待合席に行き、イスに座って終わるのを待った。
◇
夕食は代表者がいつも行っているお店になった。そこで五日間の魔物掃討のお話をしつつ、食事をする。代表者は終始真剣な顔で聞いてくれた。
魔物を1体仕留めたという話をすると、代表者はとても驚いた顔をする。西の森で魔物が現れることは稀だから、そんな反応をするんだろう。
広い森の中で遭遇できたのはもしかしたら運が良かったのかもしれない。今更ながらそう思う。
話と食事が終わり、その後の会計で夕食の代金を奢ってもらった。なんだか申し訳ない気持ちになったけど、厚意を無駄にするわけにもいかず素直に奢られる。
夕暮れに染まった町を歩いて、集落までの帰路につく。誰かとこうして帰るのは初めてでなんだか落ち着かない。
「リルのお陰でみんなが安心して暮らせる。ありがとな」
「いえ、私はクエストを受けただけなので」
「そうだな、本当に感謝をしないといけないのは領主さまだな」
このクエストは領主さまが直々に出してくれたクエストだ。本当なら見捨てられても可怪しくはない存在なのに、居座っている邪魔な存在なのに気にかけてくれる。
配給をするだけじゃなくて、町の外にしかいられない存在なのに魔物のことまで考えてくれている。領主さまのお陰で私たちは生きていられるんだ。
「難民になった理由は人それぞれだが、みんな住んでいるところを追われた」
代表者が突然語りだした。顔を見ているとその顔はとても真剣で思わず口を噤む。
「ろくな助けもなく、本当なら野垂れ死にしそうなところをなんとか寄せ集まって生き永らえてきた。普通なら寄せ集まったとしても、上手くはいかなかっただろうな」
理由は様々あれど、みんな住んでいるところを追われた身だ。途中で救いの手を差し伸べられた人もいたかもしれない、だがそれがなかった人たちはあの集落に辿り着いた。
あの集落の始まりがどんなものだったのかは分からない。ただの寄せ集めで集落を形成するのはとても大変なことだったろう。でも生きたいという強い願いが上手く重なってあの集落はできたんじゃないかな。
「なんとかみんなで集落を完成させた時に領主さまからの使者が来たらしい。本当ならそんなものを作られると困るから潰される。だけど、領主さまは許してくれた」
そうだよね、町の近くに集落を作るとバレないわけないもん。領主さまの土地で許しも得ずに勝手に住むところを作っているっていうことだもんね。
町でも村でも土地で暮らすために税金を払っているのに、住む場所がないから集落を作っていいわけじゃない。税金を支払っていないのは不公平だ。
普通なら集落の撤去を求められる。だけど、領主さまはこの集落を存続してもいいと言ってくれた。
「集落をそのまま使ってもいいと言ってくれたんだ。しかも、それだけじゃない。この集落に住んでいる時は税金が免除され、生きていくのに最低限な食料を分け与えてくださった」
当時の難民の人たちは驚いただろう。本当なら撤去されても可怪しくない集落を存続させてくれるだけじゃなくて、最低限の配給まで手配してくれたんだから。
しかも、住むだけで税金が取られる世なのに、その税金まで免除してくれているんだから。普通なら捨て置かれる存在なのに、領主さまのお陰で集落にいる難民は生きていける。
「領主さまの考えはそれだけじゃ収まらなかった。我々が普通に暮らしていける日を真剣に考え、冒険者という道を指し示してくれたんだ。冒険者ギルドにわざわざ掛け合って、我々が働いても大丈夫な環境を整えてくださった」
そっか、領主さまが私たちの道を整えてくれたんだ。だから冒険者ギルドへ行っても変な目で見られないし、しっかりと対応してくれていたんだね。
私たちは領主さまに守られていた存在だったんだ。住むところを追われて行き場のない私たちだったのに、こんなに手厚く保護してくれた。
領主さまの力添えがなかったら、先のない難民生活を今頃過ごしていただろう。でも、難民脱却への道を整えてくれたから今の私たちがいるんだ。
「そんな領主さまのために俺ができることを少しでもやろうと思っている。集落のためになることは、きっと領主さまのためになることだと思う」
「そうですね。私も今の話を聞いて、なにか領主さまのためにできることはないかって考えてました」
「難民が減り町に住む住民が増える事が領主さまのためになると思っている。そのことについて、他のみんなにも協力してもらっているんだ。お陰で働く人がどんどん増えてくれて嬉しいよ」
そっか、他の難民の人たちが積極的に色々と教えてくれていたのは、代表者の働きかけがあったからなんだ。それにみんなが同調して、それぞれが面倒を見てあげていたんだね。
難民としての居場所も、食べ物も、脱却の道も……全て領主さまの働きかけのお陰だったんだ。分かっているようで、分かっていなかったな。
なんだか胸の奥が熱くなってきた。私もこの人のように、何か領主さまのために動いてみたい。いや、動くんだ。
そうだ、私は難民だけど冒険者だ。領主さまの困っている依頼を受けて、完璧に達成したら少しは領主さまのためになるかな。そうと決まったら明日から領主さまの依頼をこなしていこう!
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