104.難民集落周辺の魔物掃討(2)

 集落付近の見回りを再開した。掘っ立て小屋が立ち並ぶ場所を注意深く見て回り、魔物が潜んでいないか確認をしていく。


 今まで集落内で魔物が出たと聞いたことがないので、探さなくても大丈夫かもしれない。それでもゼロではないのでしっかりと確認をしていく。


 だけど、そんな目立った行動をしていると他の難民の目に触れる。距離を置いて怪訝な顔で見張られたりしてしまう。


 私も難民だけど、全員の顔までは覚えていない。それは向こうも同じだ。見知らぬ人が家の周りをうろついていたら嫌な気分にもなるだろう。


 じーっと見られると気になって集中できない。仕方がない、こちらから説明をして今やっていることを知って貰おう。


 遠巻きに見張っていた難民たちのところへ近づくと、話し始める。


「こんにちは、私は領主さまの依頼で集落周辺の魔物掃討の任務についている冒険者です」

「はぁ……」

「こちらが依頼書になります」


 マジックバッグから依頼書を取り出して難民たちに見せていく。難民たちは紙に書かれた文字を読んで、内容を理解したかのように頷いた。


「実は私もここに住んでいる難民なんですよ」

「そうなのか」

「はい、みなさんの仲間でもあります。決して怪しい人じゃありませんので安心してください。安全に暮らしてもらうためにも頑張って魔物を排除していきますね」

「そうだったのか、すまんなジロジロと見てしまって」


 説明をすると難民たちは分かってくれたのか、散らばって行った。良かった、穏便に済んでくれた。一安心をして胸を撫で下ろす。


 それからまた集落周辺の確認作業に入って行く。移動しつつ集落内に魔物が潜んでいないか注意深く見ていった。


 ◇


 午前中は集落周辺に魔物が潜んでいないかしっかりと見回った。結果として魔物はおらず、今すぐ難民たちの周りに危険がないことが確認できた。


 午後からは集落から離れたところを見回ろう。さて、昼食の時間だけど今朝は町に行っておらず食事を買っていない。だけど大丈夫、昨日の内に食事を買っておいてマジッグバッグに入れておいたから。


 今日の昼食は川のそばで食べよう。集落内で食べてもいいけど、一人だけ違うものを食べていると他の難民たちを刺激してしまうからやめておく。


 いつも水汲みでやってくる場所まで移動してくると、マジックバッグから枯れ木を取り出す。枯れ木を組んで焚火の用意をすると、今度は骨組みだけのコンロを取り出す。


 それを枯れ木を囲うように置くと焚火の準備が完了した。後は魔法を使って火をつけると、じわじわと枯れ木が燃えていく。


 次に鍋の用意だ。マジックバッグから鍋とスープが入った入れ物を出すと、鍋の中に冷めたスープを注ぐ。その鍋をコンロの上に置くと、これで準備が完了した。


 ふふふ、なんとなく買っておいたものだけど結構役に立っている。今日のように町にいかない日は前日に食事を買っておいて、こうやって温めて食べるようにしていたから。


 あとはパンを取り出して、そこら辺で拾った枝にパンを千切って串刺しにする。それから、火に近づけて地面に立てて温めていく。


 温かくなっていくスープとパンの匂いが立ち込める。そろそろいいだろう、鍋をコンロから外す。スープを入れ物に入れ直して、マジックバッグからスプーンを取り出す。


「よし、いただきます」


 パン、と手を合わせて昼食の開始だ。温かくなったスープから肉と野菜の煮込まれたいい匂いが漂ってくる。スプーンですくってスープを飲んでみると、旨味がふわっと口の中に広がった。


 一口サイズの肉を頬張る、ホロホロに崩れてその感触だけでほっぺが落ちそうだ。一口サイズの野菜を口の中に放り込んで食べる、優しい野菜の旨味と甘みが広がって幸せな気分になる。


 今度は温かくなったパンを食べる。うん、香ばしくて美味しい。パン、スープ、パン、スープと交互に食べていく、永久機関だ。


 黙々と食べていくと、あっという間に食べ切ってしまった。今日の昼食も美味しかったな。


「ごちそうさまでした」


 はー、お腹いっぱい。少し休憩してから、仕事を開始しよう。


 ◇


 午後の魔物捜索が始まった。今度は集落から離れた場所からスタートする。


 森の中を歩き回り魔物がいないか確認をする。時々立ち止まって聴力強化をするが、魔物らしき声は全く聞こえない。


 歩いては立ち止まり聴力強化、その繰り返しをしてひたすら森の中を歩き続けた。時々、生き物らしき音を拾うが、小動物の音ばかりだ。


 集中力を切らさないで見回るのはとても大変だ。時々ボーッとして歩いてしまう時があって、その都度頭を振るったり頬を叩いたりして気合を入れ直した。


 なので、少し遅い駆け足で森の中を進むことにした。これだと移動が早い利点があり、尚且つ見逃さないように集中力が維持できる。


 そうやって、森の中の捜索を続けていった。すると、時間が立つのは早いものであっという間に夕方前になってしまう。今日の仕事の終わりだ。


 今日は何事もなく終わって良かった。もし魔物が見つかっていたら、難民たちが危ないことになっていたかもしれない。


 仕事は終わりだけど最後にやることがある、冒険者ギルドへの報告だ。これは毎日しないといけなくて、その日どれだけの魔物を倒したのかを報告しないといけない。


 例え魔物を討伐できなくても報告義務があり、怠ると報酬が貰えないそうだ。魔物捜索を切り上げて、町へと向かう。慣れた道を歩いて進むと、夕暮れの時には町に辿り着いた。


 大通りを歩いて進んでいくと冒険者ギルドが見えてくる。今日はいつもよりも遅い時間になっちゃったな。


 中に入るとピークが過ぎたのか、冒険者は少なかった。冒険者が並ぶ列に並び、自分の順番を待つ。今日は沢山歩いたからか、足がとてもだるいな。今日はマッサージをして寝よう。


「次の方どうぞ」

「はい」


 呼ばれてカウンターに行くと、冒険者証を差し出す。


「今日はどういったご用件ですか?」

「今受けているクエストの報告にやってきました」

「ただいまお調べしますのでお待ちください」


 受付のお姉さんが後ろを向き何やら作業をしている。しばらく待ってみると、お姉さんがこちらを向く。


「お待たせしました。難民集落周辺の魔物掃討のクエストですね」

「はい」

「本日の魔物捜索の範囲と討伐した魔物の数を教えてください」

「今日は集落内の捜索と、近い場所の捜索を行いました。魔物は見当たらず、今日の魔物討伐はゼロになります」

「集落の付近の捜索ですね。魔物討伐はゼロっと」


 お姉さんは報告を聞くと紙に何かを書いて記録した。


「分かりました。今日の任務は以上となりますね、お疲れさまでした。明日もよろしくお願いします。報酬は最終日にまとめてお支払いしますね」

「はい、ありがとうございました」


 やりとりは終了した。お辞儀をしてその場を離れると冒険者ギルドを出て行く。簡単なお仕事だけど、気が抜けない一日で疲れちゃったな。


 夕食を食べて、明日の昼食を買いに行こう。あとは魔法を使っていないから、今日の夜は魔法の訓練もしよう。そのためにもしっかりと食べておかないとね。

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