101.北の森戦闘生活

 北の森での戦闘は毎日が新しいことの挑戦で、毎日が大変な戦闘が続いた。


 平原の戦いと比べたら、北の森での戦闘はとても激しい。定型的な戦闘を繰り返しても平気だった平原の戦いから一変して、北の森の戦いは頭の使い方も重要になってくる。


 エイプという魔物はずる賢い。追えば逃げるし、逃げれば追ってくるし、ピンチになれば仲間を呼ぶ。今までの魔物とは全く違う戦闘スタイルだ。


 あと一番厄介だと思ったのが、集団で行動するという習性だ。1体でいることは絶対なくて、少なくて2体、多くて7体の集団を見たことがある。


 その集団で襲い掛かられ、連携を取りながら攻撃を仕掛けてくる。例えば1体が飛び掛かる攻撃をしたら、他の個体は違う攻撃パターンになったりした。


 中には動きを止めるために抱きついてくることもあるから、攻撃だけだと思っていると痛い目にあう。ただの攻撃だけじゃないこともしてくるからとても厄介だった。


 それだけでなく、他の魔物よりも素早く行動してくる。今までで一番素早い魔物だから、倒しにくい。私も力よりも素早さを重視している戦闘スタイルだから、同じタイプだとこんなにもやりにくいんだね。


 エイプとの戦いは毎日、いいや毎回頭を悩ませている。今までにないほどの忙しい討伐生活だ。


 でも、大変だから思う。この生活が楽だと感じた時、私はレベルアップしているんじゃないかって、強くなっているんじゃないかって思う。


 Cランクに上がるその時まで、そうなったらいいな。ううん、そうならなきゃいけないんだ。だから、今日も北の森にきた。


 ◇


 木の裏に姿を隠してエイプの数を確認する。枝に3体、地面に2体、合計5体だ。ちょっと多いけど、突破できなくはない。


 まずは初撃の火球を与えるエイプをチェックする。後ろ向きに座っているあのエイプにしよう。


 その後に地面にいるあのエイプを仕留めて、余裕があればもう1体のエイプにも強襲を仕掛ける。


 とりあえず、この動きでやってみよう。魔力を高めて手に集中させる、火球を作り上げていく。


 火を一杯に詰め込んで、火球を圧縮する。少しは作るのが早くなったかな、火球ができあがった。


 木の裏から目標となるエイプを覗き見る、後ろ向きだ、大丈夫。いつも通り、心を落ち着かせるために深呼吸をする。


 よし、準備完了だ。木の裏から飛び出して、火球をエイプにかざして放つ! 勢い良く飛び出していった火球を見ながら、剣を抜いて身体強化の魔法をかけていく。


 そして、火球が着弾すると同時に駆け出した。


「ギギィィィッ」


 火球を受けて燃え上がるエイプを確認して、次の標的となるエイプに視線を向ける。そのエイプは突然燃え上がった仲間を見て驚いていた。


 こちらには気づいていない、チャンスだ。ぐんぐん速度を上げていき、距離を縮めていく。あと10m……よし間合いに入った!


「ギギッ!」


 ここでようやくエイプが私の存在に気づく。突然のことで対応ができていないらしく、体を硬直させていた。


 その隙をつき、振り上げた剣を力一杯に振り下げた。


「ギギィィッ」


 剣は深くエイプを切り裂いた。切った感触だけでこのエイプは倒れると感じられるほどの手ごたえだ。


 エイプが倒れるのを確認せず次のエイプに視線を向ける。距離にして5mくらい、こちらを見て驚いている顔をしていた。


 すぐに方向転換をしてそのエイプに駆け寄る。身体強化で早くなった体でエイプが驚いている隙に距離を詰め、あっという間に間合いに入る。


 エイプに向け剣を振るった時、エイプの体に動きがあった。後ろに飛んで避けそうになるエイプに向けて剣を振るうが、手ごたえはあまりなかった。


 剣先はエイプを掠める。多少の傷はつけられたが、動けないほどではない。剣から逃げたエイプは急いで木に登り、枝に移動した。


「ギギィッ」


 威嚇をしてきたが仲間を呼ぶ様子はない。なら、ここは畳みかけよう。手をエイプに向けて、魔力を高めていく。手に魔力を集めると、風が弾になる。


 照準をエイプに合わせて、力を溜めて放つ! ドンッと発射されるとエイプが落ちてくる場所へと走り出す。


 目に見えない弾は無防備なエイプに着弾して、枝から弾き飛ばされる。空中に投げ出されたエイプは何もできない、地面に着くまでが勝負だ。


 枝の下まで駆けつけ、あとはタイミングを合わせて剣を振るだけだ。エイプが落ちてくるのを待ち、落ちる速度と剣を振る速度を計算して……振るっ!


 下から切り上げられた剣は上から落ちてきたエイプをざっくりと切る。柄を握る手に伝わる感触で仕留めた、という実感があるほどに深い傷を与えた。


 受け身を取れないほどの傷にエイプはぐしゃりと地面に落ちて動かなくなる。これで3体目、残り2体だ。


「ギギィィッ」

「ギィギィッ」


 残りのエイプは枝の上で暴れていた。威嚇をしているようだが、それ以上の行動は起こさない。


 ここは風弾で落とした方がいいか? そう思っていると、2体は木をするすると伝って降りてくる。そして、距離をあけてこちらを向き、牙をむき出しにしてきた。


 どうやら交戦の意思があるようだ。こういう時のエイプは二種類に分けられる。今のように好戦的な態度をとるか、威嚇しつつも距離を取って様子をみるか。


 今回は好戦的なエイプに当たったらしい、今にも駆け出してきそうな雰囲気だ。でも、ここで自ら戦いに行くのはダメだ、追ったら距離を取られてしまうから。


 だから、こういう時はエイプが先に動くまで待つ。誘い出すように少しずつ後ろに下がっていくと、エイプは離れた距離だけ近づいてくる。


 こうして少しずつ逃げているように見せかけると、エイプの腰が上がり早く攻撃に転じてくれる。その待ち時間で魔力を高めて片手に集めておく。


 じりじりと後ろに下がり、その距離を詰めるエイプ。そのエイプがとうとう動き出した。


「ギギィィッ」

「ギャアッ」


 1体が先に走り、その後ろをもう1体のエイプが追う。片手で剣を構えて、もう片手は魔法の準備をする。


 エイプの動きを見極めるため、集中して見た。先に来たエイプは姿勢を低くして、飛びかかってくる。直線的で分かりやすい動きに、横にジャンプして簡単に避けた。


 すぐに次のエイプに視線を向けて、魔力を溜めた手をかざす。そのエイプはそのまま突進してきた、だけど接触する前に雷魔法を放つ。


 バリバリバリッ


「ギッ、ギッ……」


 直線に放たれた雷はエイプを感電させ、動きを止めた。でも走ってきた勢いを止めることができず、その勢いのまま地面を転がる。


 体を硬直させて、その体はビクついている。これで少しの間は動けないはずだ。逃したもう1体のエイプに視線を向ける。


 感電したエイプを気にする様子はなく、地面を駆けてもう一度こちらに向かって飛び掛かってきた。その動きに合わせて剣を振る。


 剣先はエイプの顔面に突き刺さり、切った。


「ギギィッ」


 顔を切られたエイプはよろけながら地面に着地する。それを見逃さず、逃げられる前にまた剣を振るった。


 動き出したエイプの背中に剣先が掠る、ダメだ浅い。エイプはそのままその場を離れていった。追いかけてもいいが、先に仕留めたいエイプがいる。


 感電したエイプはまだ起き上がれないのか地面に転がっていた。そこへ駆け寄り、剣先を向けて深く突き刺す。


「ギッ、ギッ」


 満足な悲鳴を上げられないまま、感電したエイプが絶命した。さて、残りは傷ついたエイプだけだ。逃げたエイプを探そうとすると、上から声が聞こえてきた。


「ギャア、ギャア、ギャア、ギャア」


 けたたましい叫び声が森中に広がった。まずい、敵を呼ばれてしまう。すぐさま、エイプに向けて手をかざして魔力を高めていく。


 手の前に風弾を作り上げ、すぐに放つ。


「ギャア、ギャッ」


 風弾の衝撃によって枝から落とされるエイプ。その真下に急いで駆けつけると、落ちる速度を見極めて剣を振るった。


「ギィィッ」


 浅い、もう一撃。地面にぐしゃりと落ちたエイプにもう一度剣を振り上げて、今度は突き刺した。


「ギャアアッ」


 今度は手ごたえがあった。エイプはしばらく震えた後、ぐったりと動かなくなる。とりあえず、一段落だ。


 さて、今の声でどれだけのエイプが来るのだろう。まだ戦いは終わらない。

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