100.エイプ戦の成果
手をエイプに向けてかざして、高めた魔力を手に集中させる。目には見えない風が手の先で集まり、弾となっていく。
エイプはその風弾の存在が見えていないため、威嚇以外は行動は取らない。このまま風弾を放つ!
ドンッと飛んで行った風弾は無防備なエイプに着弾して、エイプの体が後ろに飛ぶ。すぐに起き上がるが、やっぱり何が起こっているのか分かっていないらしい。
辺りをキョロキョロと見渡して何かを確認しているようにみえた。そのエイプの視線がこちらに向き、顔をしかめて牙をむき出しにしてくる。
「ギギィィッ」
今の風弾で私が何をしたか気づいたようだ。明らかに敵意をむき出しにしている。すると、その場を移動し始めた。距離をそのままに、場所だけを移動したみたいだ。
エイプなりに考えた末の行動みたいだが、それだと全く意味がない。また、手をかざしてみる。風弾を作ろうとすると、エイプが嫌な顔をした。
どうやら気づいたらしい、手をかざした後に衝撃がくることを。すぐに移動するエイプだが、向ける手は下ろさない。
移動するエイプを追うように手をかざし続けると、エイプもずっと移動し続ける。そんなやり取りがしばらく続いた。
「ギィィッ」
先に痺れを切らしたのはエイプだ。今度は木に登って高い枝に移動した。そこに手を向けてもエイプは威嚇するだけで移動しない。
どうやらここだと届かないだろうと考えたようだ。が、それだとなんの意味もない。手をかざしまま、また風弾を作っていく。
手の前で風が集まり、弾となっていく。すぐに完成すると、照準をエイプに合わせて放った!
ドンッと発射される風弾はやっぱりエイプには見えないのか、全然移動しようとはしなかった。だから、また風弾がエイプに着弾する。
「ギャッ」
風弾を当てられたエイプが枝から落ちる。私は剣を抜き、再びエイプが落ちる場所まで駆けつけていく。今度は間に合いそうだ。
エイプが落ちてくる真下に辿り着くと、剣を振るタイミングを見計らう。あと少し、もうちょっと……ここだ!
地面に着地する前に剣を横一閃に振る。剣は確実にエイプを捉えて深い傷を負わせることができた。
着地したエイプは傷が深かったのか、その場から1mくらいしか飛んで逃げることができない。ここが追い込みどころだ。
初動が遅いエイプへ間合いを詰めて、振り上げた剣を振るう。少し浅かったか、背中を切りつけるがエイプはまだ逃げようと動いている。
その後を追い、また間合いを詰める。十分に詰めたところで、剣を振り上げて今度は背中の中心を突き刺す。
「ギャアッ」
突き刺されたエイプの動きは止まり、しばらく震えた後に力なく地面に倒れた。剣を抜き、剣先で突いてみるが反応がない。
戦闘が終了したようだ。良かった終わった、安心して息を吐く。
身体強化を使っていなかったから強引に間合いを詰められなかった。その分、手間取った印象だ。
あと、力の弱さをしみじみと感じた。一撃で仕留めたい時に仕留められないのが、痛いところだ。一撃で仕留められなくても、身動きが取れなくなるくらいの一撃を与えられるように強くなりたい。
あと風弾は利便性はいいけど、魔力が無駄になるから今回のように乱発はできない。今日は1対1だったから良かったものの、これが複数の相手だと戦略も変わってくる。
今日はこのやり方で良かったかもしれないけど、次はまた新しいやり方を考えないといけない。エイプ戦は毎回考えながらの戦闘になりそうだ。
今回の反省を次に生かしていければいいな。まぁ、初めだから手探りでやり方を見つけなきゃいけないから今日は仕方ないか。
戦闘の振り返りを止めて、討伐証明であるしっぽをナイフで刈り取っていく。今回は3本で、合計11本になった。あとはゴブリンソードが2体分。
もう一回くらい戦闘ができそうではあるけれど、どうしようかな。エイプとの戦いは長引きそうだから、ゴブリンかメルクボアに出会えたらいいんだけど。
聴力強化をして周囲の音を探る。じっと聞いていると、またエイプの声が微かに聞こえてきた。数はそんなに多くなさそうだけど、ちょっと様子を見に行くだけでもいいよね。
聴力強化を切り、エイプの声が聞こえた方向へと走っていく。
しばらく走っていくと、エイプの声が鮮明に聞こえてきた。そこで木の裏に隠れながら、徐々にエイプに近づいていく。
何本かの木の裏に隠れながら進んでいき、肉眼でエイプの姿を確認できるところまで近づけた。そっと覗き見ていると、2体のエイプがこちらを向きながら地面に座っていた。
視点を変えるためにまた木の裏に姿を隠しながら移動していく。ある程度移動すると他にエイプがいないか確認するが、他にはエイプがいないようだった。
あれだったらすぐに倒せそうだ、仲間を呼ばれないように速攻で倒そう。木の裏に隠れつつ、魔力を高めて火球を作っていく。
少しだけ作り辛く感じるのは、魔力が減っているからだろう。絞り出すように力を入れて魔力を魔法に変換していった。
火を沢山込めた火球が完成して、木の裏からエイプを覗き見る。横向きだから火球に気づかれる可能性がある。
エイプの後ろにいくため、木を移動した。先に移動しておけばよかった、火球を保つのに魔力が必要だから大変だ。
ようやくエイプの背後に回ることができた、余分な魔力を消費してしまう。今度から気を付けるとして、エイプに狙いを定めて……放つ!
ドンッと真っすぐ飛んで行った火球はエイプの体に着弾し、エイプの体が激しく燃え盛った。
「ギィィッ」
「ギギッ!?」
近くにいたエイプが驚いている隙に身体強化を使い一気に距離を詰める。まだこちらには気づいていない、間合いに入るまでこのまま気づかないで。
そう願っていると、本当に間合いに入るまでエイプはこちらに気づかなかった。気づいた時にはすでに剣を振り上げているところで、エイプは逃げる余裕はない。
「はぁっ!」
一撃で仕留める、剣を力強く振り下げた。
「ギャアッ」
深い一撃がエイプを襲い、目を白目にして力なく後ろに倒れた。よし、身体強化ありだけど一撃で仕留めることができた。
火球を受けたエイプはもう動かなくなり、火も消える。無事に戦闘が終了したみたいだ、何事もなくて本当に良かった。
討伐証明を取ったら、帰路につこう。森の中は移動が大変だから、早めに行動しないとすぐに日が暮れちゃうからね。
◇
北の森を出る頃には日が傾きかけていた。それから移動をして町に着く頃には夕暮れになる。ちょっとだけ遅くなってしまった。
駆け足で冒険者ギルドへ行くと、中は冒険者が帰ってくるピークが終わったところだ。列に並ぶ冒険者の数が少なくて、ちょっとだけ気がはやる。
急いで一番少ない列に並んで自分の順番を待つ。ここに並ぶとホッとするのか、どっと疲れが襲ってくる。
初めてのエイプ戦だけど、なんとかなって本当に良かった。怪我も少ししかしてないし、明日も予定通り討伐に行けそうだ。
「次の方、どうぞ」
「は、はいっ」
いけない、考えごとしてたら順番が来ていた。カウンターに駆け寄って冒険者証を差し出す。その次に袋をカウンターに置いた。
「冒険者証と討伐証明の確認をお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
受付のお姉さんが冒険者証を受け取り、袋の中身を確認していく。一つ一つ確認していく手は早くもなく遅くもない、しっかりと査定してくれている。
「お待たせしました。エイプが13体、ゴブリンソードが2体ですね。合計2万6400ルタです」
おお、すごい金額になった。遭遇率が良かったから、報酬も高くなったんだね。
「2万5000ルタは貯金でお願いします」
「では、1400ルタの支払いになりますね。こちらになります」
「ありがとうございます」
いつものように、一部を貯金にして残りを受け取る。受け取ったお金を硬貨袋に入れると、その場をお辞儀して去って行く。
んー、ようやく終わった。それにしても、今日は疲れたな。あんまり食べたくないけど、食べないと動けなくなるし力もつかない。
頑張って食べて、帰ったら体を水拭きして早く寝よう。あー、疲れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます