97.エイプ戦(3)
進む先に立ち塞がるエイプ。こちらを威嚇するためか、声を上げて地面を叩く。
「ギィギィッ」
「ギャア」
臨戦態勢に入ったみたいだ。今にも飛び掛かってきそうな勢いがあって、緊張感が増す。
でも、これでちゃんと戦えるようになったっていうことだよね。逃げる行動が誘い込みだったって思われなくて良かったよ。
知恵はあるけどそれほど脅威ではないのかな? 他の魔物と比べたら多少はあるけど、思ったほどじゃなさそうだ。
とにかく、エイプとまともに戦うのがこれが初めてか。不意打ちと強引な突破で倒した時とは違うんだから、気を付けないと。
剣を構えながらエイプの様子を窺う。姿勢を低くして、こちらを睨んできている。攻撃する機会を窺っているんだろうか?
エイプの行動を先に見ておきたいので、こちらからは攻撃を仕掛けない。ある程度、エイプの行動が掴めてから攻撃を開始しよう。
お互いに動かない時間が過ぎていく。だが、それはエイプの声で変わる。
「ギギギッ」
「ギィィッ」
1体が動き出すと、もう1体も動き出した。手と足を使って駆けてくる、攻撃が来る。動きを見逃さないように集中する。
1体目がぐっと姿勢を低くすると、飛び掛かってきた。
「ギャアッ」
素早く横に避けた。次の1体は……そのまま駆けてくる。足元をめがけてずっと駆けてきている、これは何を狙っているのか分からない。
横にジャンプして避けるが、エイプは方向転換して追ってくる。先ほど避けたエイプもこちらに向かってきていた。
「ギャアッ」
またジャンプして襲い掛かってきた。それを避けるために横にジャンプする。そこにずっと駆けて来ていたエイプが襲い掛かってきた。
低い姿勢で腕を振り、脛を目がけて爪で切り裂いてくる。避けきれなかった、ブーツに爪が当たった感触があった。だけど、ブーツが裂けた感触はない。
「ギィギィッ」
爪で攻撃してきたエイプが低い姿勢のまま連続で腕を振るう。尖った爪がまたブーツに当たるが、ブーツは裂けない。これが体に当たっていたら大変だ。
急いで距離を取るために後ろ向きで走る。距離を詰めてくるエイプ、飛び掛かってくるエイプ。両方を相手取るのは大変だ。
早めにどちらかを仕留めないと追い詰められてしまいそうだ。剣を構えてどちらを先に仕留めるか考える。
その時、駆けてくるエイプが一気に距離を詰めてきて口を大きく開けた。危ない、慌てて横にジャンプして避ける。
エイプの噛みつき攻撃だ、きっとドルウルフよりも噛む力は強いだろう。なんとか避けられたと思ったのに、今度は違うエイプが飛び掛かってきた。
「ギャアッ」
避けることができない。咄嗟にしゃがみ込んで、飛びつかれるのを回避した。だが、それがいけなかったのかもう1体のエイプが速度を上げて襲い掛かってくる。
しゃがんだところに、低い姿勢から正面から飛び掛かってきた。それを避けることができず、まんまとエイプに捕まってしまう。
エイプに押し倒されて、牙を向けられる。
「ギギギッ」
片手でエイプの体を押して、噛みつかれるのをなんとか押し留める。それでもエイプは諦めずに力を入れて、体に噛みつこうとした。
早く剥がさないともう1体のエイプが来てしまう。剣先をエイプに向けて、鋭く突き刺す。しかし、分かりやすい攻撃だったのか、簡単に飛んで避けられてしまう。
でも、これでエイプを引き剥がすことができた。すぐに体を起こして、立ち上がる。そこへもう1体のエイプが横から飛び掛かってきた。
避けられずに剣を持っていないほうから体にしがみつかれる。そして、革のグローブに思いっきり噛みついてきた。
牙の感触が革のグローブごしに感じられる。だが、牙が革を突き抜けることはない。ただ尖った歯の感触が押し当てられて、腕に強い圧迫感を感じる。
急いで剥がさなくちゃ、剣をエイプに向けて振る。その攻撃を見切られて、すぐに飛んで逃げていってしまう。だが、これでいい。
噛みつかれたところに鈍痛が広がるが、確認することができない。痛みを堪えてエイプと対峙する。
今まで散々追いかけ回してくれたエイプの闘争心は消えていない。逃げるどころか、今にも攻撃をしてきそうな雰囲気だ。
きっと敵が弱い存在だと思ってくれているのかもしれない。そうだとしたら、ロイが言っていたやりにくさはなくなったと言ってもいいだろう。
エイプの動きも分かったので、あとはこちらが攻撃に転じるのみだ。剣を構えて、エイプが来るのを待つ。
じっと睨み付けてくるエイプ。攻撃の隙を窺っているみたいで、緊張が増す。今度はどんな攻撃でくる?
「ギィィッ」
「ギャアッ」
来た、さっきと同じ1体が前に出てもう1体が後ろにいる。交互にくるなら先に避けて、次に攻撃をしよう。
前を走るエイプは姿勢をぐっと低くして、飛び掛かってきた。それを横にそれて避ける、問題は次だ。
次の1体も姿勢をぐっと低くして、飛び掛かってきた。ここだ!
タイミングを見計らって、飛び掛かってきたエイプに剣を振るう。剣先はエイプの体を捉えることができた。胸元をバッサリと切り裂く。
「ギィィッ」
予期せぬ攻撃を受けたエイプは着地することができずに、地面に打ち付けられて転がった。追撃をしたいが、もう1体のエイプが気になってできない。
そのエイプに視線を向けると、こちらに向かって駆け出してきていた。追撃は諦めて、こちらのエイプを相手にしよう。
姿勢を低くして手足を使い駆け出してくるエイプはそのまま突っ込んでくる。
「ギギィィッ」
そのままの姿勢で腕を振りかぶって、爪で攻撃してくる。一振りを後ろに飛んで避けた。エイプはかわされたことを気にせずに突っ込んできて、腕を振って爪で攻撃してくる。
その度に後ろに下がって避けるが、このタイミングに合わせて攻撃を仕掛けよう。何度かエイプの爪攻撃を避けると、タイミングを合わせて剣を振るう。
「ギギッ」
剣先はエイプの伸ばした腕を切り裂いた。途端に動きが止まり、後ろへと飛んで逃げる。そこを追う。
前へと進み、エイプに向かって剣を振るう。一振り目は避けられた、でも二振り目で顔を切れた。
そこでエイプは後ろ向きで逃げることをやめて、背中を向けて逃げ出した。だが、片腕を切られていて動作がぎこちない。追い込むならここだ。
身体強化をしてエイプとの距離を縮める。懸命に逃げるエイプだが、片腕を使えないため速度が落ちている。
もう少しで間合いに入る。あとちょっと、あとちょっと……ここだ!
完全に間合いに入ると、力の限り剣を振るった。
「ギャアッ」
エイプの背中はバッサリと切られて、その衝撃でエイプは地面に転がった。ゴロゴロと転がって止まると、それ以上逃げるような動きはしなかった。
でも、体が小刻みに揺れていて生きていることが分かる。先ほどの一撃が致命傷に近いものだったらしい、身動きが取れずにいるようだ。
その傍に駆け寄ると、トドメに剣を刺した。エイプは短い断末魔を上げ、パッタリと動かなくなった。
残りは先ほど胸を切りつけたエイプだけだ。すぐにそのエイプに目を向けると、背を向けてゆっくりとだが逃げている様子だった。
急いで駆け寄ると、トドメに剣を刺す。そのエイプも短い断末魔を上げて、地面に倒れて動かなくなった。
「……ふぅ」
戦闘が終了した。長く続いたエイプとの戦いを勝利で収めることができた。じわじわと嬉しさが込み上げてくる。
「よしっ」
ぐっと手を握った。これでエイプとの戦いもこなしていけそうだ。
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