93.平原の一日(2)

「いただきます」


 平原にシートを敷いた上で昼食を食べる。今日はパンと肉と野菜の煮込み料理だ。煮込み料理は専用の入れ物を買ったお陰で外にいても食べられるようになった。


 マジックバッグの時間軽減のお陰でパンはまだほのかに温かいし、煮込み料理も少しだけ湯気が出ている。二つとも丁度いい温度だ。


 パンをちぎってスープに浸して食べる。ジュワとスープが染み出してきて、肉と野菜の旨味に合わせてパンの素朴な味を感じた。うん、美味しい。


 どこまでも広がる平原を見渡し、雲が点在する青い空を見上げて食べ進める。周りには魔物がいないし、休憩するにはもってこいだ。


 スプーンで肉をすくって食べると口の中でホロホロと崩れて、何とも言えない食感に頬が落ちそうになる。トロトロに煮込まれた野菜を頬張ると、口の中で簡単に崩れて野菜の甘みが広がった。


 景色を楽しみながらの食事は美味しいな。戦闘の疲れも癒えていくようで気持ちがいい。


 あっという間に昼食を食べ終えて、食後の休憩に入った。周囲に魔物がいないことを確認してからブーツを脱いで、シートの上に足を投げ出す。


 大の字に寝転がって青空を見上げた。何も考えずにボーッとする。すると、スーッと疲れが抜けていくような感覚になって気持ちがいい。


 少しずつ元気が戻って来ているようで、いい感じだ。そのまましばらく横になって空を見上げていた。


 ◇


 休憩も終わり、お仕事の時間になった。大きく背伸びをして、力を抜く。ふぅ……よし、元気一杯だ頑張って倒していこう。


 周囲を見渡しながら魔物の姿を探していく。見渡しやすいのはいいけど、広すぎて魔物がばらけていることが多いため、その分見つけにくくなっている。


 こっちの方向かな、あっちの方向かな。うーん、あっちにしよう。


 方向を決めて歩いていくと、遠くに魔物の姿が見えた。ようやく見つけた魔物の姿に駆け足で近寄っていく。


 だんだん大きくなる魔物の姿はメルクボアだった。よし、ようやく今日1体目のメルクボアだ。しっかり倒して報酬をゲットしよう。


 近づいていくとメルクボアもこちらに気づいたのか、顔をこちらに向けてくる。15m離れた位置で立ち止まると、メルクボアが前足で地面を踏み始めた。


 剣を構えずに手をかざす。魔力を高めて、意識を集中する。魔力を水魔法に変換して、かざした手の前で水球を作っていく。


「ブホォッ!」


 メルクボアが駆け出してきた。ギリギリまで引きつけて、横に向かってジャンプをする。


 今までいたところにメルクボアが牙で突き上げてきた。その隙にメルクボアの体に水球を放つ。


 水球がぶつかると破裂して水になってメルクボアを濡らす。もちろんダメージは全くない。


 メルクボアと距離を取るように後ろ向きで走り、もう一度手をかざす。魔力を高めて、手に集中させ、水球を作っていく。


「ブホッ!」


 体をこちらに向けてまた走ってくる。先ほどと同じようにギリギリまで引きつけて、今度は水をかけた側とは反対に向かってジャンプした。


 空振りになる牙での突き上げを見ながら、もう一度メルクボアの体に向かって水球を叩き込む。バシャンッと音を立てて水球が破裂して水浸しになる。


 また距離を取り、水球を作っていく。メルクボアは飽きずにこちらに体を向けて、再び駆け出してきた。


 最後は水球を放ってからギリギリまで引きつけ、横にジャンプして避ける。その直後にメルクボアがやってきて、牙で突き上げてくる。


 あの一撃を食らったことはないが、食らったら痛いじゃすまないと思う。骨折するくらいは威力がありそうだ。


 距離を取るためにその場を離れて、また手に魔力を集めていく。沢山水をぶっかけたので準備が完了した、次は雷魔法だ。


 体中にある魔力を手に集め続ける。魔力が漏れ出さないようにしっかりと意識をしていく。


 その最中にメルクボアは体をこちらに向けて駆けてきた。流れ作業のように変わらない動きだ、でもそのお陰で優位に立てている。


 ぎりぎりまで引きつけて、横にジャンプする。誰もいないところで牙を突き上げるメルクボア。だけど、今度は前と同じではない。


 一気に魔力を開放して、雷魔法に変換して放つ。


 バリバリバリッ


「ブッ!」


 閃光がほとばしり、メルクボアの体が感電して大きく震えた。すると、ぐらりとメルクボアの体が傾き地面に倒れる。


 いつもならなんとか踏ん張っているのに、今日は倒れてくれた。でも、まだ安心はできない。いつも通りに二回の雷魔法を食らわせよう。


 手をかざして魔力を高めていく。手の先に魔力を集めていき、メルクボアが起き上がる前に雷魔法を放つ。


 音を立てて雷がメルクボアの体を駆け巡る。ビクビクと巨体が震えているのを見ながら、魔法を出し終えた。


 足をピンと張って痙攣するメルクボア、これならもう大丈夫だよね。剣を抜いてメルクボアの前に立つ。


 剣先を頭に向けて、体の魔力を高めて身体強化をする。3倍の力になるように調節すると、力を込めてメルクボアの頭に剣を突き刺す。


 かなり刺し辛かったがなんとか剣の半分以上を刺せた。ビクビクと震えていたメルクボアの体がひときわ跳ね上がった後、ぐったりと力が抜ける。


 メルクボアの討伐完了だ、力を入れて剣を抜いて身体強化の魔法を切る。今回は雷魔法の一撃で倒れてくれたから、二撃目が楽に放てて良かった。


 討伐証明のしっぽを切り取り、袋の中に入れる。背中からマジックバッグを外して、三つ折りになった部分を広げた。


 それからメルクボアの頭をすっぽりと入れると、マジックバッグを動かしてメルクボアを中に収納する。全て入れた後のマジックバッグは以前に比べて重くなっていた。


 すぐに他の魔物を探し始める。平原を歩きながら、時々立ち止まって辺りを見渡す。その繰り返しをしていると、遠くに魔物がいるのが見えた。


 駆け寄って確認すると、ハイアントが2体並んで歩いていた。次の標的が決まった、始めは身体強化をして戦おう。


 2倍くらいの魔力を高めるとハイアントに向かって走っていく。


 ◇


「あー、今日も疲れたー」


 ようやく冒険者ギルドに辿り着いた。ちょうど賑わっている時間帯なので、列に並んでいる人は多い。


 討伐で疲れた体を引きずりながら列に並んで自分の番を待つ。一日で色んな魔物と戦ったので、体の疲れが大きい。


 魔物によって戦い方が違う。毎回気を配るところも違うから精神的にも疲れる。Eランクの魔物と対峙していた時とは全然違う疲れがあって辛い。


 フラフラになりながら、列が前に進んだら一歩進んで、またフラフラ立っている。そんな繰り返しをしていると、ようやく自分の番がやって来た。


「冒険者証です。討伐証明と素材の買い取りお願いします」

「カウンターに出してください」


 カウンターに討伐証明が入った袋を出し、マジックバッグからメルクボアを出した。


「今から査定をしますのでお待ちください」


 受付のお姉さんは袋の中に入った討伐証明の確認をして、メルクボアの状態を確認した。


「終わりました。討伐証明はゴブリンソードが3体、ゴブリンアーチャーが2体、ハイアントが5体、メルクボアが1体ですね。メルクボアの買い取りは状態がいいので4000ルタになります。合計で21000ルタです」

「2万ルタを貯金でお願いします」

「かしこまりました。では1000ルタのお渡しです」


 受け取ったお金を硬貨袋に入れて、お辞儀をしてからカウンターを離れる。


 んー、今日も終わったー。慣れた戦闘の連続だから疲れないと思ったけど、思った以上に疲れている。一日で色んな動きをするから、体がそれに慣れていないからかな。


 しばらくはこんな疲れと戦うことになりそう。もっと体力が欲しいな。そのためにも一杯食べないとね。今日も美味しいご飯を食べに行こう。

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