92.平原の一日(1)

 町の北側には一本の長い道があり、その右側には平原が広がり奥には丘もあった。その平原にはDランクの魔物、ゴブリン、ハイアント、メルクボアがいる。


 ハイアントとは一週間、しっかりと戦って倒した方を学んだ。メルクボアとは3日間戦って戦い方を学んだ。


 Dランクのゴブリンとはハイアントとメルクボアの戦闘の時に乱入してきたので、その時に戦い方を学んだ。これでまんべんなく戦い合えたと思う。


 そして、今日から相手を選ばずに戦おうと思う。いつもは探す時間がかかっていたんだけど、今日からはかからない。それだけで戦う回数は増えてくれるだろう。


 ようやく魔物討伐での報酬稼ぎが始まる。戦いの本番だ。


 平原にやってきた私は周囲を見渡して魔物の姿を探した。障害物のない平原は見渡しやすくて、すぐに魔物の姿を見つけることができた。


 遠すぎて何がいるか分からない、駆け足で近寄ってみるとそれはゴブリンだった。獲物を確認すると剣と弓、ゴブリンソードとゴブリンアーチャーだ。


 始めの魔物は決まった、ゴブリンだ。剣を抜いて駆け足で近寄っていく。すると、ゴブリンたちはこちらに気がついた。そこで一度足を止める。


 15mくらい離れた位置で剣を構えて待つと、ゴブリンソードが剣を構えて近寄ってくる。ゴブリンアーチャーは弓に矢を番えて、こちらに狙いを定めた。


 にじり寄ってくるソード、弓矢で狙ってくるアーチャー。ソードとの距離を計りながら、アーチャーにも気を配る。先に攻撃を仕掛けてくるのはどちらか。


 待っていると先に動いたのはアーチャーだった。弓矢を上に向けると放つ、放物線を描きながら矢がこっちに降ってくる。それを待っていたかのようにソードがこちらに向かって駆け出してきた。


「グギャギャッ」


 矢のほうが速い、その場から横にステップを踏んで矢の射線から外れる。すると、すぐ目の前までソードが迫ってきた。


 振り上げた剣が襲い掛かる、それをまた横にステップを踏んで避けた。ブンッと音を立ててソードの剣が空を切る。


 私はそのソードを無視して、アーチャーに標的を定める。魔力を高めて体に魔力を行き渡らせる、身体強化だ。全力でアーチャーに向かって駆け出した。


「グギャッ!?」


 驚いているアーチャーは急いで弓矢を番えようとするが、手元がおぼつかないようだ。その隙にアーチャーとの距離を詰める。


 そして、アーチャーが弓矢を番えるよりも速く間合いに入ることができた。流れるように下から剣を切り上げる。


「ギャーッ」


 腰から肩にかけて切り上げた。手元の柄をくるりと回し刃を返すと、今度は首を狙って剣を切り下げる。


「ギッ」


 首を切られたアーチャーは悲鳴を上げられずにその場にぐしゃりと倒れた。すぐに振り返り、ソードの位置を確認する。こちらに向かってきているが、まだ距離は離れていた。


 ソードだけなら身体強化がなくてもなんとかなる、魔力を節約するために身体強化を切った。剣を構えてソードを待つ。


 ソードが近距離まで近づいてくると、地面を蹴って飛んで襲ってきた。


「ギャギャッ」


 剣を前に構えて飛び掛かってくるソード、それを横にステップを踏んで攻撃を避ける。一撃を避けられたソードは地面に着地すると、低い姿勢のまま剣を横に振ってくる。


 脛に当たりそうな斬撃に後ろに飛ぶことで避ける。それで止まることなく、すぐに前に飛んで剣を振った。だが、浅かったのかソードの腕を切りつけることしかできない。


「グギャッ」


 腕の痛みに驚いたのか、ソードも後ろに飛んで距離を取ってきた。お互いに睨み合い、動かない。


 なら、今度はこっちから仕掛けよう。無防備に駆け出していく。ソードはにやりと笑って、剣を構える。タイミングを合わせてソードは剣を振ってくるが、そうくると思ったよ。


 こちらもタイミングを合わせて、剣を持っている腕側にジャンプして避ける。ブンッとソードの剣が空を切る音が聞こえた。


 一撃を避けた私は剣を持つ腕に向かって剣を振るった。肩から肘にかけて深い一撃を与える。


「ギャーッ」


 その攻撃でソードは剣を落とした。今がチャンスだ、すぐに背後に回り込んで背中をバッサリと切る。


 まだ倒れない。今度は剣を横にして構えて、ソードの背中の中心を狙って力強く突き刺す。


「グギャッ、ギャッ……」


 ソードの体が硬直して震え出す。剣を強く引き抜くと、ソードは膝から崩れ落ちて地面に倒れた。


 剣先で突っついてみるが、動く気配はない。ゴブリン戦に勝利したみたいだ、ホッと息をつく。


 一度周りに魔物がいないか確認してから、討伐証明を切り取って袋に入れていく。それから再び魔物探しが始まる。


 平原を歩きながら魔物の姿を探す。歩いて10分くらいだろうか、魔物の姿を発見した。近寄って見てみるとそれはハイアントだ、1体でいる。


 今度はあのハイアントにしよう、剣を抜いて駆け寄って行く。どんどん近くなるハイアント、このまま気づかないかな?


 そう思ったのだが、ハイアントはこちらに気づいてしまった。10m離れた位置で立ち止まり、剣を構える。一対一なら身体強化なしでいこう。


 顎をギチギチ鳴らしながら、ゆっくりと近づいてくるハイアント。お互いに睨み合っていると、しびれを切らしたハイアントが向かってくる。


 前足を上げていないから顎の攻撃がくる、腰を少し低くして避ける準備をした。目の前まで迫ってくると開いた顎で噛みつこうとしてくる。


 ガチンッ


 その前に後ろにジャンプして避ける。だが、ハイアントの追撃は止まらない。器用に後ろ足を動かして、何度も頭を突っ込んで顎で攻撃してくる。


 ガチンッ ガチンッ


 攻撃するまでの予備動作があるので避けやすい。あとはタイミングを合わせて……ここで剣を振り落とす!


 バキッ


「キィィッ」


 ハイアントの頭にヒビが入った。その衝撃に堪らずハイアントが前足を持ち上げて悶える。その隙をついて、左の前足に向かって剣を振る。


 パキッと外殻が壊れる音がしたが、切り落とすまでには至らない。ここで一旦距離を取る。


 前足を上げたままこちらを睨むハイアント。動きがないな、と思っていたらいきなり動き出した。後ろ足で器用に動き、前足を上げて攻撃してくる。


 棘のついた前足を後ろに伸ばして、前に向かって突く。左、右、左、右。交互に出して襲い掛かってきた。


 こちらも予備動作があるのでタイミングさえ合わせれば避けやすい。危なげなく避けていくと、タイミングを合わせて左の前足を狙って剣を振るった。


 先ほど当てた部分からずれてしまった、もう一回だ。右を避けて、左を避けて、ここで剣を振るう。


 バキッ


 見事に命中して左の前足を切り落とせた。


「キィッ」


 また前足を上げたまま悶えるハイアント、隙ができた。剣を高く掲げると、ハイアントの頭目がけて剣を振り下ろす。


 バキンッ


 ハイアントの頭に大きなヒビが入った。あと二撃、いや一撃で仕留めたい。ハイアントと距離を取り、最後の一撃を与える隙を待つ。


 じっとこちらを睨み続けるハイアント。きっとどうやって攻撃を仕掛けようか考えているんだろう。私はタイミングを合わせて攻撃するだけだから、ハイアントが行動してから動く。


 睨み合いが続いていると、ハイアントは前足を下ろして突進してきた。よし、顎の攻撃だ。


 顎を開いて迫ってくるが、閉まる前に後ろへ飛んで攻撃を避ける。そして、すぐに前へ一歩踏み込む。振り上げた剣に力を込めて、強く剣を振るった。


 バキンッ


「キィィィィッ」


 ハイアントの頭が深く陥没して、悲鳴を上げた。すぐに後ろに飛んで距離を取って様子を見る。体をブルブルと震わせたまま動かなくなった。


 もう一撃必要かな、と思った時だ。ハイアントはぐしゃりと地面に落ちて沈黙する。もうピクリとは動かなくなった。


 近寄ってみても動く気配はない。早速討伐証明である右の触角を切り取って袋に入れた。


 一日は始まったばかりだ。

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