91.メルクボア戦(2)

 よろけながら立っているメルクボア。火の魔法で倒せなかったが、それなりにダメージは与えられたようだ。


 弱っているなら、先手を打とう。対峙しているメルクボアに向けて手をかざして魔力を高めていく。今度は風弾の衝撃を与えてみよう。


 本当に弱っているなら風弾で倒れてくれるかもしれない。集中して風弾を作り上げていく。メルクボアはまだフラフラしていて攻撃を仕掛けてくる気配はない。


 風弾ができあがった。メルクボアの頭に狙いを定めて、風弾を放つ。ドンッという音と共に放たれた風弾は真っすぐに飛んでいき、メルクボアの頭にぶつかった。


 その衝撃でメルクボアが前足の膝を地面についた。だが、体は倒れない。威力が足りないらしい、再び風弾を作っていく。


 よろよろと立ち上がるメルクボア。そこに風弾を打ち込んでいく。ドンッと音を出して飛んでいく風弾はメルクボアの顔面にぶつかった。


 またガクッと前足の膝をつくが、倒すには至らない。風弾ではダメージしか与えられないようで、違う手段が必要だ。


 弱っているなら剣で攻撃してはどうだろう。でも、無暗に近づいて牙で突き上げられたら大変だ。やっぱりここは慎重に行こう。


「ブホオォッ」


 前足で地面を踏み出した、攻撃をする気だ。まだ体はフラついているが、攻撃する元気があるってことだよね。うん、慎重にいって正解だったな。


 そんなことを考えていると、メルクボアが駆け出してきた。ダメージで速さが落ちているようで、前よりは遅くなっているから避けやすい。


 ある程度引きつけたら、横にジャンプして避ける。するとメルクボアは通り過ぎていってしまう。その姿を目で追うと、大きく旋回をしてまたこちらに向かってくる。


 その間に次の魔法を試す、雷だ。手をかざして魔力を高めていく。どんどん膨らんでいく魔力を外に出さないように意識していった。


 視線を向けると、すぐ目の前までメルクボアが迫ってきている。タイミングを見計らって、横にジャンプ。そして、手をメルクボアにかざす。


 バリバリバリッ


 溜めた魔力を一気に雷の魔法に変換してメルクボアに放った。


「ブホォッ」


 ビクンと震えたメルクボアが足をもつれさせて、地面に転がった。走った勢いのまま草の上をゴロゴロと転がっていくメルクボア、止まったのは10mくらい離れた位置だ。


 そのままで様子を見る。メルクボアの体がビクンと何度も痙攣しているようだ、上手くいったのかな。近づいていこうとすると、メルクボアの巨体がうごめきだした。


 ゴロゴロと左右に揺れるメルクボアは地面に足をつき、震えながらももう一度立ち上がった。


 威力が足りなかったのか、それともメルクボアの皮が厚すぎて体の奥まで雷が届かなかったのか。どちらにしても、もう一撃くらわせる必要がありそうだ。


 手をかざして魔力を高めていく。メルクボアが走り出した、先ほどよりも遅い。その隙にどんどん魔力を手に集中させて、次の魔法の準備を終わらせる。


 目の前までメルクボアが迫ると、横にジャンプして避ける。そして、通り過ぎようとしたメルクボアに向けて雷の魔法を放つ。


 バリバリバリッ


「ブッ」


 感電で体が硬直したメルクボアは転倒し、ゴロゴロと草の上を転がって止まった。ビクンビクンと体が跳ねており、雷の攻撃が効いたことが分かる。


 しばらく様子を見たが、起き上がる様子はない。おそるおそる近づいて行ってみる。


 横たわったメルクボアはビクビクと動きはするものの、起き上がる様子がない。顔を見てみると、鼻息が漏れているだけで鳴きはしなかった。


 トドメを刺すなら今だ。剣を抜き、メルクボアの頭に剣先を向ける。体中に魔力を纏わせて、身体強化をした。


 3倍くらいの力になるように調節すると、力一杯にメルクボアの頭を刺した。すごく固くて刺し辛かったけど、なんとか剣の半分以上は刺せた。


 するとメルクボアの体がビクンと痙攣した後、ぐったりとして動かなくなった。メルクボアの討伐完了だ。


 剣を抜いて身体強化の魔法を切る。改めてメルクボアの体を見てみると、自分の体よりも大きな姿に感嘆としてしまう。ランクが上がると魔物の大きさも大きくなっていくのかな。


 とにかく、メルクボアを倒すことができた。喜びもあるけど、それ以上に疲れがあった。魔法を連発していたことと、一発食らったらお終いだったという緊張感からだ。


 つい、その場に座り込み大きく息を吐いた。


「楽じゃないなぁ」


 討伐料と買い取りの高さに目がくらんで意気揚々と戦い始めたが、現実は厳しかった。高いにはそれなりの理由があるとは分かっていたけど、本当の意味で分かっていなかった。


 一撃で仕留められるのはEランク以下の魔物だけ、Dランクから世界が変わったような強さになっていた。自分の強さはそんなに変わらないのに相手にする魔物がどんどん強いものに変わっていくのは恐怖だ。


 ただ倒していくだけじゃダメ、自分もランクに合わせて強くなる必要がある。もたもたしていたら、倒せない魔物ばかりになってしまう。


 Dランクでしっかりと魔物と戦い合えるまでどれくらいの時間がかかるかは分からないが、地道にやっていこう。きっと今日よりも明日、明日よりも明後日には強くなっているからね。


 ちょっと落ち込んじゃったけど、倒したことには変わらない。ここは素直に喜んで、ありがたく報酬をいただくことにしよう。


 背中からマジックバッグを外すと、三つ折りになっていた部分を広げる。とても広い入口になり、それをメルクボアの頭に被せた。


 さて、これをどうやってマジックバッグに入れようか。メルクボアを押して入れようとするが、重たくて全然動かない。


 ということは、マジックバッグを動かした方がいい。マジックバッグを動かすと、するするとメルクボアが中に入っていく。あ、討伐証明を切り取るのを忘れていた。


 メルクボアを途中まで入れて放置すると、ナイフでしっぽを切り取って袋に入れた。それからまたメルクボアをマジックバッグの中に入れていく。


 完全に入り持ち上げてみると、マジックバッグが少し重たくなっていた。あの巨体をここまで軽くできるマジックバッグはすごい、これで冒険者ギルドのカウンターまで持ち込めるね。


 マジックバッグを背負い、再び歩き始める。今日はあと2体くらいのメルクボアを倒していきたい。中々見つからないメルクボアを探して平原を歩き回り始めた。


 ◇


 メルクボアの戦いには雷が有効だと分かったから、二戦目からは雷をメインの攻撃にした。


 メルクボアと会うと、まず水魔法で水を何度かぶっかける。一回の感電で倒れなかったメルクボアが感電しやすいようにした。


 実際に水を被ったメルクボアに雷魔法を打ってみると、一回では倒しきれなかった。やっぱり皮が厚いとか体が大きいとか、そんな要因があるんだろうな。


 仕方がないので二回目の雷魔法を放つ。すると今度は地面に倒れたままで起き上がらなくなった。そこでトドメを刺した。


 三戦目は水魔法で水を何度もぶっかけた後、雷の魔法を強くした。2突進くらいの時間をかけて、魔力を高めてできる限り威力を強くする。


 その雷魔法を放つとメルクボアは倒れた。だけど、それでも起き上がってきた。動きが前よりも鈍くなっているのはいいけど、立ち上がる元気が残っているのがダメだと思う。


 今回も二回目の雷魔法を放って、完全に動けなくなった後にトドメを刺した。これなら二戦目のやり方のほうが確実だ、今度からは二戦目のやり方でいこう。


 魔法はまだまだ威力不足でトドメをさせるほど強くはない。集中的に鍛えれば強くはなるんだろうけど、その時間があれば働いていたほうがいい。


 うーん、魔物を倒すのにどんどん魔法を使って強くしていかないとな。まだ地道に戦って強くなっていくしかないね、頑張ろう。

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