88.ハイアント戦(2)

 初めてのハイアント戦を終えて戦いを振り返ってみる。


 ハイアントの攻撃はどれも強そうで素早い、だが動きは単調だった。だから混乱もなく落ち着いて対処できていたと思う。


 体は硬く、普通の力だと一撃では無理だった。足だと上手くすれば二撃で切り落とせる、頭だったら完全に沈黙させるまで四撃は必要だ。


 総合して評価をすると攻撃力と防御力があり素早い。だけど動きが単調でパターンさえ掴めれば、特別難しい相手でもないということだ。


 ただ、これが複数を相手にした時どれほど難しい相手になるのかが未知数。今日は単体しか相手にしないけど、明日以降は複数を相手にすることも考えないといけない。


 こうやって周りを見てみても、単独でいるハイアントを探すのは大変だ。あそこのハイアントは近距離に2体いるから無理だし、あっちは並んで歩いているから無理。


 周囲に気を配りながら平原を歩いていると、ようやく単独で行動しているハイアントを見つけた。周りに他の敵影はいない。


 あれを相手にしよう。今度は身体強化ありで戦ってみて、何撃で倒せるか確認したい。


 意識を集中させて体全体に身体強化に必要な魔力を行き渡らせる。今回は強化が2倍になるように魔力を高めてみた。


 今度は不意打ちできるかな、やってみよう。剣を抜いてハイアントに向かって駆け出していく。


 だんだん近づいていくとハイアントの姿がはっきりと見えるようになる。まだこちらに気づいて……ダメだ、こちらを向いてしまった。


 5m以上離れた位置で立ち止まると、顔を見合わせて対峙する。ギチギチと顎を鳴らして、こちらをうかがう姿は怖い。


 しばらく見合っていると、ハイアントの体が揺れた、来る。腰を低くして避ける準備をすると、ハイアントは突進してきた。


 真っすぐに突っ込んでくると、頭を突き出してきて顎を広げて襲い掛かってきた。


 ガチンッ


 顎が閉まる音が響くがそこに私はいない、後ろに避けたからだ。でもハイアントはそれで止まることはない。すぐに後ろ足を動かして、体を前へと進ませる。


 また顎が開き、体に噛みつこうと閉まる。


 ガチンッ


 また避ける。が、今度はこちらからも攻撃をする。顎が閉まったのを確認すると、一歩前に踏み出す。剣を振り上げると、頭目がけて力一杯に剣を振り下ろした。


 ビキッ


「キィィィッ」


 身体強化ありの重い一撃が当たった。ハイアントの頭に大きなヒビが入り、痛みで体を持ち上げて悶えている。その間に私は少し離れた位置まで下がった。


 前足をうねうねと動かして身悶えしたハイアント、顔をこちらに向けるとこちらに突進してくる。前足を上げているから今度は足の攻撃に変えたようだ。


 ハイアントの間合いに入ると、棘のついた前足で攻撃してくる。右足、左足。交互に突き出して攻撃してくるが、その攻撃はすでに見切っている。


 リズムよく避けると、タイミングを合わせて剣を振るう。力一杯に剣を振るうと、右足を断ち切ることができた。


「キィィッ」


 右の前足が切られたことでハイアントの動きが止まる。またうねうねと左の前足を動かして、身悶えをしているようだ。


 それからじっとこちらを見てくる。次の行動を考えているのだろうか、中々動き出さない。こちらも無暗に手を出さない、相手の行動を待つ。


 剣を構えながら待っていると今度は前足を下ろしてきた、顎の攻撃がくる。その通りだ、ハイアントは顎を開きそのまま突進をしかけてきた。


 またタイミングを合わせて、顎の攻撃を避けていく。ガチン、ガチンと顎が閉まる音を聞きながらタイミングを合わせ、頭に向かって剣を振り下ろす。


 バキンッ


「ギィィィッ」


 ハイアントの頭が大きく割れた。離れて様子を見てみると、ブルブルと震えていてこちらに攻撃してくる様子はない。


 もう一度踏み込んで剣を振り下ろす。その衝撃でビクンッと大きく震えたハイアントはとうとう地面に落ちた。まだ、足がビクビクと動いているが、立ち上がる気配はない。


 2戦目も勝利した。身体強化を切り、大きく息を吐く。


「はぁー、良かった」


 強い安堵感が広がって体の力が抜ける。一戦目よりは時間がかからずに終わったけど、まだまだ戦い始めの相手だけあって怖さが抜けない。


 もうちょっと戦い慣れていけば攻撃速度も上がっていくのかな。とにかく、一戦一戦慎重に戦って経験を積んでいかないとね。


 剣を鞘に納めて、腰にぶら下げているナイフを取る。ハイアントに近づいて右の触角を切り取ると、袋に入れる。これで2体目だ。


 二撃で仕留められると思ったんだけど、結局三撃も必要になってしまった。最後の一撃はもう少し力を入れた方が良かったのだろう。


 足を一回で切れたのは良かった。剣が良かったのもあるんだろうけど、身体強化の力も合わさっているから切れたんだと思う。


 身体強化を使えば、少しは早く討伐できることが分かった。もっと数をこなしていきたい時、どうしていったらいいかも考えておかないとね。


 次のハイアントを探していく。歩きながら単独で行動しているハイアントがいないか探すが、中々見つからない。


 あっちは2体だし、そっちも2体。とりあえず今日は確実に経験を積むために1体ずつしか相手にしないでおこう。


 草原を歩き回って、単独のハイアントを探していく。きょろきょろと辺りを見渡すと、ぽつんといる黒い点を見つけた。


 駆け足で近寄っていくと、それは単独で行動しているハイアントだった。次の標的は決まった、剣を抜いてそのまま駆け寄って行く。


 ◇


 今日の単独ハイアント狩りは順調に終わった。午前は3体、午後は4体を倒して、夕暮れになる前に平原を離れた。


 久しぶりの討伐、Dランクの魔物との戦闘で精神的にも肉体的にも疲れてしまう。こんなにへとへとになるまで戦ったのは、ロイと一緒に討伐をしていた頃以来だ。


 疲労感は強いけど、達成感もあるから嫌な感じではない。ただちょっと足が本当に疲れてて大変だ。避けるのが多かったから、足に負担がかかってしまった。


 町の門に辿り着き、冒険者ギルドまで歩くのが長く感じる。いつもならそんなことはないんだけど、疲れているせいかな。


 冒険者ギルドに着く頃には夕日が出てきた。早くしないと夜ご飯を食べそこなっちゃう、慌てたように冒険者ギルドの中へと入っていく。


 中はピークを過ぎたのか列に並ぶ冒険者の数は少ない。その中で一番少ないところへ並ぶと自分の順番になるまで待つ。


 だけど疲れているのか、急に睡魔が襲い掛かってくる。うぅ、眠い。頬をつねってなんとか眠気をやり過ごす。


 こういう時、時間が過ぎるのが遅く感じるから嫌だな。早く自分の順番になれー、と心の中で何度も唱えながらひたすら待つ。


「次の方、どうぞ」


 やった、自分の順番だ。カウンターに駆け寄って、冒険者証を出す。


「Dランクのリル様ですね」

「討伐報酬を受け取りたいです。こちらが討伐証明です」

「はい、お預かりしますね」


 触角の入った袋を手渡すと、受付のお姉さんが確認していく。一本ずつ確かめていき、清算となった。


「ハイアントの討伐証明を7つですね。合計で10500ルタになります」

「1万ルタを貯金でお願いします」

「かしこまりました。では残りの500ルタのお支払いになります」

「ありがとうございました」


 残りのお金を受け取って硬貨袋に入れる。お辞儀をしてからカウンターを離れ、冒険者ギルドを出る。


 はー、疲れた。今日は早めに食べられるお店に入ろう。


 大きく背伸びをした私はフラフラとした足取りでいい匂いがする方向へと歩き出した。

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