89.ハイアント戦(3)
初めてのハイアントと戦った翌日、同じ平原へとやってきた。周囲を見渡すとポツポツとハイアントが徘徊しているのが見える。
あと、ハイアント以外にも魔物はいる、メルクボアやDランクのゴブリンだ。だけど今日もハイアントだけと戦う予定なので、他の魔物は無視していく。
昨日の戦いを忘れない内に今日もハイアントと戦いたい。しかも今日は複数のハイアントと戦う予定なので、気を引き締めていかないと。
他の敵からは見つからないように離れてハイアントを探していく。しばらく歩いていくと、ハイアントを見つけた。近い距離に2体もいるから、お目当ての複数戦闘になりそう。
でも、ちょっと距離が離れているから少しだけ引きつけて、近くのハイアントがいる場所まで移動する必要がありそうだ。そうと決まったら行くしかない。
心を落ち着かせて深呼吸をする。落ち着いて戦えば昨日のように上手くいく、大丈夫。うん、いけそう。
魔力を高めて体中に行き渡らせる、身体強化だ。不測の事態があるかもしれないから、今日は始めから身体強化ありで戦っていく。
準備完了だ、ハイアント狩りの開始。
まずは片方のハイアントに向かって駆け出していく。ある程度近寄るとハイアントはこちらに気づいて臨戦態勢を取る。10mくらい離れた位置で立ち止まる。
目の前のハイアントは顎をギチギチと鳴らしながら、じりじりと近寄ってくる。その間にもう1体のハイアントの位置を確認する。
右後方に20mくらいの距離にいる。ちらりと見ると、どうやら向こうもこちらを認識しているようだ。じりじりと近寄っているように見える。
このままだと後ろを取られてしまう。2体が前に来るように方向を変えて後ろに下がっていく。
ゆっくりと後ろに下がっていくと、2体が近づいてくる。なんとか視界に2体のハイアントを入れることができた、これで後ろを取られることはない。
その場で剣を構えながら待っていると、あっという間に距離を縮められた。5mほどの距離まで近寄ってきた時、2体は丁度並ぶような位置になっていた。
さぁ、ハイアントの複数戦だ。
顎がギチギチと鳴る音が聞こえる。2体のハイアントが目の前にいるだけで、すごい威圧だ。怖気づきそうになる心をなんとか奮い立たせる。
睨み合いが続いて数分、ようやくハイアントが動き出した。左のハイアントが突進を仕掛けてくる。顎の攻撃がきそうだ。
腰を低くして待っていると、すぐ目の前に開いた顎が迫ってきた。
ガチンッ
接触する寸前で後ろに飛んで噛みつきから逃げる。だが、ハイアントはまだ止まらない。後ろ足を動かして後を追ってくる。それからは連続の噛みつく攻撃をやってきた。
ガチンッ ガチンッ ガチンッ
リズムよく閉じられる顎をリズムよく避けていく。もう1体に少しだけ視線を向けると、ちょうどこちらに向かってきていた。前足を上げていないところを見ると、こちらも顎の攻撃らしい。
頭を突っ込ませて開いた顎で襲い掛かってくる。
ガチンッ
だけどそれを避ける。もちろん、それで諦めるハイアントではない。さらに頭を突っ込ませて、噛みつく攻撃を仕掛けてくる。
ガチンッ ガチンッ
何度も襲い掛かってくる顎を避けていく。そろそろ、こちらからも攻撃を仕掛けないと……そんなことを考えているとハイアントの頭同士がぶつかり合った。
ゴチンッという鈍い音が響くと、ハイアントの動きが止まる。
「ギチギチギチッ」
「ギチギチッ」
お互いの顔を見ながら顎を鳴らしている、あれは怒っているんだろうか? ハイアントの生態は良く分からないけど、チャンスだ。
左のハイアントの頭を目がけて剣を振った。バキッという外殻にヒビが入る音がする。
「キィィッ」
前足を上げて身悶えするハイアント。もう1体のハイアントはこちらを見て、再び顎をギチギチと鳴らす。するとまた顎の攻撃を仕掛けてきた。
ガチンッと顎が閉まる音が聞こえる。後ろに避けていた私は一歩前へ踏み込んで剣を振るった。バキッと外殻にヒビが入った音がする。
「キィッ」
こちらも前足を上げて身悶えをした。2体はこちらを見てきて、今度は前足を上げてくる。
2体のハイアントは交互に足を前に突き出しながら攻撃してきた。シュッ、シュッと素早い足の連続攻撃に避けるので忙しい。
だけど、タイミングを合わせて剣を振るった。剣は右のハイアントの左足を叩き切った。
「ギィィッ」
今度は左のハイアントの攻撃に合わせて右足を叩き切る。
「ギィィィッ」
2体のハイアントは残った前足をうねうねと動かして身悶えをした。さぁ、次はどんな攻撃でくるのか。剣を構えながら待っていると、今度は前足を下ろしてきた。
顎をギチギチさせて相談しているように見える。しばらく睨み合っていると、左のハイアントが先に動き出した。前足を下ろして突進してくる。
動きを見極めて避けるタイミングを計る。顎を開いて頭を突っ込ませた時に、後ろに飛ぶ。すると飛んだ後に顎がガチンッと閉じる。
ここで一歩前に踏み出して、力一杯に剣を振る。ヒビの入った頭にぶつかり、頭が砕ける音が響いた。
「ギィィッ」
様子見のために後ろへと飛んで、もう1体のハイアントを見る。もう1体のハイアントは前足を上げて、こちらに向かってきていた。
残った右足を使い、足を引いては突いてくる。足が2本じゃないから避けるのは簡単だ。そして、タイミングを見計らい残りの右足を叩き切る。
「キィィッ」
前足を全て失ったハイアントは体を起こしながら身悶えする。その隙を狙って、一歩前に踏み込んで軽くジャンプする。
「はぁっ!」
振り上げた剣を力一杯に振り下ろす。隙だらけだったハイアントの頭に渾身の一撃が入った。
バキンッ
外殻が割れて飛び散る大きな音が響いた。頭が完全に割れたハイアントは悲鳴も上げられず、地面にドシンッと落ちる。
すぐにもう1体のハイアントを見ると、立ち上がりたくても立ち上がれないような動きをしていた。今倒したハイアントは完全に沈黙している。
動けないハイアントに近づいて、トドメに剣を振るった。にぶい音と共にそのハイアントも完全に沈黙する。
同時に2体との戦闘が終了した、終わった途端にどっと緊張が押し寄せてきた。なんとか無事に終わって本当に良かったな。
ふぅ、一息ついた時だった。
「グギャーッ」
聞き慣れたゴブリンの声が聞こえて振り返った。そこにはあの日みたゴブリンソードがこちらに駆け寄ってくるのが見える。
どうやら戦闘に時間をかけすぎてしまい、他の魔物に見つかってしまったようだ。しっかりとハイアントと戦えたのはいいけど、こういうことがあるなら戦い方を見直さなくてはいけない。
「グギャギャッ」
いやみったらしい笑みを浮かべて立ち止まり、じりじりと距離を詰めてくる。他の魔物はいない、ゴブリンソードだけだ。
気を引き締めて剣を構える。
◇
今日は2体のハイアントと4回戦った。途中、ゴブリンソードとゴブリンアーチャーが乱入してきたが、なんとか倒せた。
なんだか忙しくて、今日は昨日よりもへとへとになっている。なんとか重い体を引きずって冒険者ギルドへと辿り着いた。
列に並ぶと疲れからか自然と眠気が襲ってきた。うつらうつらとしてしまい、このまま寝入って――
「次の方、どうぞ」
はっ、いけない。カウンターに行かなくちゃ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます