87.ハイアント戦(1)

 駆け出していく先にいるのはハイアント。まだ魔物はこちらには気づいていない、最初の一撃を入れられそうだ。


 剣を構えてさらに近づいていくと、ハイアントがこちらに気づいた。顔だけを向けて確認すると、体もこちらに向けた。


 最初の一撃は無理になってしまった。仕方ないので5m離れた位置で立ち止まり、ハイアントと対峙する。


 体長は同じくらい、今まで自分よりも低い魔物を相手にしていたから体の大きさだけでも脅威に感じてしまう。


 ハイアントのほうが顔が大きく、一番の脅威である尖った顎がギチギチと音を鳴らして動いている。じっとこちらをうかがっていて、簡単に隙は見せられない。


 しばらく対峙していると、先に動いたのはハイアントだった。足を交互に動かしてこちらに真っすぐ向かってくる。どんな攻撃が来る?


 ギリギリまで引き付けると、ハイアントは頭を突っ込ませてくる。ここだ、すぐに後ろに飛んでかわす。すると、ハイアントの尖った顎がガチンッと音を立てて閉まる。


 どうやら始めの一撃は尖った顎での噛みつき攻撃のようだ。だが、ハイアントの攻撃はそれで終わりではなかった。


 一撃をかわされたハイアントは足を前に踏み出して、また頭を突っ込ませて尖った顎で噛みついてくる。動作は早いが、足を先に動かすので攻撃がバレバレだった。


 また、後ろに飛んで攻撃をかわす。だが、まだハイアントは諦めない。また足を踏み出して頭を突っ込ませて尖った顎で噛みついてくる。それすらも簡単にかわす。


 もう少し距離を取ると、ハイアントの攻撃は止まった。こちらをうかがい、次の攻撃を考えているようにも見える。


「キィッ」


 頭と前足を高く上げて鳴いた。前足を上げたまま、後ろ足を動かしてこちらに駆け寄ってくる。


 あっという間に距離を詰められると、今度は棘のついた尖った前足を突いてきた。シュッと素早い攻撃にこちらのかわす動きも早くなる。


 右足、左足、右足、左足。連続で突いてくる前足を必死になって避ける。攻撃をする前に一度前足を引くので、避けるタイミングが分かりやすい。


 でも気を緩めれば、すぐに前足の餌食になってしまう。集中して避けていると、前足の動きがピタリと止んだ。ということは、違う攻撃がくる。


 後ろに強く飛ぶと、今度は頭が突っ込んできて尖った顎で噛みついてきた。良かった、なんとか避けられたみたい。


 これで一通りの攻撃パターンは見たかな。頭を突っ込ませて尖った顎で噛みつく攻撃、前足を上げて尖ったところで突く攻撃。あと考えられる攻撃と言ったら体当たりくらいだ。


 前に出る攻撃に気をつければハイアント戦は乗り越えられると思う。あとはこちらの攻撃がどれだけ通用するか、だ。


 ハイアントと睨み合いながら、攻撃する隙を考える。だが、相手は待ってはくれない。すぐに前足を上げてこちらに突進してくる。


 始めの攻撃は右足か左足か、どっちだ。相手の動きを観察する、先に動いた足は……右だ。右足が引くと、すぐに前に突き出してくる。


 それを体を逸らしながら避けると、今度はその右足に向けて剣を振った。


 ゴキッ


 外殻にヒビが入った音が聞こえた。身体強化なしでは切れなかった。すぐに視線を上げると、今度は左足が引かれているのが見える。


 足に力を入れて、もう一度後ろに少し飛ぶ。すぐに左足が迫ったが、空ぶらせた。そこに力一杯の剣を振る。


 ビキッ


 剣がぶつかった左足にヒビが入ったが、また切れなかった。ハイアントの外殻は普通の力では切れないくらいに硬いらしい。だが、外殻は傷つけることに成功した。


 次の攻撃を待っていると、また右足が引かれて真っすぐに突かれる。慎重に後ろへと下がって避けて、再度剣を振るう。同じ場所に向けて剣を振るったがずれてしまった、惜しい。


 左足が引かれて突かれる、それをまた避ける。今度こそ同じ場所に剣を振るう。


 バキンッ


「キィィッ」


 左足を切ることに成功した。身体強化なしであれば二撃でハイアントの足が切れることが分かった。


 ハイアントにも痛覚があるのか、その場で立ちながら悶えている。だけど、それもすぐやむ。今度は顎をギチギチ言わせて怒っているように見える。


 来るか? そう思った瞬間、今度は前足を下ろして突進してきた。顎の攻撃が来る、構えながら待つ。


 ハイアントは間合いに入ると、頭を突っ込ませて顎で攻撃を仕掛けてきた。ガチンッと音を立てて開いていた顎が閉まるが、すでに避けた後だ。


 今度はこちらの攻撃。振り上げていた剣を頭目がけて全力で振り下ろす。


 ビキッ


 ハイアントの頭に剣がぶつかったが、外殻にヒビが入るだけで終わってしまった。すぐに後ろへと下がると、また顎の攻撃が来る。


 間一髪避けると、もう一度頭に向かって剣を振り下ろす。


 ビキンッ


 頭に大きなヒビが入ったが、討伐するまでには至らない。


「キィィッ」


 ハイアントは痛そうに頭を振った。右の前足を持ち上げると、突いてくる。


 ビュッ ビュッ ビュッ


 引いては突いてを繰り返して攻撃してくる。その度に左右に避けたり、後ろに飛んだりしてかわしてみせた。


 しばらくかわしていると、ハイアントは我慢できなくなった。再び前足を下ろして、頭を突っ込ませて顎で攻撃してきた。


 ここだ! 顎の攻撃をかわして、一歩踏み込んで全力で剣を振り下ろした。


 バキンッ


「キィィィィッ」


 ハイアントの頭が破壊された。後ろに飛び下がり様子をみたが、震えるだけで中々倒れない。もう一度踏み込んで、剣でハイアントの頭を叩き切る。


 もろくなった頭はさらに破壊された。すると、ハイアントの体から力が抜けて地面に音を立てて落ちる。


 ピクピクと足が動いているようだが、立ち上がる気配はない。ギチギチと動いていた顎も止まり、ハイアントは完全に沈黙した。


 ハイアント戦の初勝利だ。


「やったー!」


 難しい相手だったけど、なんとか無傷で勝つことができた。さすがDランクの魔物、Eランクの魔物のように簡単にはいかない相手だった。


 早速ナイフを取り出して討伐証明である右の触角を切り取っていく。切り取ると素材入れ袋に入れて完了だ。


 ここでようやく勝てた実感が湧いてきて、体がそわそわしてくる。手をギュッと握って、バッと高くに突き上げる。


 ハイアントに勝ったよー!

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