84.大商会の息子の冒険の付き添い(3)

 プルプル震える手で切ったスネークを掴み、急いで素材入れ袋へと放り込む。


「ふぅ、これでいいよね」

「はい、良くできましたね」

「うん、僕は立派な冒険者だからね」


 スネークの体を袋に入れたご子息は胸を張って自慢げに答えた。


「次、次の魔物を探そうよ!」

「じゃあ、次はどっちが早く見つけられるか勝負しましょう」

「絶対に負けないぞ!」


 スネークを倒した影響なのか魔物討伐に積極的になった。勝負事を持ちかけると、やる気を全面に出してくる。


 すぐに辺りを見渡しながら歩き始めた。次をみつけるならスライムがいいかな、私も辺りを見渡してあの球体を探す。


 探し始めて数分、草むらの向こうでうごめく球体を見つけた。ふふ、どうやらこの勝負は私の勝ちだね。


「スライム見つけましたよ」

「えー、負けたー。どこにいるの?」

「あそこです、見えますか?」

「……なんかつるつるしているのがいる」

「近くに行ってみましょう」

「うん」


 スライムがいる方向を指差すと二人で歩いて近寄ってみる。そこにはいつもの緑色のスライムがプルプルしながら佇んでいた。


「これがスライム……ちょっと可愛い」

「スライムの中心にあるのが核です。討伐するにはあの核を壊せばいいですよ」

「どうやって壊すの?」

「剣を振るんじゃなくて、剣を突き刺せばいいですよ」

「ふーん、やってみる」


 剣を構えておそるおそるスライムに近づいていく。私も後ろから近づいて不測の事態に備える。


 剣が届く距離までやってくると、ご子息は剣先を下に向けて持ち上げて、核目がけて下ろす。剣先はスライムの体を抵抗なく通り、核を外して地面に突き刺さった。


「わわっ、外しちゃった」


 スライムの体がピクリと動くと、剣を包み込むように伸びてくる。


「早く剣を抜いてください」

「う、うんっ」


 指示を出すと、ご子息は慌てて剣を抜いて後ろに下がった。危なかった、剣を取り込まれなくて良かったよ。


 体を突かれたスライムはうにょんと体をくねらせている。あれは痛がっているんだろうか? 未だにスライムのことは分からない。


 スライムは体をくねらせた後、離れていくように這いずっていく。逃げる気だけど、逃がさない。


 私も剣を抜いてスライムに近づく。その剣でスライムの核を外すように剣を振るった。体を真っ二つにされたスライムはそれ以上逃げる事ができずに、その場でプルプルと震える。


「足止めをしました。今なら一突きで倒せますよ」

「う、うん……やってみる!」


 少し怯えながらも剣を構えながら近づいていく。十分に近づいた時に怯えるような表情をしたが、それも一瞬だった。


 急に真面目な顔に変わると、剣先をスライムに向けて突き刺す。今度は核に命中した。スライムはビクリと震えた後、ドロドロにその体は溶けた。


「やった?」

「えぇ、おめでとうございます。スライムを倒しましたよ」

「やった、やったー!」


 剣を持ちながらジャンプをして喜ぶ。初めて倒すとすごく嬉しいよね、私もそうだったな。


 なんだか懐かしい気分になりながらご子息を見守っている。そうだ、討伐証明を回収しないと。


「スライムの核が討伐証明ですよ。拾ってこの中に入れてください」

「うん。みんなに見せて驚かせるんだー」


 スライムの核を拾うと、私の持つ袋に入れた。よし、これであとはホーンラビットを倒せば一通り満足して貰えるだろう。


「次はホーンラビットですね。ホーンラビットは白い毛に覆われているので比較的見つけやすいですよ」

「次こそ僕がみつけるんだ!」

「私だって負けませんよ」


 また二人で勝負をする。今度は勝たせてあげたほうがいいかな、ちょっと手を抜いてもバレないよね。


 元気よく草原に駆け出していくご子息を見ながら、草原を見渡す。手を抜くっていってもホーンラビットを探すことだけ、護衛はしっかりとやろう。


 少し離れた位置から少しずつご子息に近づいていく。周囲に魔物の気配はない、唯一心配なのはスネークが潜んでいるのに見つけられないこと。まぁ、丈夫なブーツを履いているみたいだし噛まれても大丈夫かな。


 辺りを見渡しながら、ご子息を一番に気にかける。そうしてしばらく時間が経ったあと、ご子息がこちらに走りながら近づいてきた。


「わーん、ホーンラビットがきたよー!」


 よく見るとご子息の後ろからホーンラビットが駆け出してきているのが見えた。よし、出番だ。逃げてきたご子息が私の後ろに隠れた。これはちょっと避け辛くなってしまったな。


 仕方ないので、ホーンラビットに手をかざして魔力を高めていく。手に集中させた魔力を風の魔法に変換して、放った。空気の弾がホーンラビットに向かい、直撃したホーンラビットは後ろに撥ね飛ばされる。


「もう大丈夫ですよ。さぁ、今度はホーンラビットを討伐しましょう」

「う、うん」


 オドオドしながらも私の後ろから前に出てきた。ちょっと腰が引けてしまっているが、大丈夫だろう。


 さて、どうやってホーンラビットを倒せばいいのだろう。盾があるんだし、ホーンラビットの角攻撃を盾で防いでみよう。ぶつかった衝撃でホーンラビットに隙が生まれるから、そこを一突きにするのはどうだろう。


「よく聞いて下さい。まずホーンラビットが角を前にして突進してきます。そこを盾で防いでください」

「盾の出番だね」

「そうです。盾にぶつかった衝撃でホーンラビットが地面に倒れると思います。その隙に剣で一突きにしてください」

「分かった。なんだか簡単そうだなー」

「そうですよ。この討伐も成功させましょう」

「うん!」


 剣を地面に突き立て、両手で盾を構えさせる。吹き飛ばされたホーンラビットはすでに起き上がっており、こちらに向かって再び突進を開始した。


「うわわっ、来たー!」

「大丈夫です。よく見て、盾を構えて」

「う、うんっ」


 体を縮こませながらもしっかりと盾を構えさせる。私は衝撃で後ろに倒れないように背中に手を添えて衝撃に備えた。


 ホーンラビットの接触まで、あともうちょっと、来た!


 ドン


「キュッ」


 飛び上がってきたホーンラビットは盾に直撃した。その衝撃で少し撥ね飛ばされて地面に倒れる。


「今です、剣を抜いて」

「うう、うんっ」

「首辺りを目がけて剣で一突きです」

「わ、分かった!」


 盾を預かるとご子息は怯えながらも剣を抜き、倒れているホーンラビットに剣先を向けた。プルプルと震えながらも、一気に剣先をホーンラビットに突き立てる。


 うん、首辺りに深く刺さっている。もう動かなくなったし、討伐の完了だ。


「よくできましたね、討伐の成功です」

「やった? やった、やったー!」

「おめでとうございます」

「こんなに大きな魔物を討伐できたよ!」


 ご子息はメイドがいる方向に走っていった。とりあえずは、これでFランクの魔物は全て倒したことになるよね。なんとか上手にできて良かったなー。誰かにやらせるのってこんなに難しいことなんだ。


 ご子息に怪我もなく、なんとか討伐を終わらせることができた。あ、でもまだやりたいっていうかもしれないし、これで終わりじゃないよね。


 ◇


 結局その後、まだ討伐を続けたいと言ったご子息のために討伐を継続した。途中、昼休憩を取ったがメイドさんが持ってきた昼食を一緒に食べることになった。とっても美味しかった。


 昼食後も討伐を続けて、突然「疲れた」という一言により町へと戻っていった。初めての討伐にしては結構な数を討伐していたと思う。


 それで邸宅に戻り、挨拶を済ませて、報酬を受け取ったんだけど……6万ルタももらっちゃった。報酬の上乗せがあるとは聞いていたんだけど、まさか報酬が倍になるなんて思いもしなかった。


 クエストの内容は大変だったけど、こんなに沢山の報酬を貰えるなら全然苦じゃない。というか、普通の仕事よりも楽なのかもしれない。


 でも、今回みたいな特別な報酬のあるクエストって時々しかないよね。今回は特別だったってことで、またコツコツ頑張るぞー。

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