81.見習い錬金術師の護衛(3)

 気弱な女の子の背を撫でる勝気な女の子。キザな男の子は言葉巧みに励ましていた。


「どうします? 森の奥は止めておきますか?」


 一応聞いてみる。Eランクの魔物は弱いが一般人にとって脅威には変わらない。今の襲撃で恐怖が大きくなって動けなくなっているのであれば、引き返した方がいいと思う。


 三人は真剣な顏で口を開く。


「い、いえ……もう少し採取がしたいです」

「ここまで中々来れないから、今日を逃したくない」

「リルさん、お願いします」


 森の奥での護衛は継続らしい。私は強く頷いて、気持ちを改めた。


 護衛費だってこの子たちにとっては高かったかもしれない。三人で冒険者を雇えるくらいの金額、12000ルタも出してくれたんだから。


 私だって冒険者の端くれとして、受けたクエストは成功させたい。それに依頼者の力になってあげたい。私の時だって誰かが力を貸してくれたように、私だって今ある力を精一杯出してこの子たちのためになりたい。


「では、できる限り静かに行動しましょう。いいですか?」

「そんなの分かってるわよ。魔物とは会いたくないから」


 勝気な女の子がそういうと、三人は散らばって採取を続けた。みんな私の見える位置にいてくれるから守りやすい。


 さっきは不覚をとったかもしれないけど、これからはそうはさせないように気をつけていこう。聴力強化で周りの音を拾っていく。


 一番近くにポポがいる、距離も近いから遭遇する確率は高い。次にゴブリンの声も聞こえる、しかも3体も。距離は……100mあるかないか。遠くにまたゴブリンの声が聞こえるが、放置でも大丈夫そうだ。


 ポポを討伐した方が良さそう。どうしよう、この三人から離れても大丈夫かな。ゴブリンはまだ離れているから大丈夫だとしても、音の拾えなかった魔物がいた時が大変だ。


 リーダーっぽい勝気な女の子に聞いてみよう。


「近くに魔物がいるみたいです。討伐してきてもいいですか?」

「い、い、いいわよ。本当に大丈夫なんでしょうね」

「隠れている魔物がいなかったら大丈夫なんですが。このまま放置をすると間違いなく襲ってきます」

「そ、それなら……討伐してきてちょうだい」

「ありがとうございます。少し離れます」


 討伐の許可が降りた、急いで討伐していこう。ポポがいる方向を確かめて駆け足で行く。ポポの声が鮮明に聞こえてきた、そしてポポもこちらの音に気づいたのか突然大きな声を上げる。


「ポポーッ!」


 目視でも確認できた、ポポがこちらに向かって駆け出してきていた。剣を抜き、下に構える。


 くちばしを前に突き出してくるが、それを簡単に避ける。後ろへと回り込み、長く伸びた首を切り落とした。


 剣を鞘に納め、急いで討伐証明を素材入れ袋に入れ、体をマジックバッグに入れる。それから、すぐに聴力強化で周囲の音を確認だ。


 一番近くにいたゴブリンに何やら動きがあったみたいだ。話し合っているような声が聞こえた後、だんだんこちらに近づいてきているように感じる。


 しまった、ポポの声に反応してしまったのか。じっと音を探っているが、真っすぐここに来ているので遭遇は避けられないかもしれない。


 例えやり過ごせたとしても、採取は続けないといけないので、いずれ見つかってしまう可能性が高い。


 このゴブリンたちは討伐対象だ。三人を放置しておけないが、守りながら戦うのは無理がある。討伐するまでどこかに隠れてもらうしかない。


 急いで三人のところへと向かう。三人は夢中で採取を続けているようだが、それを一旦やめさせて一か所に集めた。


「こちらにゴブリンが近づいているようです。しかも3体もいます」

「えっ、ゴブリン……」

「3体も、か」

「ど、ど、どうするのよっ」


 ゴブリンのことを報告すると三人は目に見えて怯え始めた。


「私一人だったら討伐できますが、三人を守りながら討伐するのは無理です。なので、隠れて待っていてくれませんか?」

「分かった。さぁ、みんなで隠れよう」

「う、うん……」

「そ、そうね」


 キザな男の子が率先して二人を誘導してくれた。三人は草の茂った木の後ろに身を隠すと、静かにその場で待機してくれた。


「すぐに討伐してくるのでそれまで動かずに待っていてください」


 その場を離れて、先ほどの場所へと向かう。木の陰に身を隠しながら聞き耳を立てると、聴力強化をせずにゴブリンの声が聞こえた。


 ちらっと窺うと木々の間からゴブリンの姿が見えた。辺りを警戒しながら近づいている。私は飛び出す瞬間をひたすら待った。


 あと、10m。もうちょっと近づいて……ここだ!


 身体強化をかけて木の裏から飛び出す。一直線にゴブリンに向かって走っていき、剣を振り上げた。


「ギッ!?」


 ゴブリンはこちらに気づいた。だけど、もう間合いに入った。力の限り、剣を振り下げる。1体のゴブリンの胸を切り裂いた。


 次だ。もう一歩踏み込んで、下からすくい上げるように切り上げた。


「ギャーッ」

「グギャーッ」


 悲鳴を上げて2体のゴブリンが倒れる。


「グギギッ!」


 その隙にもう1体のゴブリンがこん棒を振り上げてきた。体に力を入れて、後ろに飛び下がる。すると、その後にこん棒が空を切って振り下ろされた。


 2、3歩と後ろへ下がり距離を取る。ゴブリンに手をかざして、魔力を高めていく。魔力は火に変わり、火球となって生み出された。その火球をゴブリンに向かって放つ。


「ギャーッ」


 近距離からの火球を避けられずにゴブリンの顏が燃え上がった。ゴブリンは地面に倒れて、熱さに悶え苦しんでいる。


 その傍まで近寄り、燃え上がる顔を目がけて剣で突き刺す。ゴブリンの体はビクンと跳ねた後、震えてそのまま動かなくなった。


 これで討伐完了だ。ここで聴力強化をして周囲の音を探ってみる。うん、近くに魔物はいなさそうだ。


 剣を鞘にしまい、腰ベルトにぶら下げたナイフでゴブリンの右耳を切り取る。それらを素材入れ袋に入れると、三人が待っている場所まで走っていく。


 隠れていた場所に近づいて声をかける。


「もう出てきても大丈夫ですよ」

「ほ、本当よね」

「はい。討伐証明の部位見ますか?」

「そ、そんなの見ないわよ!」


 そうか、残念だ。


 しばらくすると三人はゆっくりとではあるが出て来てくれた。まだ周囲を警戒しているのか、周りを見渡している。


「今でしたら、周りに魔物がいないので自由に採取できますよ」

「そうなんだね。よし、採取を開始しよう」

「時間もないしね、早く取っちゃおう」

「そ、そうよね。早くしないとね」


 キザな男の子の一言で三人は恐る恐るではあるが採取を開始した。私は周囲を警戒しながら三人を見守り続ける。


 ◇


「ふふふ、大量に取れたわね」

「これでしばらくの調合は大丈夫そうだね」

「華麗な調合を進められるのが楽しみだ」


 夕暮れ間近の道を進んでいく。正面にはすでに町の門が見えていて、護衛の仕事もあともうちょっとで終わる。


 この辺りになると魔物がいないので、ようやく気を抜くことができた。ふぅ、今回の仕事も大変だったなぁ。


 先に進む三人を見ながら進んでいくとあっという間に門に辿り着いた、仕事の終了だ。


「リルさん、今日はありがとうございました」

「ありがとう、お陰で調合ができるよ」

「ふん、お陰で助かったわ」

「こちらこそ、雇っていただいてありがとうございました」


 門の手前で三人と会話をする。すると、赤髪の女の子からクエスト完了の用紙とお金が渡された。


「それじゃ、失礼するわね」


 そういうと三人は門をくぐって町の中へと入って行った。んー、これでクエスト完了だ。あとは冒険者ギルドに寄って、クエスト完了の用紙を出して、討伐の報酬を受け取るだけだ。


 はぁ、今日は色んな事があって疲れたな。明日は集落のお手伝いだから、お手伝い以外の時はゆっくりと休んでいよう。あ、魔法の訓練もしないとね。


 私はのんびりと町の中へと戻っていった。

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