79.見習い錬金術師の護衛(1)

「あのリル様、また護衛のクエストを受けてみませんか?」


 木こりの護衛を終えた後、討伐証明の報酬を受け取りに冒険者ギルドに寄る。その時、受付のお姉さんがちょっと困ったような顔をしてクエストを薦めてきた。


「護衛のクエストですか? どういった内容になりますか?」

「見習い錬金術師3名を東の森へ連れて行き、採取中の護衛をする内容です」


 東の森で3名の護衛クエストか。ちょっと難しそうだな。


「他の冒険者が受けてくださったのですが、顔合わせの時にちょっと揉め事になりまして、破談になったんです。2回も」

「2回も、ですか。理由を聞いてもいいですか?」

「はい、なんでも依頼者様がいうには冒険者の顏が怖い、体格が怖いと言って断られたんです」


 えっ、何その理由。冒険者に怖い人がいるのは当然だよね。


「今度紹介する人は怖くない人がいい、という話になりまして。それでしたら、東の森で活躍していたリル様が一番の適任かと思いまして」

「ロイさんも怖くない人だと思うのですが」

「依頼者様がいうにはできれば女性の方がいいとおっしゃって。まずは、リル様に話を通してから、と考えまして」


 切実な視線を向けられて、断れる気がしない。流されてはダメだ、真剣に考えないと。


 今回は本格的な護衛になりそうだ。対象者が森の中を自由に歩いて、それを魔物の脅威から守ることが第一の任務になる。


 一度に3人の身を守りながら、魔物の脅威に晒された時に3人とも無事守れるかが不安だ。まだまだ経験の浅い自分には荷が重い、でも脅威が少ない東の森で経験を積んどいたほうがいいのかもしれない。


 で、問題は依頼者のほうだ。ただ単に怖い冒険者が嫌なだけなのか、違う理由もあって断っているのか正直に言って分からない。でも、そんなにはっきりと断れるのなら、私を見た後に嫌なら断ってくるかもしれない。


 一度会ってみない事にはなんともいえないな。うーん、私じゃダメな時はちゃんと言ってくれるよね。


「分かりました、受けてみます。ただ依頼者には護衛経験の少ない冒険者だっていうことを伝えてもらいたいのですが」

「ありがとうございます。こちらから伝えておきますね。では、早速なのですが、明日の朝にこちらに来て頂けませんか?」

「明日の朝にもう会えるんですか?」

「はい、急いでいるらしくて、今日見つかっても見つからなくても明日の朝にもう一度お越しになるという話でしたので」

「そうですか、では明日の朝にこちらに来てみます」

「クエストを受けて下さりありがとうございました。リル様だったら大丈夫ですよ」


 まさか、こんなに早く会えるなんて思ってもみなかった。まぁ、何事も早いにこしたことはないよね。


 お姉さんにお礼を言いカウンターから離れた。明日は一体どんな人がくるんだろう。


 ◇


 翌日、朝の配給を食べた私は後片付けをした後、ゆっくりと町に向かった。あんまり早く来すぎても、依頼者がいないかもしれないからね。と言っても、いつもより30分遅れての到着になったけど。


 冒険者ギルドに入ると、朝の列に並ぶ。それから受付のお姉さんに来たことを伝えると、待合席で待つように言われて座って待つ。しばらく冒険者を観察していると、出入口付近で見慣れない三人組が入ってくるのが見えた。


 ふと視線を移すと、ローブをきた女の子が二人と男の子が一人、あたりを見渡しながら入ってくる。見た目は私よりもちょっと年上って感じがする。その三人は大人しく列に並び、順番を待っていた。


 三人の順番が来て受付のお姉さんと話していると、その三人が突然私のほうを向いた。どうやら向こうも気づいたみたいだ。


 話が終わり一直線にこちらに向かってくる。私は立ち上がってその三人を迎え入れた。まず話しかけてきたのは長い赤髪の女の子だ。


「あなたが候補の冒険者って聞いたわ」

「はい、リルといいます」

「ふーん、見た目はまぁまぁね」


 ちょっと勝気な感じの女の子は私を上から下まで眺めて、そんな感想を言った。えっと、まぁまぁってどういうことだろう。


「ねぇ、あなたはどう思う?」

「僕かい? ごつくはないし、怖くはないし、僕らの要望とピッタリだと思うな」


 勝気な女の子が男の子に話を聞くと、髪をフサァッとかきあげながらキザに感想を述べた。髪をかき上げながら喋る人っているんだね、初めてみたよ。


「あなたは?」

「うん、この人なら大丈夫そうだよ。ありがとう」

「別にあなたのためじゃないわよ、みんなの意見を聞いてみただけなんだからねっ」


 気弱そうな女の子に聞くと、控えめな笑顔を浮かべて頷いていた。どうやら三人とも怖くない冒険者を希望していただけなんだね。良かった、他の理由がなくて。


「というわけで、あなたを採用します」

「ありがとうございます」

「と、ところでなんだけど」

「?」


 勝気な女の子は突然しどろもどろになる。どうしたんだろう、と言葉を待っていると――


「あの討伐数って本当なのかしら」

「討伐数? あぁ、東の森での討伐数ですね。はい、数が間違っていなければあっています」

「そそ、そうなのね。あなた見た目に反して結構強いのね」

「そうでもないですよ。ただ、そういうきっかけに巡り会っただけですから」


 なるほど、受付のお姉さんから討伐数のことを聞いて驚いちゃったのか。さっきまで威勢が良かったのに、いきなり態度がコロッて変わったから驚いちゃった。


「なら、早速行きましょう」

「今から行くんですね」

「そうよ。もしかして、用意していないとかじゃないでしょうね」

「大丈夫ですよ、いつでも行けます」

「そうなのね。ふん、ならいいわよ」


 また勝気な態度になった、なんだか不思議な依頼者だな。後ろにいる二人のことをチラチラ見ているのはなんだろう。そっか、カルーみたいにお姉さんぶりたいのかもしれない。


「行く前に屋台で昼食を買ってもいいですか?」

「それくらいの時間ならあるわ。でも、早くして頂戴ね」


 良かった、買い物を許してくれた。すると、勝気な女の子が先頭を切って進んでいき、残りの二人はその後についていく。私も遅れないように後をついていった。


 ◇


 昼食を買い、門を抜けて、東の森の手前までやってきた。三人は仲がいいのか、とても楽しそうにおしゃべりをしていた。


 だけど、ここからは魔物がいる領域。護衛としてしっかりと仕事をしないとね。


「この草原からFランクの魔物が出てきます。足元に注意をして歩いて下さいね」

「えっ、ここから魔物が出てくるんですか。うぅ、やっぱり怖い」

「Fランクの魔物だったら、僕らでも倒せそうだから、大丈夫さ」

「出る魔物って確かスライムとスネークとホーンラビットよね。それくらいなら、怯える必要はないわ」


 確かにFランクの魔物なら武器を持っていれば、大丈夫かもしれない。けど、ここは冒険者の仕事だからね。


「魔物がいても手出しはしないでくださいね。見つけたら教えてください、私が討伐しますので」

「よろしくお願いします」

「うむ、頼んだ」

「そ、そうよね。そのための冒険者だものね」


 私は先に歩き、東の森までの道を確保する。周囲を警戒しながら進んでいくが、魔物との遭遇はない。遠くを見れば、魔物らしき姿を見かけるがわざわざ倒しにいく必要もないだろう。


 そのままさくさくと草原を進んでいき、東の森の入口までやってきた。うん、ここからが仕事の本番だ。


「採取はこの辺りから始めますか?」

「えぇ、そうよ」

「なら、私が先に索敵をします。まずは安全確保を優先にさせていただきますね」


 早速聴力強化をして、周囲の音を拾っていく。音が小さいから良く分からないが、このあたりにはEランクの魔物がいなさそうだ。


「この周辺にはFランクの魔物しかいないようです、数もそれほどいなさそうですね。不安なら討伐してきますが、どうでしょう?」

「それなら別にいいわ。襲ってきたら助けて頂戴」

「分かりました」

「なら、採取開始よ」


 勝気な女の子がそういうと、三人はバラバラになって採取を始めた。一か所には集まらないんだね、これはこれで護衛として大変だ。魔物に襲われないようにしっかりと守らないといけないね。


 とりあえず、三人の周りを歩き回ろう!

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