78.木こりの護衛(3)

「木が倒れるぞー!」


 三度目の声が聞こえた。その声が聞こえたしばらく後にドシンッと木が倒れる音が響き渡った。先ほどまで木を切る音でうるさかった森が途端に静かになる。


 魔物が近寄って来てないか確認をしないと。聴力強化で森の中の音を拾う。その場でゆっくりと回転しながら音を拾っていくと、自然の音ではない声を拾った。


 ドルウルフだ。一度目と二度目はポポだけだったが、三度目になると離れた位置からでも魔物はやってくるらしい。真っすぐこちらに向かっているようだ。


 ドルウルフが来る進行方向を音を聞いて計算すると、その場所へ向かう。剣を構えてドルウルフが来る方向に歩いていくと、前方から足音が聞こえてきた。


「ガウッ!?」

「ウゥッ」

「ガウッ!」


 3体のドルウルフが現れた。私の姿を見てビックリしたみたいだけど、すぐに警戒の姿勢をとった。


 Eランクの魔物には戦い慣れたけど、3体相手はちょっと忙しくなりそうだ。ドルウルフに向けて手をかざして、すぐに火球を作り真っすぐに放った。


「ギャンッ」


 火球がドルウルフに直撃する。火が燃え移ったドルウルフはその場で回り転げた。残りの2体はそれを見て驚きつつも、すぐに私に向かって駆け出してくる。


 剣を構えて待っていると、1体のドルウルフが飛び掛かってきた。一直線で読みやすい軌道のため、横にずれることで簡単にその攻撃を避けられる。


「ガウッ」


 低姿勢で駆け出してきたドルウルフが足首を噛んだ。牙を立てて噛みつくが、丈夫な革のブーツでは歯が通らない。速攻で頭を潰して、1体を仕留めることができた。


 先ほど飛び掛かってきたドルウルフを見る、頭を下げてこちらを睨んできていた。だが、目が合うとすぐに真っすぐに駆け出してくる。


 剣を構えて待つと、また飛び掛かってきた。だから、また簡単に避けてみる。だが、今回はちょっと違う。すれ違いざまに剣で切りつけてみた。


 剣先はドルウルフの横側を長く切り裂き、傷を負わせることに成功した。ドルウルフはその傷のせいで着地ができず、地面の上に転がる。


 でも、まだ絶命していない。振り返り、急いでドルウルフに駆け寄る。ドルウルフは立ち上がれないのか地面の上でもがいていた。そこを剣で一突きする。


 これで残りは1体。火球にやられたドルウルフを見ると、立ち上がっているがブルブルと震えていた。


 なので、駆け寄り剣を振るった。頭を切りつけると、ドルウルフは短い悲鳴の後に地面に倒れた。これで戦闘が終了したので、再度聴力強化をしてみる。うん、音は聞こえない。


 ドルウルフの右耳をナイフで全て切り取ると、素材入れ袋に入れる。短い時間だったけど、結構な数の魔物を討伐することができた。これもしっかりと報酬に入るので、抜け目なく討伐証明を取っていった。


「そろそろ、戻って様子を見てみるかな」


 木が倒れた方向に駆け足で進む。何本倒すか聞いていないけど、もう木を切る音が聞こえていない。となれば、もう終わってしまっているかもしれない。


 すぐに森を抜けると、男性たちは倒れた木に集まり何かをしている。少し離れた位置でボーっと見ていると、棟梁が近づいてきた。


「リル、討伐は一段落したのか?」

「はい。近づいてくる魔物は倒せたと思います。あとは潜んでいないことを祈るだけです」

「そうなのか。魔物が襲ってこないことは初めてだったから驚いた。いつもは、数体の魔物がこちらまで来るんだが」


 良かった、近づいてくる魔物は全てこちらで処理できたようだ。


「お陰で早く木を切り倒せた、はじめは厳しい目で見てすまなかったな。リルは立派な冒険者だ」

「いえ、お役に立てたなら十分です。こちらこそ、子供なのに信用して下さって嬉しかったです」


 自分の仕事が褒められて、本当に嬉しい! 嬉しくて顏がニヤケそうになるけど、精一杯凛々しい顔をしてみた。えへへ、ダメだニヤケそうになる。


「今は何をやっているんですか?」

「今は余分な枝を切っている最中だ。これが終われば、一度材木置き場まで置いておく。それから、以前切った木を荷車に積んで町まで運び出すんだ」


 切り倒した木をすぐに持って行かないのは、何か理由があるのかな。私には分からないけど、何か理由があるなら聞くのは余計だよね。


 男性たちの作業は続き、枝がいっぱいついていた木が一本の真っすぐな木に姿を変えた。できたての木を材木置き場まで運び終えると、棟梁が話しかけてくる。


「すまないが、また魔物討伐をお願いできないか?」

「いいですよ。どこに行けばいいんですか?」

「あそこだ」


 指差した方向を見ると、材木置き場?


「木と木の間にスライムやスネークが入り込んでいることが多くてな。うかつに動かそうとすると、あいつらが手を攻撃してくるんだ」

「なるほど、そんなこともあるんですね」

「だから木を動かす前に退治して欲しいんだ」

「分かりました。ちょっと探ってきますね」


 材木置き場まで歩いて近づいていく。さて、どうやって隙間に入り込んだ魔物を討伐していこうか。隙間に剣を差し込んで、雷の魔法を発動するのはどうだろうか?


 接触すれば電気の衝撃でビックリして出てくるかもしれないし、不快な電気の刺激で出てくるかもしれない。よし、それでやってみよう。ダメだったら別の方法を探せばいいよね。


 材木置き場につくと、剣を抜く。抜いた剣を木と木の間に差し込んで、魔力を高める。手に集中させると、雷の魔法に変換した。すると、刀身が雷をまとい、バチバチと雷が弾けた音がする。


 それからゆっくりと剣を移動させていく。始めは何も反応がなかった。ダメかなって思った時、通り過ぎたところからスネークがゆっくりと這い出てきたのを見つける。


 すぐに剣の平らなところで頭を叩くと、スネークは感電して動かなくなった。再び剣を隙間に差し入れて、移動していく。


 しばらく歩いていると、また通り過ぎた後に今度はスライムが這い出てきた。すかさず核目がけて剣で一突きをする、木を傷付けないように気を付けながら。


 核をやられたスライムはドロリと溶けて、木を伝って地面に広がった。このやり方はあたりだったらしい、雷を維持したまま隙間に入り込んだ魔物を外に追いやっていく。


 その作業をずっと続けていくと、まだまだスネークやスライムが出てきた。その度に退治をしていき、木の安全を確保する。


 二往復くらいして、魔物が出てこなくなったことを確認する。それからスネークの本体とスライムの核を回収して棟梁に話しかける。


「どうでしょう、もう出てこなくなったので安全かと思いますが」

「あぁ、結構いるもんだな、ビックリしたよ。よし、お前ら今日は安全に作業できそうだぞ。とっとと木を荷車に縛り付けて町に戻るぞ!」


 棟梁の掛け声と共に男性たちが動き出して、木を運び出した。みんな動きがスムーズで、安心して作業して貰えてなんだか嬉しくなってしまう。


「今回の伐採は安全に早く終わらせたことができた。もし、良ければ今度指名しても問題ないか?」

「指名ですか? い、いいんですか? 私なんかまだ子供で……」

「子供でも立派な冒険者だ。それに楽に仕事をさせてくれる冒険者を逃したくないしな」

「……ありがとうございます! 是非受けさせてください!」


 まさか、まさか指名を受けられるなんて思ってもみなかったよ! それって、私の仕事が認められたことだよね。初めての護衛で不安だったけど、頑張って良かったな。


 まだまだ冒険者になりたての初心者だと思っていたけど、ちょっとは冒険者として胸を張ってもいいのかな。うん、これからも頑張ってクエストをしていこう!

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