77.木こりの護衛(2)
東の森の北側までの道を護衛しながら進む。護衛といっても先行して魔物を討伐し、後に続く木こりたちの道を確保しているだけ。
できる限り丁寧に魔物を討伐したお陰か、木こりたちに魔物が向かうことはなかった。木こりたちも魔物と遭遇して立ち止まることなく進んでいるので、道中は順調に進んでいったと思う。
周りに注意しながら東の森を北側に回り込んで歩いてく。すると目の前に大きな屋根の下に木が積み重なって置かれている場所に辿り着いた。この場所でいいのかな?
後ろを振り返ると木こりたちはこの場所を目指しているように見えた。しばらく待ってみると、この材木置き場まで近づいてくる。どうやらここで間違いないようだ。
木こりたちは荷車に乗せた道具を下ろしたりして、伐採の準備を始めていた。あ、私も仕事をしないと。
材木置き場から森までは100mくらい離れている。木こりたちの準備が終わる前に、近くの魔物を討伐しておきたい。
棟梁に近づいて、今後の予定を話し始める。
「すいません。これから森に行って、近くにいる魔物を討伐していきたいと思っています。私が帰ってくるまで伐採は待っていてくれませんか?」
「それは構わんが、あまり遅くなるのは困るぞ」
「時間がかからないようにします。もし、本当に遅かったら先に伐採を始めてもいいですよ」
「そうか、分かった。そのようにさせてもらうぞ」
そうだよね、待つのは良いけど遅くなるのはダメだよね。棟梁の提案を受けつつも、自分の提案も受けてもらった。
私は森へと向かった。急がないといけないから身体強化を使っての移動だ、久々の素早い動きに肌に当たる風が気持ちよく感じる。
森の中へと入り、少し奥へと進む。ある程度進んだら立ち止まって、聴力を強化する。その場で回転しながら360度の音を拾う。
……聞こえた。ゴブリンとドルウルフがいる。
まだ森に入ったばかりだけど、Eランクの魔物がいる。まだ森の入り口付近だけどFランクの魔物の気配がない。森に入る場所も違えば、いる魔物も違うってことかな。
居場所を確認すると、身体強化をしたまま走っていく。今回は討伐速度を重視するため、強襲しながら魔物を倒すことにしよう。
物音を立てながら進んでいくと、ゴブリンの姿が見えた、3体だ。ゴブリンたちは物音に気づき周囲を見渡している。その隙に1体のゴブリンに向かって強襲を仕掛けた。
「はぁっ!」
「ギャーッ」
背中からバッサリと切りかかった。ゴブリンはその衝撃に耐えきれずに地面に叩きつけられる。すぐに剣を返して、もう1体のゴブリンを下から切り上げた。
「グギャーッ」
「ギャギャッ」
残りは1体。その1体に視線を向けると、こん棒を振り上げてこちらに襲い掛かってきた。今からは避けられない。こん棒の速度に合わせて、剣で叩き切る。
「グギャッ」
こん棒を弾いた。こん棒を持った手が頭の上まで弾き出されると、ゴブリンは無防備になる。また剣を返して上からバッサリと切りかかった。
「ギャーッ」
胸元を切られたゴブリンは膝から崩れ落ちて、地面の上に転がった。それを見届けると、すぐに腰からナイフを手にする。倒れたゴブリンの右耳を3つ切り取ると、腰ベルトにぶら下げたままだった素材入れ袋に入れる。
ナイフをしまってすぐにその場を去り、ドルウルフがいた方向を目指す。森を走り慣れたもので、木々の間を縫うように走ることができてロスが少ない。
あっという間に2体のドルウルフを視界に捉えた。ドルウルフはこちらに気づいていて、体勢を整える。だが、遅い。
素早くドルウルフの前に飛び出ると、頭に向かって剣を振り下ろす。ドルウルフは反撃ができないまま、一瞬で絶命した。
「ガウッ」
残りの1体が襲い掛かってきた。口を大きく開けて、脛にかじりついた。革のブーツ越しから感じる牙の存在、だがその牙が肌に届くことはなかった。
脛を強く噛まれてはいるが、圧迫感があるだけで痛くはない。それでもドルウルフは噛み千切ろうと頭を左右に振っていた。
これは絶好のチャンスだ。剣先をドルウルフの頭に向けると、力の限り突き刺す。するとドルウルフから力が抜けて、自然と口が開き地面に倒れた。
ナイフを取り右耳を切り取り、素材入れ袋に入れる。とりあえず、これで捜索で見つけた魔物は倒した。念のため、もう一度捜索をしよう。
耳に手を当てて、身体強化で聴力を強化する。その場で回転をして周囲の音を聞くと、まだ魔物がいた。今度はゴブリンだけだ。
おおよその方向と距離を頭の中で計算すると、身体強化をかけたまま走り出す。今回は時間との勝負なので出し惜しみはしない。
◇
あれから3回の戦闘を終えて、材木置き場に戻ってきた。久しぶりの戦闘だったけど、ミスすることなく討伐ができたと思う、まぁ、倒し慣れたEランクの魔物だったおかげだけどね。
棟梁たちの様子を伺うと、まだ待っていてくれていた。良かった、間に合ったみたいだ。
「お待たせしました。周囲の魔物は討伐してきました」
「思ったよりも早かったな」
「これが討伐した魔物の証明です」
棟梁に話しかけて素材入れ袋を開けて確認をしてもらう。棟梁さんは中身を確認すると、小さく頷く。
「結構いたんだな。これだけ倒して貰えれば、しばらくは大丈夫そうだ。おまえら、仕事の時間だ、行くぞ!」
棟梁の声に男性たちは威勢のいい声を上げた。道具を持って森に向かっていく。
私もその後を追っていった。周囲の魔物を倒したといっても、離れたところにいた魔物が近づいてくる可能性もある。護衛クエストはまだまだこれからだ。
男たちが伐採する木を選び、早速斧を使って木を切り始めた。コン、コンという大きな音が響き渡って、近くに魔物がいればすぐに襲い掛かってきそうだ。
先ほど魔物を倒したのでそんなことはないが、もしかしたら見つけられなかっただけでいる可能性はある。木こりたちを守るように森の中を警戒しながら歩いた。
身体強化を使って聴力を強化したかったけど、木を切っている音が煩すぎて魔物の音を聞いてもかき消されそうだ。こういう時の索敵って難しいよね。
今回は魔物を警戒しなくてはいけないので、身体強化を使えないのが残念だ。でも、これは仕事なのでただ待つなんてことはしない。木こりたちを守るように森の中を歩いてずっと警戒を続けた。
「木が倒れるぞー」
そんな声が聞こえてきたしばらく後に、木が地面に倒れる大きな音が聞こえた。あんなに煩かった森の中が急に静かになる。
今だったら聴力強化が使えるんじゃない? 早速身体強化で聴力を強化して、周囲の音を探る。集中して聞いていると、ポポの声が聞こえてきた。ポポって大きな音に近づいてくるような気がする。
こちら側に来ないように急いでポポのところへと向かう。走っていくとポポの声が鮮明に聞こえてきた。視線を上げてみると2体のポポが喧嘩をしているところに出くわす。
物音も立てているんだけど、ポポはお互いを威嚇するのに夢中でこちらには気づかない。お尻を高く突き上げて左右に振っているだけ。
こんな隙だらけのポポも珍しいな。遠慮なくポポの頭を交互に刎ねて、戦闘は終了した。
ポポの頭を素材入れ袋へ、体をマジックバッグに入れる。そして、聴力強化をして周囲の音を聞く。集中して聞いていると、またポポの声が聞こえてきた。こちらはすごく多い声が聞こえてくる。
大きな音に近寄ってきたポポが鉢合わせしてしまったんだろうな。なんだか、喧嘩の仲裁をしているみたいだ。
こんなことを思っていても仕方ないか。声が聞こえる方向へ向かっていった。
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