75.ゴミ回収員

 配達員の仕事も終わり、また新しい仕事を探してきた。ゴミ回収員だ。


 Fランクで受けていたゴミ回収とはまた違ったものらしい。こちらのゴミ回収は個人からの回収ではなくて、お店などから出てくるゴミの回収だ。


 食堂だったら生ごみ、商店だったら破棄する商品などなど。そういった物を回収してゴミ焼却場に持っていくのがこの仕事。


 以前は通りを音を鳴らして歩き、音に気づいた住民が自ら外に出てゴミを出してもらうシステムだった。でも、今回は違う。


 町の中にはお店のゴミを回収する場所、というところがある。みんなその場所にゴミを置いておき、後で回収員が回収していくというやり方だ。


 回収員は荷車を引きながらゴミを回収する場所を巡っていき、ゴミを荷車に入れていく。もし荷車が一杯になれば、町の外にある焼却場まで持っていき、また回収に戻る。


 今回も第一区画から第四区画まであり、一日で回る区画は二つだ。今日は第一区画と第二区画の収集日らしい。


 町の中にある倉庫みたいな建物に回収員が集まり、まとめて説明を受ける。


「まず回収する場所の地図を配る。渡した地図の場所が各々の持ち場だから残さず回収するように」


 おじさんが話しながら一人一人に地図を手渡す。えっと、私は第二区画の半分を担当するみたい。


「倉庫から荷車を一台貸し与えるから、それを引いていけ。ゴミの焼却場は南門より歩いて十分くらいの場所にある。これがその地図だ、良ーく見て覚えておけよ」


 担当の人が一枚の地図を取り出してみんなに見せて回った。うん、簡単な地図だったから覚えるのも簡単だよね。大丈夫そうだ。


「だいたい夕方前には終わる仕事だ、怠けずにしっかりとやってくれよ。おっと、昼の食事は自由に取って貰って構わない。だが、休憩はしすぎるなよ」


 今回も自由な時に昼休憩を取れそうだ。歩きながら食堂がないか見てみようかな。


「えーっと、リルだっけか」

「はい、なんでしょうか」


 突然担当の人が話しかけてきた。


「体は小さいが、荷車は引けそうか? 無理だったら辞退した方がいいんじゃないか?」

「大丈夫です。身体強化を使って荷車を引くつもりです」

「へぇ、身体強化が使えるのか。なら、安心だな。よし、各々始めてくれ」


 やっぱり、子供だからか荷車を引けるのか心配されちゃった。でも、身体強化の話をしたら大丈夫だったみたい。


 この仕事を受けたのも、身体強化と体の鍛錬になるかなって思ったから受けてみた。普段の戦闘では一定時間身体強化を発動させて使っていたのだが、これからの戦闘はそれだけじゃ足りないと思った。


 それこそ戦闘中ずっと身体強化をかけないといけない事態になる可能性だってある。だから、身体強化を長時間発動させる鍛錬が必要だなと思った。


 これは前回の配達員の仕事をしながら思いついたことだ。万が一のために魔力ポーションも買っておいたから、魔力切れになっても大丈夫。


 さて、荷車を一つ借りていこう。普通に引くと少ししか進まない、けど身体強化を使えば難なく動いてくれる。


 よし、身体強化と体も鍛えてお金を稼いでいこう。


 ◇


 身体強化をしながら荷車を引く。身体強化はできるだけ細く長く、な感じで長時間使えるように使う魔力は低くしている。弱くした分、体が鍛えられた。


 全身に力を入れて、足を踏ん張って進んでいく。時折、道行く人が心配そうにこちらを見てくるが、気にしてはダメだ。地図を見ながら道をどんどん進んでいく。


 すると、一つ目の場所に辿り着いた。そこにはゴミが入った袋が積まれており、ちょっとだけ生ごみの匂いもしてくる。


 荷車を一旦置く。さてと、ゴミを荷車に乗せていきますか。高く積まれたゴミの袋を掴んで、持ち上げて、荷車の上に放り投げる。身体強化を使っているから楽々ゴミを投げることができた。


 黙々と作業を続けて、あっという間にここのゴミ捨て場のゴミを回収することができる。残ったゴミもなし、次に行こう。


 再び荷車を掴み、引いて歩いていく。地道な仕事だけど、しっかりとやり遂げよう。


 地図を見ながら道を進んでいく。やっぱり、道を行く人はこちらを心配そうな目で見てきていて、いたたまれない。もっとシャキッと荷車を引いたらいいのかな。


 というわけで、姿勢を正して前屈にはならないようにしながら引いて行く。すると腕に凄い力が必要になった。うーん、これは筋トレになるね。


 とりあえずそのまま荷車を引いて行くと、次のゴミ捨て場が見えてきた。こちらも一回目と変わらず高く積まれている。


 早速ゴミを荷車に載せていく。生ごみが入った袋だったり、固い何かが入った袋だったり重さは色々ある。どんどん放り投げて荷車に乗せていくと、もう半分以上埋まってしまった。


 これは次のゴミの回収をしたら、焼却場にいかないと。荷車を引き始めると、誰かが走ってくる足音が聞こえてきた。


「おーい、そこの回収員待ってくれー!」


 回収員、私のこと? 引くのを止めて振り向くと、二人の大人が袋を持って走って来ていた。なるほど、ゴミを出すのが遅くなった人か。


「はぁはぁ、ありがとう」

「大丈夫ですよ、ゴミを預かりますね」

「頼む」


 肩で息をしながら袋を渡してくる、合計四つある。それを受け取って荷車の上に乗せた。


「じゃあ、いきますね。ゴミ回収のご協力ありがとうございました」

「こっちこそ、ありがとう」


 一礼をしてから荷車を引き始める。こういうことっていうのはこっちの世界でもあるんだな、となんだか懐かしい気持ちになりながら道を進んでいく。


 ◇


 あの後、もう一か所のゴミ捨て場のゴミを回収したら荷車が一杯になった。ついでに荷車を引くのも重くなって辛くなり始める。


 だから、身体強化を少しだけ強めて焼却場に向かった。大通りを進み南門までいくと、地図を思い出しながら木がまばらに生えている平原を進む。


 すると、道から大分ずれたところに大きな穴がポッカリと空いていた。それはいつか見た光景と似ていて、なんだか懐かしい気持ちになる。


 穴に近づくと、すでにいくつかのゴミが捨てられていた。もちろん、ゴミの下には前回に焼却したゴミの燃えカスが沢山埋まっている。


 よし、ゴミを穴の中に捨てよう。軽めに身体強化をかけて、ゴミを一つずつ掴んで穴に放り込む。ドサドサとゴミが穴の中に投げ込まれていく。


 そういえば、このゴミの焼却場もあのお姉さんが魔法を使って焼却をしているんだろうか。そしたら、お姉さんは多くて一日に二回もゴミの焼却のために魔法を使っていることになるよね。


 ゴミが消し炭になるくらいの強い火の魔法か、私の火の魔法もその内それくらい強くなるのかな。今は軽いやけどしかダメージないけど、属性魔法も強くしておきたいな。


 そんなことを考えている内にゴミを全て穴の中に入れ終えた。現実に戻って、ゴミの回収を頑張りますか。


 荷車を引っ張って、町へと戻っていく。

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