69.在庫管理(1)
冒険者の仕事は色々ある。冒険者だからといって冒険ばかりが仕事じゃない。私が見た限りではゴミの回収、草むしり、馬車の洗車なんていう仕事もあるくらいだ。
冒険者とはいわゆる何でも屋なんじゃないかって最近思っている。だから、冒険者と言っても色んな人がいて、色んな目的を持って働いていた。
でも、町の中と外じゃ必要とされるスキルが全く違う。結局は二極化してどちらか一方に傾いて依頼を受ける人ばかりだった。
私は両方に興味を持ったから両方とも受けている。受付のお姉さんから「リル様は将来希有な存在になりますね」って言われたんだけど、どういうことだろう。
他の人もやろうと思えばできると思う。でも、やっている人はいない。そういう意味での希有な存在っていうことかな。
そんな私はしばらく討伐クエストを受けていたので、今度は町のクエストを受けている。受付で貰う仕事を受けた方がランクも上がりやすいしね。
今回受けたのは在庫管理のクエストだ。冒険者の仕事とは思えないほどの事務仕事に驚いちゃった。本当に冒険者って何でも屋なんだな。
目的地である商店につくと、お店の主人が忙しそうにしていた。そこを呼び止めてクエストの紙を渡すと、どこかホッとした顔をして説明してくれる。
「えーっと、品物を全部数えてこの紙に書いてください。あと商品の整理と、倉庫の掃除もお願いします」
うん、なんとなく予感はしていたんだけど在庫管理の仕事以外にも任されちゃった。まぁ、そんなもんだよね。
店主に連れられてお店の裏に移動すると、そこには大きな倉庫があった。鍵を開けて中に入るとぎっちりと棚が配置されていて、その棚には沢山の商品が乱雑に置かれているのが見える。
「高い位置にある商品ははしごを使ってください。落ちないように気をつけて。あと、掃除道具は隅にある細長いタンスの中に入っているからそれを使ってください」
「井戸はどこにありますか?」
「井戸は倉庫の裏に共同で使っている井戸があるからそこを使うように。あぁ、それと傷んでいる商品があったら私に見せに来てください。私は店の中にいるので、それじゃ頼みましたよ」
かなりの早口で説明を終えた店主は在庫を記入する紙の束を渡して足早に店の中に戻っていった。なんだか良く分からないけど、大変そうだな。
改めて倉庫に入って中を見ていく。倉庫の整理をしている暇がないのか、商品は一塊になって雑に棚にしまわれている。中にはホコリが溜まったまま放置されている商品もあった。
これは大変そうな仕事だ、一日で終わるか分からない。でも、適当な仕事をするよりも丁寧に終わらせた仕事のほうがいいよね。
腕まくりをして気合を入れる。まずは水を汲んでこよう。細長いタンスに近寄って開けると、色んな掃除道具が入っていた。
そういえば、水魔法を使えば井戸から水を汲まなくてもよくなるのかな。今度、水魔法を習得してみよう。いや、今やってみるのはどうだろう。
タンスの中からバケツを取り出して、外に置く。バケツに手をかざして集中する。魔力を高めて手に集中させた。あとは水のイメージだ。流れる川をイメージして、腕から魔力を絞り出すように。
「いけっ」
バシャンッ
魔力を魔法に変換すると水が発現した。
「やった、成功だ」
魔物と戦うには不十分だがこういう時には丁度いい量が出た。今まで魔法は上手く発現できているけど、これが普通なのかな。これから鍛えていくのが大変なだけだよね。
クエストを受け続けていると、魔法を鍛える時間がほとんどない。寝る前に魔力を消費するぐらいしか鍛える時間がない。うーん、今度しっかりとした時間を取ったほうがいいのかな。
あ、仕事しなくっちゃ。バケツを倉庫の手前まで移動しておいて、あとは雑巾を水で濡らして絞る。まずは上の段から始めて、終わったら下の段に移ろう。
在庫確認という名の掃除の開始だ。
◇
棚の上の段に手が届くまではしごを登る。その段には二つの商品があったけど、しばらく使っていないのかホコリが溜まっている。まずは商品を床まで下ろしておく。
それからまた上に登って、棚を拭く。かなりホコリが溜まっていて一拭きしただけで、雑巾にホコリのダマができてしまった。できるだけホコリを落とさないようにふき取る。
棚が綺麗になったら次は商品だ。商品は革製品のものだ。商品を外へ持っていき、ハタキでホコリを取っていく。それを全商品にやっていく。
それから在庫管理表に個数を記入していく。ちなみに商品名は近くに商品名が書かれた木札があったのでそれで確認した。
あとははしごを登って商品を置く。商品を置く時もしっかり並べて置いておけば取りやすいし分かりやすい。うん、これで一段目が完成した。
次の棚を見ると、こちらは上の段ほどではないがそこそこホコリが溜まっていた。一番上の段は普段出ない商品があるからホコリが溜まりやすいのかな。
まずは商品を取り出して床に置いてから棚を拭く。ここもホコリのダマができるくらいには溜まっていた。これを機に徹底的に綺麗にしてやる。
棚を拭き終えてはしごをおりると、今度は商品のホコリを取るためにハタキをかける。今回の商品はガラス製品だ、壊れないように優しくホコリを取っていく。
一つ一つ丁寧にホコリを取っていった後は在庫管理表に個数を記入していく。あ、商品の劣化もチェックしておかないとね。ガラス製品は壊れたところや欠けたところはないみたい。
またはしごを登って商品を綺麗に並べながら置いていく。ホコリがないとガラス製品が輝いて見えて綺麗だ。
次は下から二段目。この段だとはしごを登らなくても手が届く。一番手の届きやすい場所だからか、ここは見知ったものが置かれていた、ポーションだ。青色だから傷を癒すポーションだね。
ここはあんまりホコリは目立たないけど、あることはある。雑巾を確認すると、一度洗った方がいいと思った。雑巾についたホコリを取って水洗いする、結構水が濁ってしまう。
それからポーションを一度床に置き、棚を綺麗に拭いた。次にポーション自体を確認。ホコリはついていなさそうだけど、品質は大丈夫かな。
外の光を当てて一本一本確認していくと、色が変わったポーションを見つけた。濁った青色をしたポーションだ、2本も。これはちょっと劣化しているんじゃないかな。
床に置いたポーションを棚に戻し、色が変わったポーションは持って倉庫を出て行く。店の中に行くと店主が座りながら唸っていた。紙を真剣に見ているけど、声かけても大丈夫だよね。
「あ、あの、すいません」
「はっ。な、何かな?」
「このポーションなんですが、品質は大丈夫でしょうか?」
おそるおそる聞いてみて、ポーションを差し出した。店主はポーションを受け取ると、光りに透かして品質を確認する。
「あぁ、これは劣化してしまっているね。ポーションなんて売れ筋商品で入れ替わりが激しいのに、劣化が出るなんて……」
独り言を言って肩を落とす。劣化するほど放置するような商品ではないので、思わぬところで損失が出たことにがっかりしているんだろう。
なんて言ったらいいか分からずに黙っていると、ハッと気づいてこちらを向いた。
「あぁ、すまない。これはこっちで処分しておくから、続きをやってくれないか。できるところまででいいから」
「分かりました」
それから話もそこそこにして仕事に戻っていく。それにしてもあの店主は大丈夫なんだろうか、ちょっと心配だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます