64.パーティーの解散
あれから私たちは食事処に来ていた。
「へい、肉と野菜スープとパンを2セット、おまちどうさま」
「あー、腹減ったー。早く食おうぜ」
「はい。私もペコペコです」
目の前に置かれる肉、野菜スープ、パン。香ばしい匂いと温かみのある匂いが混じり合い、とてもいい匂いだ。早速ロイが食べ始めて、続くように私も食べ始める。
まずは固いパンを千切って、アツアツのスープに浸す。十分に浸ったら口の中に運ぶ。野菜の旨味を吸った柔らかくなったパンが絶妙に美味い。噛めばパンのほのかな甘みも感じられてもっといい。
次に肉。ゴロゴロとした塊が6つもあり、食べ応えがありそうだ。一つをフォークで刺して、歯で噛みちぎる。その瞬間ジュワッと肉汁が溢れてしまう。
それが勿体なくて結局一口で肉を頬張ってしまった。だけど、口の中は肉と肉汁で溢れて、幸せな空間ができている。歯ごたえのある肉を噛むと、塩味を感じてよだれがまた溢れ出す。
ゴクリと飲みこむと幸せの余韻が生まれる。
「はー、美味しい」
「ん、そうだな」
隣でロイが少し慌てるように食事をかきこんでいく。お腹が減っていたんだろうなぁ、と思いながらも全く気にしないで私は自分のペースで食べていった。
◇
「冒険者ギルドまで戻るのも面倒だから、この辺に座って話さないか?」
「いいですよ」
遅めの昼ごはんを食べた私たちは町の中心にある広場までやってきた。そこにはベンチが置いてあり、座って話すにはいい場所だ。
適当なベンチに座り、一息をつく。ふぅ、これからの話か、どんな結果になるんだろう。
「まず、今回のパーティーの結成は良い狩場が見つかったから協力し合うっていうことだったと思う」
「ロイさんが募集をかけたところに私が名乗り出た感じですね。始めはどうなるかと思いましたが、やり方次第で目標の一日3万ルタの報酬を手に入れることができました」
あれから二か月以上も経ったんだなー。あっという間に終わった感じがするよ。
「うん、今回の狩場の目的である報酬は沢山手に入ったと思う。俺は目標としていたマジックバッグを買えるほどにお金が貯まった。それだけじゃなくて、新しい装備も買い揃えられそうだ」
「私の目的はお金を貯めることでした。いずれ町に住みたいと思うので、家に関する代金を貯めているところですね。まだまだ足りませんが、大きく前進したと思います」
今回の狩場で稼いだお金は150万ルタになると思う、これは大金だ。短い期間で効率よく討伐できたからこそ、これくらいのお金を稼げたんだと思う。
ロイの目標は前から聞いていたマジックバッグだ。それに装備だってボロボロになったし買い換える必要もありそうだね。
「マジックバッグは新品を買うんですか?」
「もちろん、新品を買う! 上に兄貴たちがいたから、何を貰うのもおさがりばっかりだったんだよな。だから、欲しいって思うものは新品で買うつもりだ。もちろん装備も買い換える!」
すっごい嬉しそうに教えてくれた。そっか、上に兄弟がいたら自然とそうなっちゃうよね。良かったね、マジックバッグだけじゃなくて装備品も買い換えられて。
「リルが欲しいものって、町に住むことだよな。そしたら家を買うのか?」
「買うのもいいですねー。お金が貯まれば家を買って、家具を買いそろえて、自分だけの家を作るのも楽しそうです」
「だったらまだまだお金が必要そうだな。なんだったら、討伐作戦を続行するか?」
「私の目標はBランク冒険者になって市民権を得てから、町に住むってことです。だから、このままEランクの魔物を討伐するのだけは難しいですね」
「そっか、お金貯めもそうだけど、冒険者のランクも上げないといけないのか」
一日3万ルタを稼げるのは上のランクの人たちでも中々できないことなのは分かっている。だけど、折角ランクが上がったのならいつまでも同じランクの狩場で討伐するのは違うと思う。
稼げるお金がなくなるのは辛いけど、それよりもランクアップのほうが大切だ。きっとこれから上がり辛くなるから、少しでもランクが上がることをやっておきたい。
「今の狩場は魅力的ですが、それだと目標が遠のいてしまいます。だから、狩場はおしまいがいいと思っています」
「リルの考えは分かった。なら、今までの狩場での討伐は止めにしよう。俺だって冒険者なんだ、上のランクを目指していきたい」
「それに良い狩場はきっと他にもありますよ」
「Dランクでも良い狩場を見つけてやるぜ」
話し合いの結果、今回の狩場での討伐はおしまいということになった。お金は本当に魅力的で、もう少し稼いでいたいけど、ここは目標を取ることにする。
ロイも賛成してくれたし、本当に良かったな。Dランクでも良い狩場が見つかればいいけど、今回みたいに討伐だけするんじゃなくて違うこともしてみたい。
「ロイは受付の仕事を受けたりしないんですか?」
「あー、姉ちゃんに仕事を貰うアレか。俺は全然やらないなぁ、リルはどうなんだ?」
「私はできるだけ受けるようにはしていきたいです。町の外だけじゃなくて中の仕事にも興味があるので。それに町の中の仕事だとランクが上がりやすいって言ってましたよ」
「それ、本当か! んー、なら町の中の仕事も考えたほうが良さそうかな。あんまり得意なことってないんだけどな」
腕組をして唸りながらロイは考える。うーん、と首を右に左に振るが名案は浮かんでこないようだ。
「話を聞いてみるだけでもいいかもしれませんよ。自分に合ったものだけ選んで引き受けるのもいいと思います」
「そうだな。討伐ばかりじゃちょっと飽きてくるかもしれないな。今度ちょっと話聞いてみるよ、ありがとな」
うん、と強く頷いて決意した目をした。興味持ってくれて良かった、少しでもランクアップの足しになれればいいな。
「具体的に明日からどうするんだ?」
「私はしばらくは受付から仕事を得ていきたいと思います。ある程度受けたら今度は討伐の仕事を受けてみます」
「そっか、俺は体の傷を治そうかな。それと装備品も一新して、マジックバッグも買ってってしばらくは町の中でのんびりして休憩する。それから討伐をしていこうと思う」
「装備品を整えるのにも時間がかかりますし、いいと思います」
私の時もすぐに装備品を渡されなかったな。始めから作ったり、あるものを調整したりするから時間もかかっちゃうし。装備品が揃うまでの休憩はいいね。
ということは、討伐の作戦は終わったし、今後の動きはバラバラだし……パーティーは解散かな。
「リルと俺の動きが合ってないから、パーティーは解散だな」
「……はい」
「パーティーは解散だけど、いい狩場があったらまたパーティー組んでくれよな」
「ロイさん……」
こちらを向いてニカッと笑ってくれる。ロイもパーティー解散を寂しいと思ってくれるのかな、そうだといいな。
「俺はまたリルと一緒に討伐をしたいし、このまま別れたままなのは嫌だ。だから、約束していく。また、パーティーを組もうぜ」
片手をスッと出された。またパーティーを組もう、その言葉が心に優しく響く。また一人になっちゃうけど、一人じゃない。パーティーを組もうと思えばいつだって組めるんだもの。
差し出された片手をギュッと握って、精一杯の笑顔で応える。
「私も、またパーティーを組みたいです!」
「おう、またやってやろうぜ」
「はい!」
冷えていた心が温かくなり、交わされた約束でまた明日から頑張れそうだ。一人じゃないってこんなにも素敵なことだったんだね。
親から見放されて一人で生きていかなくちゃいけないって心のどこかで思っていた。でも、それは私の勘違いだったみたい。人と交わらないことなんて無理なんだから。
だったら、親とは違う人と協力できれば一人じゃない。孤独を埋めてくれる他人の存在に感謝しかない。
今は繋いだ手のぬくもりで孤独を埋める。
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