62.パーティーの討伐(8)

 アーチャーを倒し、残りはソードとメイジだけになった。倒れていた魔物は起き上がり、憤慨しているように顔をしかめている。


 これで少しは立ち回りしやすくなったな。できれば身体強化の魔法を使いながら属性魔法が放てればいいんだけど、そんな芸当できないしまだまだ鍛錬不足だ。


 反省はこれくらいにして、先にどっちを倒すのがいいか。攻撃速度の速いソードか一撃が痛いメイジか、どっちがいいんだろう。


 実際に戦ってみると、何を優先していいのか分からなくなってしまう。メイジを倒した方がいいって思っていたんだけど、今ではソードのほうが早く倒したほうがいいという考えも浮かんでくる。


 こういう時にすぐに案が浮かばないってことは経験が足りないからだよね。今まで倒しやすい魔物ばかり倒していたから、考えながら倒さないといけない魔物が目の前にくると混乱してしまう。


 周りに目を向けて見ると、ロイはホブゴブリンと向かい合ってお互いに武器を振るったり受け止めたりしている。


 Eランクの魔物をお願いした冒険者たちは動けない冒険者を庇いながら、なんとかさばいていた。この分なら大丈夫そうだ。


 あらためてソードとメイジと対峙する。近距離攻撃のソード、遠距離攻撃のメイジ。一長一短の2体を同時に相手にするのは難しい。


 こちらが魔法を使おうとするとソードが邪魔をしてくるし、メイジが相殺させるために魔法を使ってくるかもしれない。身体強化を使えば、速さで圧倒できるかもしれないがメイジの魔法を防ぐ魔法を使えなくなる。


 初めての戦いだから、何が良くて何が悪いのか全然分からない。下手に動くとあっという間にやられてしまうかもしれない。中々先手を取れない状況に焦り出しそうになる。


「ギャギャッ」


 先に動いたのはソードだ。剣を振り上げながらこちらに向かってくる。メイジに注意を払いながら、向かってくるソードを迎え撃つ。


 剣を振り下ろしてくるが、軌道が分かるため避けやすい。スッと横にずれて一撃をかわす。ここまではいいが、ここからがソードのしつこいところだ。


 一撃を避けられるとソードはムキになり、適当な軌道で剣をぶん回してくる。横に斜めに縦に、不規則な動きに緊張しながらも一太刀ずつ避けていった。


 避けるだけじゃなくて、こちらも攻撃をしなければ。だが、ソードは攻撃を受ける事を全く考えないで攻撃をしてくるので、攻撃するタイミングが掴みにくい。


 ちらっとメイジに視線を向けると、手の前にはすでに火球が作られていた。やばい、とっさにソードを盾にしようと立ち位置を変える。丁度私とメイジの間にソードがくるように移動した。


「ギャギャギャッ」


 ソードが邪魔になりメイジは怒った。だが、ソードは気にも留めずに私に向かって剣を振る。


 そのまま火球を維持していくメイジだが、維持できなくなるのも時間の問題だろう。あのまま維持するのも魔力と気力を使うから、長くは持たない。その時に隙が生まれるはずだ。


 それまでソードを盾にして、剣を避け続ける。早く火球がなくなるように祈りながら、今は我慢する。


「グギャッギャッ、ギャー……」


 メイジの苦しそうな声が聞こえてきた。すると、気が抜けた後に前にあった火球が萎んで消える。隙が生まれた、今だ!


 ソードが剣を振るった時、しゃがみ込んで再び足で足を蹴る。とっさのことで対応できなかったソードは体勢を崩して、その場に倒れた。


 すぐに立ち上がりメイジに向かって駆け出す。身体強化の魔法をかけると、速度が上がる。ぐんぐん進んでいき、メイジとの距離を縮めることができた。


「ギャッ!?」


 突然至近距離まで詰め寄られたメイジは驚く。すぐに手を前に出して火球を作ろうとするが、先ほど消費したばかりで中々できない。


 この絶好の機会は逃さない! 剣が届く距離まで詰め寄ると、下から切り上げる。


「グギャッ」


 剣はメイジの腕を切りつけた。ダメだ、浅い。振り上げた剣を返して、もう一歩踏み込む。そして、剣を振り下ろす。


「ギャァッ」


 メイジの胸をバッサリと切りつけた。だが、まだメイジは倒れない。柄をギュッと握ると剣先でメイジの体に突き刺した。


「ギッ」


 痙攣したように震えたメイジは膝から崩れるようにその場に倒れた。どうやら倒したみたいだ、残りはソード1体だけだ。


 すぐに振り向くと、ソードが立ち上がりこちらに向かって駆け出してきていた。身体強化の魔法を切り、ソードと対峙する。


「ギギッ」


 地面を蹴り飛び上がってきた。このままでは避け切れない、剣を構えてソードの剣を受け止める。


 その衝撃で全身がズシリと重くなり、膝が少し曲がる。地面に着地したソードはそのまま剣を押してきた。力は拮抗していて押したり押し返したりを繰り返している。


 ずっと続けることはできない、何か動きを止める案を考えないと。そのままの態勢で考えると一つの案を思い付いた。


 柄を持つ手に魔力を集中させる。魔力が集まってきたら、それを雷の魔法に変換して剣に大量に流す。


「ギギギギギッ」


 剣から剣へと雷が伝わり、それはソードを襲った。感電してビクつくソード、通電が終わると大きな口を開け、腕を下ろしながら呆けている。しばらく動けなくなったみたいだ。


 無防備になったソードに向かって深い一撃を加える。


「……ギッ」


 痛みにすら反応できないソードは短い悲鳴の後、うつ伏せに倒れた。そこにトドメの一撃を加える。剣先で貫くと、ビクンッと体を震わせた後動かなくなった。


 ようやくDランクのゴブリンたちを倒すことができた。無我夢中だったので今は実感が湧かない。少しだけボーッとしていると、ホブゴブリンの声が聞こえてきてハッと我に返った。


 振り向くとロイとホブゴブリンがまだ戦っていた。でも、見てみるとホブゴブリンはかなりの手傷を負っていて劣勢なのが見て取れる。


「援護しないとっ」


 すぐに近寄って、少し離れたところで止まる。手をかざして、魔力を高め、火球を作り出す。


「ロイさん、いきます!」

「っ!?」


 合図をすると、ロイが気づいてくれた。ホブゴブリンと距離を取るように移動をしてくれる。それを確認すると火球をホブゴブリンに向けて放った。


 真っすぐに飛んでいった火球はホブゴブリンの体にぶつかり、その体は燃え上がった。


「グオォッ!?」


 突然の火に驚き、こん棒を振り回す。その隙にロイはホブゴブリンの背後にまわり、駆け出してジャンプをした。


「うおぉぉっ!」


 両手で持ったメイスを力一杯に振り、ホブゴブリンの頭目がけて振り下ろした。骨が砕ける音が響いて、ホブゴブリンの体は力なく地面の上に転がる。


 これでDランクの魔物との戦闘は終了した。ロイを見てみると、肩で息をしながらこちらへと近づいてくる。


「リル、援護ありがとな」

「気づいてくれて良かったです」


 ロイの体はちょっとだけ打撲をしているようだが、大したことはなさそうだ。二人とも無事な姿を確認できてホッと一安心をする。


 そして、戦闘が終了してようやく喜びが湧き上がってきた。初めて戦ったDランクの魔物との戦闘を勝利で終えることができた、その嬉しさはどんどん膨れていく。


「この戦闘はリルの勝ちだな」

「ふふっ、勝ちました」

「あーあ、やっぱり魔法を諦めないほうがよかったのかなー」


 二人で交わす言葉が嬉しくて笑みが零れる。すると、ロイが手を高く上げてきた。


「初勝利、おめでとう!」

「ロイさんこそ、おめでとうございます!」


 二人で元気にハイタッチを交わす。始めは勝てないかもと思っていた戦闘を無事に終えることができたのは、二人一緒だったからだ。


 だから喜びを二人で分かち合うとこんなにも嬉しくなるんだね。

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