61.パーティーの討伐(7)

 茂みの奥から現れたDランクのゴブリンたち。初めてみるその姿に少しの恐怖が込み上げてくる。


 下卑た笑みを浮かべてこん棒を叩くホブゴブリン。今にも切りかかってきそうなゴブリンソード。何やら話し合っているゴブリンアーチャーとゴブリンメイジ。


 初めて対する魔物を前にして、頭の中が真っ白になった。が、それも一瞬のこと。すぐに我に返って剣を構える。


「あなたたち、すぐに走って逃げられますか!?」


 まずは逃げることを優先にした。初めてのDランクの魔物、しかも4体もいる。ここは安全策をとって逃げることを真っ先に考えた。だが、その希望は打ち砕かれる。


「わ、悪い……ここまでくるのに必死で、息がっ」

「それに友達を抱えているから、走っていればいずれ追い付かれちゃうの」


 その冒険者を見れば、すでに立っている力がないのか地面の上に座り込んでいた。逃げることはできなくなってしまう。この人たちを置いて逃げることもできるが、助けを求めてきたのだから見捨てられない。


 するとロイが声を上げる。


「あ、お前らあの時のパーティーか!」

「あの時……あっ」


 よく見てみるとそのパーティーは討伐について最後まで食い下がって来ていたパーティーだった。どうやら、私たちの真似をして瘴気の近くで討伐をしていたみたい。


 でも、長く討伐している私たちが出くわさないで、最近始めたばかりのパーティーが出くわすなんて……きっと私の幸運のお陰なんだろうか。


「ギギャッ」


 ホブゴブリンの声がして振り向いた。ホブゴブリンは顔をしかめながらこちらを睨んでくる。こん棒を肩で担いでこちらに向かって歩いてくる。


 もう覚悟を決めるしかないか。腰を落として剣を構える。だが、ホブゴブリンは私のほうには来ずにロイのほうへと向かっていった。


「どうやら俺をご指名らしいな」


 離れたところにいたロイはメイスを構え直してホブゴブリンと対峙する。残りのゴブリンはどうなったのか、と気になって見てみる。


「ギャギャッ」

「グギャーッ」

「グギャッ」


 残りの3体すべてが私のほうを見ていた。


「えっ、嘘……」


 ニタニタと笑いながらゴブリンたちは私を見る。もしかして、さっきアーチャーとメイジが相談していたけど、こういうこと?


 背筋がゾっとした。一番弱そうな私を選んで、複数の力で先に潰す気だ。普通のゴブリンとDランクのゴブリンとじゃ違うって分かっていたのに、分かっていなかった。


 単調なEランクのゴブリンだったから、Dランクでは単調じゃないって考えれば分かるのに。突然襲ってきた現実に冷や汗が流れる。


「リルっ!」


 ロイが私の状況に気づいてくれた。こちらに駆け寄って来ようとしてくれたが、ホブゴブリンが間に入りそれを邪魔する。


「グギャーッ」

「くっ、こいつら始めからこれを狙っていたのか! リル、俺がこいつを倒すまで負けるんじゃねーぞ! すぐに行ってやるからな!」


 ロイの言葉が私に勇気をくれる。ロイ自身も初めてのDランクの魔物との対決なのに、私を助けようとしてくれた。それだけでも、私の小さな勇気に火が灯る。


 私はいずれBランクになる冒険者だ、こんなところで怖気づいてなんていられない。いつかは倒さなくちゃいけない魔物が目の前にいる、ただそれだけだ。


 剣を握り直して、深呼吸をする。先ほどまで絶望に染まっていた胸の奥から熱いものが込み上げてきた。こんなところで負けてなんていられない!


「私こそ、早く倒してロイを助けにいってあげます!」

「へっ、いうねぇ! だったら、どっちが早く倒せるか勝負だ!」


 お互いに激励しあい、対峙する魔物を見る。ここは絶対に負けられない、だけど一つだけ懸念があった。横やりが入ることだ。


 地面に座り込んでいるパーティーを横目に見て、声をかける。


「あの、私たちがDランクの魔物と戦います! だから、他のEランクの魔物が現れたら相手して貰ってもいいですか!?」

「わ、分かった!」

「お願いします!」


 二人が返事をしてくれた、これで横やりが入ることは極端に減っただろう。あとは、目の前にいるゴブリンたちとどう戦っていくか、だ。


 ソードがゆっくりと前に出てきて、その後ろにアーチャーとメイジが控えている。早速アーチャーが弓矢をつがえて、こちらを狙っていた。だけど、すぐには射ない。


「ギャーッ」


 ソードが声を上げて駆け出してきた。速さは普通のゴブリンよりも速い、けど相手にできない速度じゃない。私は剣を構えながら、ソードとアーチャーを見る。


 先に攻撃を仕掛けてきたのはアーチャーだった。ソードが駆け出してきた後、弓矢を射ってくる。ビュッと飛んでくる弓矢は真っすぐに私に向かってきた。


 直線に飛ぶ弓矢を横にずれることで避ける。その避けた後にソードの振り上げられた剣が迫って来ていた。


「ギャッ」


 ジャンプして襲い掛かってくる。まさか飛んでくるとは、一瞬戸惑ったがすぐに避けた。ソードの振り切った剣が空を切り、地面へと着地をする。


「ギギッ」


 だが、それだけでは止まらなかった。すぐに顔を上げて、私に向かって再度剣を振る。


「くっ」


 素早い攻撃に体勢が崩れるが、なんとかそれも避け切った。その時、鼻先に弓矢が飛んでいった。


「!?」


 ビックリしてアーチャーを見ると、ちょうど弓矢を放った態勢をしていたのが見えた。危ない、こっちも注意しなければいけない。それどころか早めに倒さなければいけないだろう。


 足に力を入れてアーチャーに向かって駆け出す。遠距離攻撃で尚且つ攻撃速度の速いアーチャーを先に倒せば、立ち回りで苦労することはなくなるだろう。


 しかし、そうはさせないとメイジが手をこちらに向けてきた。視界の端でそれが見える。手の先で小さな火が灯り、それが段々と大きくなっていく。そして、それは放たれた。


 真っすぐに飛んでくる火球。進行方向に向かって飛んでくるのを見て、慌てて走るのを止めた。それから後ろへと飛ぶと、すぐ目の前を火球が通過する。間一髪だった。


「グギャーッ」

「ギギギッ」

「ギャーッ」


 悔しそうにするメイジ、それを見て笑うアーチャー、今にも飛び掛かってきそうなソード。人をあざ笑うかのような態度にちょっとだけムカッとした。だけど、弄ばれているのは事実だ。


 とにかく早く1体は仕留めないとこちらが追い詰められてしまう。体勢を整え、剣を構え直して誰を攻撃するか考える。


「ギャーッ」


 考えている時にソードが走り寄ってきた。剣を上に掲げて近寄ってくると、乱暴に剣を振るう。その軌道を見極めて避けるが、ソードはお構いなしに剣を何度も振るってくる。


 剣が何度も空を切る音が響く。このままでは攻撃がままならない。どうにかしてソードの動きを止めたい。


 とっさにその場でしゃがみ、片足を地面スレスレで蹴る。足はソードの足にぶつかり、その衝撃でソードは地面の上に倒れた。


 すぐにアーチャーを確認すると弓矢をつがえていて、それが放たれた。踏ん張って飛び上がると、地面に弓矢が突き刺さる。攻撃をするならここだ。


 足に力を入れて走る。そして、走りながらメイジに向かって手をかざす。一気に魔力を引き出して、出の早い風魔法を放つ。


「ギャッ」


 手を構えていたメイジよりも早く風魔法を発動させたことで、メイジは魔法を放てなかった。突風がメイジの体を襲い、その体は後ろへと吹き飛んだ。


 目指すはアーチャー。アーチャーはもう一度弓矢をつがえて、それを放った。だが、ゆっくりと狙う時間がなかったのか弓矢は全くの的外れなところへと飛んで行った。


 大きな隙が生まれた、この機は逃さない。アーチャーのところまで駆け寄り、下に構えていた剣を振り上げた。


「グギャーッ」


 構えていた弓もろとも切った。だが、まだ安心できない。すぐに剣を切り返し、もう一撃深く強く振り下ろした。


 悲鳴を上げたアーチャーは途端に力がなくなり、ぐしゃりと地面に倒れた。これで1体目、残りは2体。

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