59.パーティーの討伐(5)

 私たちの快進撃が始まった。


 やり方は同じ、東の森の入口でホーンラビットを狩ってから狩場へと行く。午前中は音を鳴らして魔物をおびき寄せて、魔物が現れなくなるまで討伐を続ける。


 それから魔物が現れなくなったらホーンラビットを焼きながら、討伐証明の刈り取りと広場の整理を始めた。それが終わってから昼食と昼休憩だ。その前にホーンラビットの焼けた匂いを風魔法で分散させることも忘れない。


 休憩していると匂いに釣られて魔物が周辺に集まってきた。その集まった頃を見計らい、午後の討伐を開始する。すると、午前中とは変わらない討伐数を稼ぐことができる。


 午後の討伐が終わる頃には帰る時間になった。周りに魔物がいないことを確認すると、明日のホーンラビットの皮を剥いで串焼きにできるように肉をさばく。


 それから帰路について冒険者ギルドに寄り、報酬を受け取る。あの日以来、毎回3万ルタを超えている。


 それが一週間、二週間と続き、一か月、二か月と経過した。なんとひと月70万ルタ弱の稼ぎになってしまった。それを二か月だからこの討伐作戦では140万ルタ弱を稼いでしまう。


 そして、私の貯金額が185万ルタになっちゃいました。なんだか一生この討伐作戦でいいような気がしてくる。けど、私の目標はBランク冒険者、このままの討伐をしていてもランクは全然上がらない。


 あっという間に前回の最高貯金額を超してしまい、急に手にした最高貯金額を前にちょっとだけ怖くなったのはここだけの話。どうしよう、もう一回同じ装備が買えちゃうよ。


 それと、二か月の討伐作戦のお陰でロイのランクがDにアップした。アップした時はお互いにハイタッチをして喜びを分かち合う。


 で、本当ならロイはDランクの魔物を倒しに行くためにパーティーを解散する予定だったんだけど、私のことを気にかけてくれた。そう、私がDランクになるまで一緒に討伐作戦をしてくれることになった。


 でも、こっそりと教えてくれた、もう少し一緒に稼ぎたかったのもあるんだって。まぁ、分かる気がする。私がロイでもそうしただろうし。……まだ一緒にパーティー組んでくれて良かったな。


 あと一つ、私の力がアップした! 今のステータスはこんな感じだ。


【 力 】 Ⅾ+ → C


【体 力】 C


【魔 力】 C+


【素早さ】 C


【知 力】 B


【幸 運】 B


 今回の討伐で沢山剣を振るっていたお陰か力がCにアップした。これで私の体は一般から優れているという能力値になる。ふふ、嬉しいな。


 そんな激動な二か月を過ごしていた間に起こったこともあった。


 低級の魔物でそれだけ稼げるのが珍しいのか、他の冒険者がカウンターで清算している時に興味深そうに見てくる。それくらい稼げるのはDランクやCランクになってからだと言われたこともあった。


 上のランクの人たちでも魔物1体辺りの単価が高くても、数を討伐しないことにはそれほど稼げないらしい。


 悪い時は宿代だけの日だってあるし、日銭しか稼げない時が続くことだってある。そんな中で下のランクで毎日3万ルタを稼ぐ私たちは異常であった。二人でじゃなくて一人で3万ルタ。


 異常だから、と突っかかってくる人が出てくるんじゃないかと心配したが、そんなことはなかった。だって相手をしているのがゴブリンとドルウルフとポポの弱い魔物だからだ。


 上のランクの人が突っかかれば、周りから弱い冒険者にイキリ散らかす馬鹿にしか見えない。上のランクには上のランクの見栄があるのか、羨ましそうにはするがそれ以上は何もない。


 なら、同ランクの人はどうだろう。大半は羨ましそうに遠巻きに見ているだけで、何もしてこないし言ってこない。その人たちは無理のない範囲で戦っているのか「いいなー、でもあそこまで頑張りたくない」と呟いたのを聞いた事がある。


 接触してきた人たちもいる。同じくパーティーを組んでいる人たちで、どうやったらあんなに魔物と遭遇して倒せるのか、と何組か聞いてきた。


 すると、ロイは正直に話す。


「瘴気の合流地点を見つけたんだ、だから魔物が一杯出てくるし討伐数を稼げている。あとリルとの連携が上手く取れているからかな」


 まず瘴気の合流地点で顔をしかめた人が多かった。やっぱり瘴気のたまり場っていうのがどれだけ怖い場所なのか分かっているようで、その話を聞くとそれ以上聞かなくなる。


 それでも一組のパーティーが食い下がってきた。合流地点の見つけ方や戦う時の注意点など、事細かに聞いてくる。その度にロイや私が気づいたことを伝える感じだ。


 毎日3万ルタ超えの報酬を受け取っていたから、自分たちも頑張ればそれくらいの報酬を得られると思ったのだろうか。その目はとても真剣でやる気に満ちていた。


 こういうのを見ると少しでも力になりたいと思ってしまう。私もがむしゃらに頑張ってきたから、他人事には思えなくてつい要らない助言までしてしまった。


 頑張ってくれるといいな、というか頑張れ。そんな応援を心から送る。


 そんな事があってからしばらくしたある日、いつも通り清算を済ませた時だった。


「リル様、ロイ様ちょっとお話したいことがあります」


 いつもは優しい笑顔を浮かべていた受付のお姉さんが真剣な顔付きで話しかけてきた。


「東の森で上位種のゴブリンを見かけたことはありますか?」

「上位種ですか? 私は見たことがないです」

「俺も見たことがないな」


 突然上位種の話になって驚いたが、一体どうしたのだろう。


「あの東の森の奥には時々上位種のゴブリンが姿を現します。もし姿を見かけた時はこちらに報告して貰えませんか?」

「分かりました。ちなみに上位種のゴブリンはランクはいくつになりますか?」

「現れるのはDランクの上位種のゴブリンです」

「なら俺は戦っても問題ないけど、リルがいるからな。無理せずに逃げて報告する」


 下のランクに適した場所だけど、上のランクが全く出ないっていうことはなかったんだね。きっと私たちが戦っている場所がその可能性があるから気を付けるようにって忠告してくれたのかな。


「でも、もし他の方が追われている状況でしたら助けて頂けませんか? きっとお二人の真似をされて奥地まで行ってしまい、遭遇してしまう可能性がありますので」

「そうですね。その時は逃げる手助けをしようと思います」

「状況によっては逃げられない時もあると思うから、戦闘になった場合のことも考えておこう」


 あの森では様々な少年少女が冒険をしている。自分たちが出くわさなくても、違う人が出くわす可能性があって、その人たちと出会うことだってある。逃げられなくて戦うしかないこともあるかもしれない。


 いざ、という時のための心構えをしていたほうがいいだろう。ロイの言葉に賛成をして、ある提案をする。


「なら、三階の図書室に行って魔物のことを調べませんか?」


 事前に知識を得ていたらきっと対処もしやすくなるだろう。だけど、ロイは不思議そうな顔をして首を傾げていた。あれ、はじめに調べることは常識ではないのかな?

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