58.パーティーの討伐(4)

 翌日、東の森の入口でホーンラビットを狩り、焚き火用の枝を集めてから狩場にやって来た。午前中は昨日と同じような忙しさで討伐をしていき、あっという間に昼休憩の時間になる。


「どうだ、周辺に魔物はいるか?」

「いえ、音が聞こえないのでいないと思います」

「よし、じゃあ早速ホーンラビットの肉を焼くか」


 周りに魔物がいないことを確認してからホーンラビットの肉を焼く。私はマジックバッグから焚き火用の枝を取り出し、広場の隅に枝を組む。それを5か所設置したら、順番に火をつけていく。


 火がつくのを確認してからロイが棒を刺したホーンラビットの肉を地面に刺していく。全部差し終えると、今度は午前中に倒した魔物の討伐証明の刈り取りと広場の整理だ。


 自分が倒した魔物の討伐証明を切り取り、ある程度切り終えてから魔物の体を森の中に移動させる。この作業が結構大変だ、でも体も鍛えられるし力もその内上がるかな。


 そして、今私は焼いている最中のホーンラビットの肉の前にいる。待ちきれなくて傍にいるんじゃなくて、ちょっとした魔法の訓練をしながら魔物の餌の匂いを分散させるためにいる。


 ホーンラビットの肉からは香ばしい肉の焼ける匂いが立ち上がっていて美味しそうだ。その匂いに向かって手をかざし、魔力を集中させる。


 使う魔法は風。風を起こして匂いを遠くまで運んでいくつもりだ。初めての魔法だから上手く出来るか不安。でも成功すれば作戦は上手くいくし、魔法だって上手くなるはず。


「ふぅ」


 意識を集中させて風のイメージを頭の中で思い浮かべる。手に魔力を集中させて、思い浮かべたイメージに合わせるように魔力が変換していく。


 高まっていく魔力を感じつつ、魔力の形を変えていく。風、風のイメージをしっかりと持って、魔力を解き放つ!


 ゴオォォォォッ


 手のひらから突風が吹き荒れた。その突風は森の中へと飛び、木の枝を大きく揺らすほどの力があるもの。風の魔法の成功だ。


「できた、これが風の魔法」

「おお、すげー風が出たな。上手くいって良かったな」

「……はいっ」


 やった、成功したよ。まだ普通の風しか出せないけど、これを鍛えていけば風で物を切れるようになるかな。その内、トルネードとか大きな魔法が使えるようになったら嬉しい。


「全部の焚火の前でやるのか、魔力とか大丈夫か?」

「うーん、多分大丈夫だと思います。まだ弱い魔法ですから、魔力消費が少ない感じがするので」

「そうか、なら良かった。戦闘中に魔力が切れたら大変だからな」


 今まで戦闘中で魔力切れになったことはないから大丈夫。毎晩残りの魔力を消費しておいて自分の全体量とか把握しているしね。お陰で少しずつだけど魔力の総量が増えているんだよね。


 普通に魔法を使うだけでも魔力は増えるけど、使い切った方が魔力が上がりやすくはなっている。やっぱり使う量が多ければ多いほど、魔力が上がりやすいってことだよね。


 残りの焚火の前で風魔法を使っていく。匂いが突風に運ばれて森の中に分散して行った。後はこの匂いに釣られて魔物が増えてくれることを願うだけだ。


 その間ロイはホーンラビットの肉の焼き加減を見ていてくれていた。


「よし、肉が焼けたぞ。さぁ、食うか」

「はいっ」


 ロイは2つ、私は3つだ。2つは食べるとして、残りの一つは晩御飯用に残してある。マジックバッグに入れておけば大丈夫だし、屋台でパンとスープだけ買えば安上がりで済むしね。


 ……ちょっとケチくさかったかな?


 ◇


 ホーンラビットの肉をたらふく食べて、休憩した後に結果は現れた。身体強化で周りの音を探ってみると、昨日とは明らかに魔物の数が違っている。魔物の餌作戦は大成功だった。


 早速ロイが鍋の底を叩いて音を出すと周囲にいた魔物たちが動き出す。次々にこの広場にやってきて、午前中と変わらない戦闘光景が広がっていた。


「次がくるぞ!」

「ゴブリンを1体倒したら向かいます!」


 ドルウルフとゴブリン1体ずつ相手をしている間にまた次が現れた。早く倒すために身体強化の魔法で体を強くして、ゴブリンに向かっていく。


「ギャッ!?」


 突然速くなった私の動きに驚いたゴブリンはこん棒を乱暴に振り回す。そこを剣で切りつけてやれば、こん棒はゴブリンの手からすり抜けて遠くへと飛んで行った。


 無防備になったゴブリンを素早く切りつけると、すぐに新たに現れたドルウルフと向き合う。


「こちらは大丈夫です!」

「頼んだぞ!」


 ドルウルフはすでにこちらに向かって駆け出してきていた。そこで手をかざして魔力を高める。先ほどイメージした風を強く思い出して、魔力を魔法へと変換する。


 ゴオォォォッ


「ガウッ!?」


 突然の突風でドルウルフの体が持ち上がり、後ろに少しだけ飛ばされた。体勢が崩れた隙を突き、一気に距離を縮めて走り寄る。よろよろと立ち上がろうとするドルウルフを切りつける。


「ギャンッ」


 深い一撃を受けたドルウルフは立ち上がることなくその場に倒れ伏した。すぐに意識を周囲に向けると、ゴブリンの声が聞こえてくる。その方向を見るとゴブリン2体が現れた。


「こちらにゴブリン2体です、任せて下さい!」

「分かった! こっち側にもドルウルフがきたようだ!」


 お互いに背を向け合い、目の前に来た魔物から視線を外さない。午後の討伐はまだ始まったばかりだ、気を抜くことなく集中して討伐していく。


 ◇


 今日一日の討伐を終え冒険者ギルドに戻ってきた。夕方のギルドはとても混雑していて賑やかだ。ロイと一緒に同じ列に並び、ドキドキしながら待つ。


「とうとう報酬ですね、ドキドキしてきました」

「俺もそうだ。3万ルタいっているといいな」

「はい、高額報酬が楽しみです」


 今日は討伐証明の数を数えずにやってきた。だからいくらになるか予想もできないからすごくソワソワしちゃう。


 一人ずつ減っていく列、少しずつ進んでいく列。カウンターに近づいていくだけで、緊張で喉がゴクリとなってしまう。


 そして、とうとう自分の番がきた。


「次の方どうぞ」

「は、はい」


 受付のお姉さんに呼ばれてカウンターに近寄る。


「討伐と素材です、よろしくお願いします」


 マジックバッグから袋とポポを取り出していき、カウンターに並べる。


「はい、少々お待ちくださいね」


 お姉さんが袋から討伐証明の右耳とポポの頭を検分して数を数えていく。そのお姉さんの顏がすごく驚いた顔をしていた、すごい量でしょ。


「おい、あれ見てみろよ」

「うおっ、なんだあの数」

「すげー量だな」

「一体、どれだけ倒したんだ」


 カウンターの上に乗せられた討伐証明を見て周りの人たちがざわつき出した。やっぱり、この量は普通じゃないんだね。あんなに休みなく討伐していたんだから当たり前か。


 しばらくすると、カウンターの上が片づけられた。


「すごい量でしたね、今日一日分ですか?」

「はい。あ、魔物の氾濫とかではなかったです。良い狩場が見つかったので、そこで討伐してました」

「通常でこのように魔物と遭遇できるものなのですね、驚きました。あ、失礼しました、つい」


 あまり無駄話のしないお姉さんでも、つい話してしまうほどに気になる量だったらしい。お姉さんが「ゴホン」と咳ばらいをした、ついに討伐報酬が分かる!


「今回の討伐報酬ですが、31200ルタです」

「やったな、リル!」

「やった!」


 お姉さんが言い終わると周りがどよめき、ロイが声を上げた。私は後ろを振り向くとロイは手を上げていたので、ハイタッチをかわす。目標達成だ!


「3万ルタは貯金でお願いします」

「畏まりました、残りの1200ルタをお渡しします」


 ちなみにロイは32000ルタだった。私よりもゴブリン1体分多く討伐していたようだ。二人揃って目標が達成できて本当に良かった! 周りからも驚かれたところは恥ずかしかったけどね。


 よし、このまま順調にランクアップと報酬大量にいただきます!

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