57.パーティーの討伐(3)

 ホーンラビットが焼けたいい匂いが辺りに広がる。ロイが地面に刺した棒を引き抜くと、お肉から香ばしい油がポトリと落ちて地面に消えていった。


「いただきまーす」


 こんがりと焼けた肉にかぶりついて、引きちぎる。


「んっ、んっ。んまい」


 どうしよう、美味しそうだ。きっと温かい肉汁の旨味と甘みが口一杯に広がっているんだろうな。あぁ、考えただけでよだれが出てきそうだ。


 私は大人しく屋台で買った肉の串焼きにかぶりつく。マジックバッグに入れていたお陰かまだほんのりと温かい。こちらも肉汁を感じることができて、旨味が口に広がって幸せだ。


 ちまちま食べている私とは違い、ロイは顏の半分以上はある肉の塊に豪快に噛みついていく。見た感じとても柔らかそうな肉質をしていて、見ているだけで食べているのにお腹がなりそうだ。


「あの、どんな味がするんですか?」

「んん? んー、柔らかい肉って感じだな。美味いぞ」


 あぁ、もっといいコメントが欲しかったのに。でも、柔らかいのか、そうか、明日が楽しみだな。


「ちなみに、何か味をつけているんですか?」

「あぁ、昨日の内に塩を塗り込んでおいたから塩っけはあるぞ」


 昨日から塩漬けしているから、きっと旨味が出ているお肉なんだろうなぁ。あぁ、どうして私は目先の利益に目がくらんで、食べるということをしなかったのだろう。


 食べられない今が辛い。明日まで我慢だなんて拷問すぎる。いいもん、レトムさんの美味しいパンがあるんだから。


「なんか、めっちゃ羨ましそうだな。足の一本やろうか?」

「えっ、い、いいんですか!?」

「めちゃくちゃ嬉しそうじゃん。味見がてらに食っとけ」


 わぁぁ、ロイってめっちゃいい人だ! っというか、そんなに羨ましそうに見えたんだね。なんだか恥ずかしくなってきた。


「ほら」

「ありがとうございますっ」


 引きちぎった足をありがたく貰う。あらためて見るホーンラビットのもも足は先にいくにつれて細くなるが、その分ももの部分の肉厚がすごい。


 細く薄い湯気が立ち昇り、鼻先を掠めるとお腹を刺激した。肉の旨味を感じる匂いに体中が沸き立つ。


 肉にかぶりつくと柔らかな肉質に感動を覚え、口の中に旨味のある肉汁が広がって唾液がじわっと出る。その中に感じる塩味が食欲をそそり、早く噛めとはやしたてる。


「ん~、美味しい」


 柔らかい肉質は噛めば噛むほど幸せになれる魔法。肉汁が躍り、旨味と塩味が混じり合い食べるのを止められない。


 骨から丁寧に肉を噛みとって食べていく。そして、あっという間にももの部分を食べ終わってしまった。


「はぁ~、美味しかった」

「ははっ、そんなに美味しそうに食べられたら余計に腹が減るわ」


 そう言いながら残りのホーンラビットもロイは食べていく。今日は頂いた足だけで我慢できる、我慢できるんだ。


「明日、ホーンラビットを食べるのがとても楽しみになりました」

「そうそう、一緒に討伐する日ってどうする? 何か希望とかあるか?」

「あ、集落の手伝いがあるので三日間討伐したら一日休みが欲しいです」

「ふーん、手伝いなんていうのがあるんだな。いいぜ、俺も休みは欲しかったしそれでやって行こうぜ」


 合わせて貰っているけど、いいのかな?


「ロイさんは大工の息子って言ってましたけど、お手伝いとかされないんですか?」

「あぁ、上に兄貴が二人もいるんだよな。跡継ぎなら兄貴たちがいるから大丈夫だし、自由にしていいって言われているから冒険者やってるんだ」


 三男だったんだね、それならお家のお手伝いをしなくても大丈夫かもね。大工の息子なら武器がハンマーでもいいと思ったんだけど、メイスなのはどうしてだろう? 本人の好みかな。


「そうだ、また身体強化の魔法で周囲の気配を探ってくれないか」

「いいですよ」


 そろそろ周囲も気になる時間だよね。耳に手を当てて魔力を集中させて身体強化をする。意識を強く持つと周囲の音が大きく聞こえ始めた。


「離れたところに2体、2体、1体くらいいるようです。音を立てなければ多分気づかれません」

「そっか、ありがとう。もう少し休憩してから討伐するか」

「食べ終わったばかりですからね」

「いやー、魔法って便利だな。俺、魔力がEだったからほとんど魔力ないんだよ。魔法を諦めたけど、いいなー」


 その後も二人で話しながら体を休めた。久しぶりに長く人と話す時間ができて、私はとても楽しかった。カルーの時と、レトムさんの時と似た懐かしさを感じてちょっとだけ寂しくなる。


 今はこの討伐をしっかりと成し遂げて、Dランクへの足掛かりを作らなくっちゃ。討伐が失敗しないように、交流を深めるのも……ありだよね。ふふ、誰かと話すのが楽しいな。


 ◇


 休憩が終わり、また音を出して魔物を呼び寄せる。討伐が始まった。次々と襲い掛かってくる魔物を順番に倒していく。が、午前中より数が少ないように感じた。


 途中パッタリと現れない時もあり中休憩が取れたほどだ。瘴気の合流地点とはいうけれど、全部の魔物がここに集まってくるわけじゃないもんね。


 次第に日が傾き出して、今日の討伐は終了した。終わった後にホーンラビットの皮の剥ぎ取り方と肉のさばき方を教えて貰い、帰路につく。


 森を出て町につく頃には夕日に照らされていた。


「なぁ、今日はどれくらい討伐できた?」

「確か24体ほどだと思います」

「俺もそれくらいだったなぁ。前半はいい感じに魔物が現れてくれたけど、後半には数が減っていたよな」

「そうですね、周辺にいる魔物が減っていったのが原因でしょうね」


 二人で並んで歩きながら今日のことを話す。目標とする30体以上は討伐できなかった。たまたま今日は魔物の数が少なかったのか、それとも元々それくらいの数しかいなかったのかは分からない。


 一か所に留まって戦うのはいいかもしれないが、その分魔物との遭遇率は低くなってしまう。どうやって遭遇率を稼ぐかが目標達成への近道になりそうだ。


「うーん、後半はちょっと移動したほうがいいのか?」

「できれば同じ場所がもう一か所あればいいんですが。それだと午前はこっち、午後はあっちって狩場を変えることはできます」

「それが見つかればいいなぁ。あの場所を見つけたのが本当に偶然だから、もう一か所見つけるのは大変だぞ」


 二人で戦えるくらいの広場を見つけるのは大変そうだ。その場所を探すのに時間がかかるし、だったら探す時間を討伐に当てた方が良さそう。


 ということは、魔物の餌作戦がいいんじゃないかな。


「前に私がやっていた作戦をやってみませんか?」

「ん、どんなことをやっていたんだ」


 Fランクの魔物を倒した時の魔物の餌作戦をロイに伝えた。場所を移動するのは無理だとしても、魔物の餌の匂いで魔物をおびき寄せることができるかもしれない。


「今回はホーンラビットを焼いて匂いを分散させます。その匂いに釣られて魔物が現れてくれるかもしれません」

「なるほど、午前中はそのままでいいとして、午後は魔物の餌の匂いで遠くに散らばった魔物をおびき寄せるのか」

「やってみてダメなら他の方法を考えましょう」

「そうだな、ダメだったらその時また考えればいいか」


 討伐の方法を相談できるのがパーティーを組んだ強みだよね。明日の魔物の餌作戦が上手くいきますよーに。

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