56.パーティーの討伐(2)
ガン ガン ガン
ロイが鍋の底を棒で叩いて音を出す。その音は森に広がっていき、離れている魔物に自分たちの存在を教える。
しばらく音を鳴らしていると、微かにゴブリンの声が聞こえてきた。
「ロイさん、ゴブリンがこっちに向かっているようです」
「分かった。姿を現したら教えてくれ、音を鳴らすのを止める」
ゴブリンが来る方向を見ながら剣を抜く。木々の隙間をじっと見ていると、緑の何かが動いているのを見つけた、きっとゴブリンだ。
「ゴブリンの姿が見えました」
「よし、俺も武器を持つ」
ロイは鍋と棒を置きメイスを構えた。その時、ゴブリンが木々の隙間から姿を現して広場に飛び出してくる。
「ギャギャッ」
「ギャーッ」
2体のゴブリンが現れた。
「どんどん現れると思うから早めに倒してくれよ」
「分かりました」
そっか、音に反応してゴブリンは来たけど、他にも音を聞いた魔物がこっちに向かっている最中かもしれないよね。うん、早めに倒して次に備えよう。
私は一体のゴブリンに向かって駆け出す。すると、前にいたゴブリンはこん棒を振り上げた。きっと私が近づいたら殴る気なのだろうが、そんな分かりやすい攻撃なんて受けるつもりはない。
直前まで近づくと、ゴブリンはこん棒を振り下ろした。だけど、すぐに横にジャンプをするとこん棒が空を切る。
「ギャッ!?」
「はぁっ」
着地をして足で踏ん張り、一歩踏み出して剣を振り上げた。剣先はゴブリンの体を捉える。
「ギャーッ」
ゴブリンは悲鳴を上げて地面に倒れて動かなくなった。
もう一体のゴブリンを見ていると、ロイとつばぜり合いをしてゴブリンは弾き飛ばされる。そこにメイスの一撃が加わり、ゴブリンは動かなくなった。
終わった、と思ったらすぐに茂みが揺れる音がして振り向く。茂みの向こうからドルウルフが3体現れた。
「ドルウルフが来ました」
「よし、迎え撃つぞ」
すぐに態勢を整えドルウルフに向き合う。ドルウルフは唸り声を上げながらゆっくりと距離を詰めてくる。そこにロイが足で地面を力一杯に踏んで威嚇した。
とたんに音に反応したドルウルフがこちらに向かってくる。その中で私に向かってきたのは1体だけだった。
駆け出してきたドルウルフは地面を強く踏み込んで大きくジャンプしてきた。だけど、そんなに速くない動きだから避けるのは簡単だ。横に移動してドルウルフの突進を避ける。
避けるとすぐ振り返り、体勢の整っていないドルウルフに向かっていく。ドルウルフはこちらを振り向くだけで何もできず、振り下ろされた剣をまともに受ける。
「ギャンッ」
その一撃でドルウルフは動けなくなり、地面に倒れた。動けなくなるのを確認するとロイを見る、丁度ドルウルフ1体を殴り倒しているところだった。もう1体のドルウルフは脛の皮防具に噛みつかせている。
多分、大丈夫だろう。意識を周囲に向けて魔物の気配を探ると、ゴブリンの声が聞こえてきた。
「ギャギャー」
「ギャッ」
「2体のゴブリンが来ました!」
「任せる!」
「はい!」
木々の間からやって来た2体のゴブリンと対峙する。こん棒を構えながらにじり寄ってくる、私も剣を構えて少しずつ近寄っていく。
先に動いたのはゴブリンだ。1体が動くと、続いてもう1体も動く。2体が同時にこん棒を振り上げながら襲い掛かってきた。
私は動かないでこのまま迎え撃つ。すぐそこまで迫り、私に向かってこん棒を振り下ろす。それを横に移動するだけで避けるが、そこに違うゴブリンがこん棒を振り下ろしてきた。
避け切れず剣を構えて受け止める。ズシリと重い衝撃が腕や足に圧し掛かるが、堪えられた。すぐに後ろに飛んで、手を前に構える。魔力を集中させ、魔法を引き出していく。
ゴオォォォッ
手から噴射した火が1体のゴブリンに襲い掛かった。
「ギャーッ」
「ギャギャッ!?」
1体のゴブリンが燃え上がり、もう1体のゴブリンは驚いた顔をしてそのゴブリンに釘付けだ。その時、ロイの声が聞こえてくる。
「こっちにもゴブリンが2体だ!」
「お願いします!」
「よしきた!」
短いやり取りの後、すぐに視線を逸らしていたゴブリンに切りかかる。
「やぁっ」
「ギャーッ」
サックリと切られたゴブリンは悲鳴を上げて、地面に倒れる。残りのは先ほど燃やしたゴブリンだ。そのゴブリンは地面に倒れてゴロゴロと転がっていた。すぐに近寄って剣で突き刺す。
「ギャッ」
体を硬直させた後、力なく地面に横たわった。剣を抜き、ロイを見ると2体のゴブリンと対峙しているところだ。加勢は大丈夫だろう、周囲を見渡し魔物が来ないか確認する。
すると、茂みがガサガサと揺れ動いているのを見つけた。じっと見ていると、その中からポポが現れる。
「ポーッ」
「ポポが1体です。任せて下さい!」
「おう!」
珍しくポポが襲い掛かってきた。タッタッタッとこちらに向かってくるポポ。剣を下に構えてポポが近づくのを待つ。そして、丁度いい間合いに入ると剣を振り上げた。
「ポッ」
ポポの頭を刎ね飛ばす。ポポの体から力が抜け、走っていた勢いが余って地面をゴロゴロと転がっていく。
「ポーッ」
と、そこへまたポポが現れた。
珍しいな、ポポから現れてくれるなんて。よっぽどあの音が気になったのかな。
ポポは尻を高く上げてフリフリと振る、威嚇のポーズだ。つい笑ってしまいそうになるのはここだけの話。気を引き締めて剣を構えた。
◇
「これだけやったんだ、周辺には魔物はいなくなっただろう。しばらくは現れないと思う」
ロイは辺りを見渡しながら魔物の気配を探る。私も魔物の気配を探るために身体強化の魔法を聴力にかけて周囲の音を探った。
「うん、近いところからは魔物の音が聞こえないみたいです」
「なら、今のうちに討伐証明の切り取りと周辺の掃除でもするか。それから休憩でもしよう」
広場にはEランクの魔物が沢山転がっていた。あれから、次々と現れる魔物を倒していったが、休みなく現れるので本当に大変だった。討伐証明の切り取りもできないほどに。
「先にホーンラビットの肉を焼かせてくれ」
ロイは地面に置いていた袋の中から棒の刺さったホーンラビットの肉2つと焚火用の枝を取り出す。枝を一か所に集めて重ねると、火打ち石を取り出した。
「火でしたら、私の魔法でつけますか?」
「お、いいのか。頼む」
枝がある場所に近づきしゃがむと手をかざす。少量の火を出すと、枝の塊は焚火になった。それを見ていたロイは地面に棒を刺して、ホーンラビットの肉をあぶり出す。
「よし、これでいいか。じゃ、自分がトドメを刺した魔物の討伐証明を刈り取ろう。残ったものは広場の邪魔にならないように、森の中に移動させようか」
「はい、分かりました」
腰のベルトからナイフを取り出すと、地面に倒れたままの魔物に近づく。1体ずつ右耳を切り取り、ポポは頭を素材入れ袋に入れて体をマジックバッグに入れた。
ある程度取り終えると、途中だけど魔物の死体を引きずって森の中に移動させる。黙々とそれらの作業をやっていくと、空腹感が襲ってきた。
丁度いい時間に休憩時間が取れそうで良かったな。それにしても、すごい数の魔物を倒せたみたい。二人共怪我がなくて本当に良かったよ。
「あー、疲れたー。リル、休憩にしようぜ。周辺の魔物はあらかた倒したからしばらくは安全だ」
「はい、私も疲れました」
「リルが一緒のパーティーになってくれて、本当に助かった。あんな数、一人じゃ無理だからな」
「私も一人じゃ無理でした。協力できて良かったです」
上手く協力し合えるか不安だったけど、結果オーライだね。さて、一休みして午後の討伐も頑張って行こう。
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