55.パーティーの討伐(1)

「いいなー、マジックバッグかー。それ高いんだろ?」

「えっと、中古で40万くらいで……」

「うわー、マジかー。中古でもそんくらいするのかー」


 ホーンラビット狩りを終えた私たちは東の森の中を歩いている。


「でも、300体も倒していたら討伐の報酬で買えたかもしれないですよ」

「それなー。お金が溜まったら欲しい物を買ったり、買い食いなんかもしているから中々貯まらないんだよ。あと、冒険者になったんだからってお小遣い貰えなくなったし、はー……世知辛い」


 ロイは私がホーンラビットをマジックバッグに入れている所を見てから、ずっとこの調子だ。マジックバッグはそれなりに高かったけど、買えない値段ではなかった。


 もしかして、下位の冒険者であんなにお金を貯めたのが異常だったのかな。でも、買うものはあんまりなかったし。そっか、昼ごはんと晩御飯のお金がかからなかったからお金が溜まったのかな。


「俺、絶対に今回のたまり場での討伐を成功させて、マジックバッグを買うんだ」

「それ、いいですね。そんなに魔物が出る場所なんですね」

「ふっふっふっ、聞いて驚け。俺の目論みでは、一日で一人3万ルタは稼げると思うんだ」


 えぇっ!! 一日で3万ルタも稼げる場所なの!?


「そ、それはすごいですね! 単純計算で一人で30体以上を倒せる計算になります」

「すごいだろ! 毎日どんだけ頑張って討伐しても15体くらいだろ? その倍となるとウハウハだろ」


 それが本当なら本当に本当の良い狩場ってことだよね! 毎日それだけ討伐することができれば、お金を一杯稼げるし、ランクだってすぐに上がるかも!


 一日で30体以上か、未知の数だな。心配なのはそれだけ多くの魔物をどうやってさばくか、だよね。きっと普通にやっていたら体力が持たないと思う。ということは、身体強化の魔法の出番だね。


 身体強化は速度には慣れたし、今度は剣を振るうことに重点をおいて鍛えていこう。力と体力に自信がないから、身体強化の魔法で補っていけばいいよね。その内、強くなれればいいなー。


「もしかしたら、そんなに休憩取れないかもしれないけど……大丈夫か?」

「心配ですけど、いざとなったら身体強化の魔法があるので、それで切り抜けて見せます」

「おお、身体強化の魔法も使えるのか。頼りにしてるぜ」


 ロイは親指を立てて、ニカッと笑った。うっ、頼られてしまった……大丈夫、だよね。


「ん?」


 その時、ロイは突然立ち止まった。


「待て、魔物がいる」

「えっ」


 とっさに耳を澄ませてみると、草を踏む音が聞こえてきた。かなり近い、きっと話し声に引かれてやってきたのだろう。すぐに剣を抜き、音の聞こえた方向を見る。


 木々の隙間からこちらを窺う姿が見えた。姿勢を低くして距離を詰めてくるドルウルフだ。全部で4体いる。


 ロイも背中からメイスを取り出すと前に向けて構えた。


「とりあえず、お互いに実力を見せ合うってことで」

「分かりました」


 ロイと距離を取り、ドルウルフが襲い掛かるのを待つ。しばらく睨み合っていると「ガウッ」と吠えるといっせいに駆け出してきた。2対2に分かれてロイと私を襲う。


 剣を構えてドルウルフの軌道をよむ。大きな口を開けて襲い掛かってくるところを大きく横にジャンプしてかわす。


 チラッとロイを見てみると、メイスを大きく振りかぶって1体のドルウルフを吹き飛ばしていた。だが、もう1体のドルウルフを放置したせいか脛を噛まれている。


「ロイさん、足!」

「大丈夫、ドルウルフの顎の力は弱い! 革の装備で牙を防ぐのが俺の戦闘スタイルだ」


 ドルウルフは足を噛んで頭を振るが、ロイはびくともしなかった。気にはなるが、まず先に自分のことだ。避けた後のドルウルフは態勢を整えて、再びこちらに突進してくる。


 手を構えて急いで魔力を集中させて、火を噴射させた。


 ゴオォォォッ


「ギャワッ」

「ギャンッ」


 突然の火の攻撃を避けることができずに顔面で受け止めた。すると、足元がもつれて勢い余ってゴロゴロと地面の上を転がる。すかさず転がったドルウルフに駆け寄り、剣を二振りした。


 隙をつかれたドルウルフは悲鳴を上げた後、ぐったりと動かなくなる。こちらはこれで戦闘終了だ。


 先ほどのロイが心配になってすぐに視線を向けると、足を噛んでいたドルウルフは頭を潰されて絶命していた。離れた位置からでは分からないが、足は大丈夫かな?


「ロイさん、足は大丈夫ですか?」

「大丈夫、あいつら革の防具を引きちぎるほどの力はないし平気だ」

「そうですか。ビックリしました、足が噛まれていて」

「見慣れないとそうだろうな。リルもその革装備なら噛まれても大丈夫だから、いざという時は噛ませてもいいぞ」


 ……いざという時がないように注意をしよう。


「しっかし、魔法って便利なんだな。敵を倒すだけじゃない使い方があるって知らなかった」

「あれはまだ魔法を上手く使いこなせないから、あんな使い方になっているだけです。本当なら魔法の一撃で仕留めたいところなんですが」

「それをやっちまうと、完全に魔法使いじゃないか。リルって魔法使いっていうよりは軽戦士って感じだろうし、俺は重戦士っていうところだ」


 確かに魔法で魔物を倒せるようになると魔法使いになっちゃうな。でも、魔法使いって言われるほど実力は全然ないから、今のスタイルがしっくりくる。んー、でも魔法の一撃で魔物を倒せるようにはなりたいな。


「あ、報酬の分け方なんだけど、トドメを刺した方が貰う形でいいか?」

「はい、大丈夫です。お互い武器が違うので、その辺り間違いがなくていいですね」

「だな。じゃ、討伐証明を切り取って先に行こうぜ」


 ロイはナイフを取り出して、サクサクと討伐証明である右耳を切り取っていく。私もそれに続いて討伐証明を切り取り、素材入れ袋にいれた。


「目的の場所は近くにあるから。この辺から周りに気を付けながら進んでいこう」

「はい。あ、移動する前に近くに魔物がいないかを調べられますが、やってもいいですか?」

「そんなこともできるのか。どんどんやってくれ」


 手を耳に当てて、魔力を集中させる。それから意識を高めると周囲の音が大きく聞こえてきた。森の奥に進んできたからか、様々な音が入り混じっている。


「えっと、あっちにポポ、その向こうにゴブリン。そっちに多分ドルウルフがいて、周囲にポポが2羽いるみたいです」

「なるほど、俺たちが行きたい場所はその丁度真ん中辺りなんだ。今のところ当たらないから、さっさと目的の場所に行ってしまおうぜ。行く場所は少し開けた場所だから戦いやすいしな」

「なら、駆け足で行きますか?」

「そうだな、その方がいい」


 先頭をロイが行き、その後を追う。軽く走るように木々を避けながら森の中を進む。どんどん先に進むが、魔物に遭遇せずに進めているからか歩みは早い。


「見えてきたぞ、あそこだ」


 ロイが指を差す。その方向を見ると、森の中にぽっかりと開いたような広場が見えた。その中へ飛び込んでいく。


「こんな所があったんですね。ここなら木が邪魔にはならないから戦いやすいです」

「戦いやすい場所に魔物が飛び込んでくるんだ、良い狩場だろ?」

「はい」


 これなら存分に剣を振れるし、魔法の練習もできるかもしれない。


 すると、ロイは背負っていた袋を地面に置き、中から何かを取り出した。……鍋と棒?


「早速、やるか」


 ロイは鍋の底を棒で叩きだした。もしかして、それで魔物をおびき寄せるの?

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