54.パーティーの集合

 翌日、東の門までやってきた。まだ朝の早い時間だからか、他の冒険者の姿は見えない。門の内側でボーッと待っていると、次第に日が高くなり、ちらほらと東の森へ向かう冒険者たちが現れた。


 東の森は初心者向けの森なのか、少年少女が多いような気がする。一人で黙って向かう子や数人で固まって楽しそうに歩いている子たちもいた。


 話して歩いている姿を見るとちょっとだけ羨ましく感じた。カルーと一緒に働いていた時を思い出して、少し寂しくなってしまう。


 でも、今回は誰かと一緒だ。昨日は少ししか話せてないから、どんな人なのかはまだ分からない。気が合う人だったらいいな。


「おーい、リルー」


 名前を呼ばれてハッとした。顔を上げて大通りに目を向けると、ロイがこちらに駆け寄って来ていた。


「ごめん、待ったか?」

「ううん、そんなに待ってないです」

「リルは朝早いんだな。俺なんて起こして貰わないと起きれねー」


 ふわぁ、とロイはあくびをした。まだまだ眠そうだが、装備は完璧に見える。


「とりあえず、東の森に向かおう。歩きながら色々と話そうぜ」

「はい」


 ロイが歩き出すとそれに釣られて私も歩き出す。門番に見送られながら門を通り過ぎて、東の森に続く道を歩いていく。


「今回パーティー募集に応募してくれてありがとな。どうしても一人じゃ無理な良い狩場が見つかったんだ」

「良い狩場を教えても大丈夫なんですか?」

「大丈夫さ。というか、あの場所は瘴気の合流地点らしくて積極的に討伐した方がいい場所なんだ。魔物の氾濫も怖いしな」


 この世界には瘴気と呼ばれる目には見えない悪い気の流れというものがある。その瘴気は魔物が好んでいて、濃度の具合で魔物の数が増減するほどだ。


 スタンピードも瘴気の異常発生が原因で引き起こされるらしい。その瘴気は大地から噴き出しているとか、自然に発生するとか言われているがはっきりとした発生方法はまだ解明されていない。


 そんな瘴気の合流地点らしい場所がこれから行く場所。目に見えない瘴気のたまり場を見つけたのは偶然だったのだろうか、ちょっと気になる。


「もしかして、怖くなった?」

「ちょっと怖いですけど、二人ならどうにかなるってことですよね?」

「まぁ、やってみないことにはなんとも言えないけど、多分大丈夫じゃないか」


 それは本当に大丈夫なんだろうか。


「普通に歩いて魔物を探すよりは楽だと思うぞ。チマチマと探して倒すよりは、魔物から飛び込んでくるような環境だから探す時間がないだけでもいいと思うけど」

「確かにそうですね。魔物と遭遇するのも苦労するので、待っているだけで魔物が現れてくれるのは良いです」

「だろ? でも四方から魔物が現れるから、一人じゃ対処できなくて無理だったんだよな。今日は二人でやってみて、無理そうだったらまた募集をかける感じでどうだ?」

「分かりました、それでやってみましょう」


 魔物の討伐と言いながら捜索に時間がかかるのは問題だ。体力だって限られたものだし、できるだけ討伐のために残しておきたい。


「そうだ、今どれくらいの討伐数くらいだ? 俺は大体300体くらいは倒しているんだけど」

「Eランクの魔物は討伐し始めたばかりなので、まだ100体くらいですかね」

「まだやり始めだったんだな、でもそれだけ倒していれば感覚も掴めているから大丈夫そうだな」


 300体か、かなりの数を倒しているから頼りになるな。メイスで倒しているみたいけど、どんな風に倒しているんだろう?


「ちなみにどうやって魔物を倒しているんですか?」

「背中のメイスで魔物を叩いている感じかな。頭が狙えるならそこを狙って一発だな。無理だったらメイスで体のどこかを叩いて、地面に倒れたところを追撃する感じだな」


 なるほど、そんな戦い方だったんだ。メイスって重そうだから頭だったら一撃で倒せそうだし、追撃があれば二回で魔物を倒せる。


「リルは?」

「私は可能なら不意打ちで倒します。不意打ちじゃなかったら、攻撃を避けながら魔物の隙をついて攻撃。火の魔法と雷の魔法を使って牽制してから、隙を作って攻撃する時もあります」

「すげー、本当に魔法を使えるんだ。なぁ、ちょっとここで見せてくれないか?」

「いいですよ」


 道の途中で立ち止まり、前に手を構える。魔力を手に集中させて、魔法に変換する。


 ゴオォォッ


 手のひらから火を噴射させる。


「おお、すげー。魔法だ!」


 隣でロイが大げさに驚いている。数秒だったけど、ロイは目を輝かさせてこちらを向く。


「なんか、こう、火をボッと発射させることってできるか?」

「やってみたいけど今はこんな簡単な魔法しか使えないんです」

「そっかー、その内できたら見せてくれよ」

「うん、余裕があったら今回の狩場でやってみますね」

「ははっ、いいね。俺に当てないようにしてくれよ」


 そっか、なんとなく使っていたけど火を手から離脱させることもできるようにならないといけないよね。ファイアーボール的な感じで遠距離攻撃もできるようになったほうが戦いの幅も広がるし。


 Eランクの魔物では今までの魔法の発現方法で大丈夫だったけど、これからランクが上がっていくんだからこのままじゃダメだよね。よし、少しずつだけど魔法の形のバリエーションを作っておいて備えなきゃ。


「東の森が見えてきたぞ。そうだ、ちょっとホーンラビットを狩っておいてもいいか?」

「ランク上げの討伐ですか?」

「違う違う。いつも昼ごはんはパンとホーンラビットの丸焼きを食べているんだ。毎日ホーンラビットは狩っておいて、次の日に食べるようにしているんだ」

「そっか、自分で食べるっていう手がありましたね」


 どうしよう、報酬に目がくらんで全部売ってしまっていた。そうだよね、自分で食べるっていう選択肢もあったのに、屋台でお肉を買っていた。もしかして、自分で狩って食べた方が安上がりなんじゃない!?


「どうした、なんだか悲しい顏になってるぞ」

「いえ……自分が狩ったものを食べた方が安上がりだったことに気づいて、悲しくなっただけです」

「そ、そうか。まぁ、今気づいて良かったじゃないか、これからは自分で狩ったものを食べるのか?」

「できればそうしたいです。私も一緒にホーンラビット狩ってもいいですか?」

「もちろん。何羽か一緒に狩っておこうか。ついでに皮の剥ぎ取り方も教えてやるよ」


 そうと決まれば、一緒にホーンラビット狩りです。東の森の手前にある平原につくと、二手に分かれて早速狩り始める。


 その場にしゃがみ、耳に手を当てて身体強化の魔法で聴力を強化。意識を集中させて色んな音を聞く。スライムやスネークが這いずる音が聞こえる中、草を咀嚼する音が聞こえた、これがホーンラビットだ。


 その方向を探ってから魔法を切る。立ち上がり、少し駆け足でその方向に進んでいくと、白い体が見えてきた。鞘から剣を抜き、手をかざす。そのままどんどん近づいていくと、ホーンラビットがこちらに気づく。ここだ!


 ゴオォォォッ


 ホーンラビット目がけて火を噴射させた。すると、毛に火が燃え移りホーンラビットはその場にゴロゴロと転がる。


 抜いた剣をホーンラビットに振り下ろすと、小さな悲鳴の後に動かなくなる。これで1羽目だ、あと2羽は狩っておきたい。


 ホーンラビットはどんな味がするんだろう。今日は食べるの無理だけど、明日の楽しみが増えて良かったな。


 それに、誰かと一緒だからやる気がみなぎる。今日の討伐も頑張ろう!

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