51.Eランクの魔物との戦闘

 無事にポポを倒した私は、頭を素材袋に入れて体をマジックバッグに入れて、再び歩き出した。森の入り口付近とは違い見通しが悪く、目で魔物を見つけるのは困難だ。


 目で魔物を見つけるのが難しかったら、耳で探ってみるのはどうだろう。歩いては止まり、耳を澄ましてみる。うん、それらしい音は聞こえない。


 もうちょっと耳が良かったら遠くの音に気づけるようになるのかな。もっと耳が……そうだ、身体強化の魔法を使って聴力を強くしてみるのはどうだろう。


 早速、意識を高めて聴力が良くなるように魔力を高めていく。だんだん魔力の熱が耳に集まってくるのが分かる。さらに意識を集中させていくと、聞こえる音がだんだん大きく聞こえ始めた。


 聴力だけ強化が成功した。そのまま魔力を維持して周囲の音を聞いていく。耳に手を当てて音を拾っていくと、自然の音ではない音を拾った。


「ギャギャッ」という濁った音だ。それは何かの話し声のように連続で聞こえていて、その音に混じり歩いている草の踏む音も同時に聞こえる。


 音のする方向に歩いていく。近づいていっているのか、微かにしか聞こえなかった音がだんだん大きく聞こえるようになってくる。


 しばらくそのまま歩いていく。数分くらい歩いただろうか、聞こえてくる音が大きく聞こえ始めたので聴力の身体強化の魔法を切ってみる。すると、普通の耳でもその音が聞こえていた。


 ゆっくりと剣を抜き、姿勢を低くして音が聞こえたほうに歩いていく。丁度目の前に茂みがあったので、そこに身を隠して音が聞こえた方を覗き見た。


 そこには3体のゴブリンがいた。粗末な腰布をつけて、手にはこん棒を持っている。ゴブリンは何かを話しているようだが、「ギャッ」しか聞こえないので何を言っているのか全然分からない。


 ゴブリンの容姿は図書室で調べた通りの姿をしていた。1体であればそれほど脅威は感じないが、複数であれば脅威があるって感じだ。


 さて、どうやって討伐するのがいいだろう。まず、1体は不意打ちで倒すとして残りの2体をどうするかだ。


 2体同時に襲い掛かられたらこちらが怪我をしてしまうだろう。同時に攻撃されないように1体を魔法ですぐに攻撃する。火の魔法をぶつければきっと驚いて地面に倒れてくれるよね。


 で、1体が地面に倒れているところをもう1体と対峙する。そうやって2体同時の戦闘にならないようにしてみよう。火の魔法だけで魔物を倒せるようになるにはまだ時間がかかりそうだ。


 剣の柄を握り直して、茂みの傍から襲い掛かるタイミングを見計らう。ゴブリンが話に夢中になっている時、私は茂みの中から飛び出した。


「ギャッ?」


 音を聞いてゴブリンがこっちを向いた。だけど、その時には私はすぐ傍まで駆け出してきている。振り上げた剣をゴブリンの首筋を狙って力一杯に振り下ろす。


「ギャーッ」

「ギャッ」

「グギャッ」


 1体のゴブリンが倒れると、他の2体は驚いた顔をしてこん棒を構えた。その中の1体に手をかざして、手に魔力を集中させる。それから意識を高めて魔力を魔法へと変換した。


「くらえっ」


 ゴォォォッ


 手のひらから火を噴射させる。1m以上離れたゴブリンに向かって火が襲い掛かった。


「グギャーッ」


 火を前面に受け止めたゴブリンは堪らずにこん棒を投げ捨て、地面の上へと倒れて火を消そうと転がった。もう1体は倒れたゴブリンと私を交互に見比べて混乱している。


 呆気に取られている今がチャンスだ。剣を構えて、今度は横一閃に剣を振る。剣先はこん棒を持っていた手を切り、その衝撃でゴブリンはこん棒を手から離した。


「ギャッ」

「はっ!」


 ゴブリンが手に意識を取られている隙を付き、すぐに剣を切り返す。首筋目がけてもう一度横一閃に切りかかる。武器もなく、無防備なゴブリンはその剣から逃げることができない。


「ギャーッ」


 首を切られたゴブリンはその場に倒れた。残りは火を食らったゴブリンだけだ。すぐに最後のゴブリンを見ると、地面の上でのたうち回っていた。


 火は完全に消えたようだが、火傷をしたところが痛いのだろう、仰向けになってゴロゴロと右へ左へと転がっている。完全に隙ができている。


 ゴブリンの傍に駆け寄ると、剣先を下にして胸目がけて突き刺す。


「グギャッ」


 ゴブリンの体が一瞬こわばると、すぐに脱力した。どうやら倒せたみたいだ。


 いきなり3体のゴブリンと遭遇して不安だったけど倒せて良かった。怪我もなく戦闘を終えることができて、Eランクの魔物と戦う自信がちょっとついたみたい。


 そんな風に一息ついた時だ、ガサリと茂みが揺れる音がした。ハッとして勢い良く振り向くと、茂みの中からゆっくりと灰色の狼が姿を現した。しかも2体も。


 慌てて剣を構えて対峙してみる。現れた灰色の狼は普通の犬と変わらない大きさで小柄だ。これがEランクの魔物、ドルウルフなのだろう。


 牙をむき出しにして、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。だけど、一度立ち止まると姿勢を低くして今にも飛び掛かってきそうだ。


 ドルウルフをじっと観察して、その時を待った。しばらく睨み合いが続いていくと、突然ドルウルフがこちらに向かって駆け出してくる。そんなに速くない。


 駆けてきたドルウルフは口を大きく開けて足を狙ってくる、噛みつく気だ。タイミングを見て、ギリギリまでドルウルフを引き付ける。


「ガウッ」

「ガウウゥッ」


 あと2歩、というところで横に向かって飛んで牙を避ける。すると、ガキンと牙と牙が重なり合う音が聞こえた。なんとか一撃を避けられたみたい。


 ドルウルフは力強く噛んだ衝撃が嫌だったのか、顔をしかめて首を横に振るった。だけど、すぐにこちらを向き直り再び駆け出してくる。


 大きく口を開けて噛みつこうとするドルウルフ。再び直前で避けると、ガキンとドルウルフが口を閉じる音が聞こえた。


 ここだ。すかさず地面に手をつくと、魔力を集中させる。使う魔法は雷。目一杯の魔力を注ぎ、ドルウルフに向かって地面伝いで魔法をぶつける。


 発生した雷は地面を伝って一瞬でドルウルフの足元にいき、バチバチという音と共に感電させた。


「ギャウンッ」

「ギャッ」


 ドルウルフの体がビリビリと痺れて痙攣してその場に倒れた。足がピクピクと動いていて、すぐに立ち上がれなさそうだ、今がチャンス。


 すぐに駆け寄って行くと、剣先を下にしてドルウルフの頭を狙う。力一杯に下ろしてドルウルフにトドメをさす。トドメをさすともう1体も同じようにしてトドメをさした。


 ドルウルフは抵抗もできずに体を横たえて動かなくなる。だけど、すぐに気を緩めずに周囲に意識を向ける。再び耳に身体強化の魔法をかけて周囲の音を聞く。


 意識を集中して聞くと、遠くで何かの声は聞こえるけど、この周辺には音や声が聞こえなかった。どうやら戦闘は終了したらしい。


「ふぅ、怪我がなくて良かった」


 ようやく緊張を解き、剣を鞘に納める。改めて周囲を見ると、絶命したゴブリンが3体とドルウルフが2体。Fランクの魔物との戦闘とは違う緊張感のある戦闘だった。


 今更になって胸がドキドキとうるさく鳴る。Fランクの魔物との時は一方的だったが、Eランクの魔物との戦闘は違っていた。それでも、難なく終えることができてようやく勝った実感が湧いてくる。


「よしっ、Eランクとの魔物とも戦えそう」


 勝利は自信に繋がった。まだまだ戦闘経験は浅いけど、一つずつ勝利を積み重ねていけば大きな自信にもなるよね。今日はしっかりと考えながら戦っていこう。

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