49.RTA(リアルタイムアタック)

 魔物の餌作戦は二か所に設置するところから始まった。走って10分の距離まで離した餌場を往復して、集まった魔物を討伐する。このやり方で三日間を過ごした。


 餌は二種類用意した、スネークとホーンラビットだ。もしかして餌が変わったら集まり方も変わってくるんじゃないか、と思って用意してみた。


 結果はどちらとも変わらない。だったら肉の単価が100ルタ安いホーンラビットを餌として利用することにした。どうしてスネークのほうが単価が高いんだろう?


 餌の本体は毎日新調するのも勿体ないので、数日間は同じものを使うつもりだ。もちろん使い終わった餌はしっかりとマジックバッグに収納する予定。うぅ、お金が減ったからケチっぽくなっちゃったな。


 この三日間の成果は一日9000ルタ前後にまで上がった。自分の足で探すよりも餌を利用したほうが遭遇率が上がって討伐数が増えたんだね。


 探す手間が省けたのはいいけど、私的にはまだ納得がいってなかった。まだ他にできることがあるはずだ。お金も稼げて、訓練もできて、魔法も鍛えられて。できれば全部やってみたい。


 集落のお手伝いをしながら討伐のやり方の見直しをする。


 餌の設置を三か所に増やしてみるのはどうだろうか。これだったらお金もしっかりと稼げるし、三か所を見回らなきゃいけないから体だって鍛えられるはずだ。


 そうだ、三か所をかなり離した場所に設置して、移動に身体強化を使うのはいい考えかも。これだったら体と身体強化が両方鍛えられるはずだ。


 敵の討伐の仕方は、スライムは剣を急所に突く訓練、スネークは雷魔法の訓練にしよう。ホーンラビットの戦闘の仕方だけ変えようかな。


 今までは攻撃を避けてから隙をついて倒してたけど、今度は火魔法で牽制をしよう。火魔法で驚いた隙に攻撃する形をとれば、火魔法も鍛えられるはず。


 新しい討伐方法が決まった。餌の置き場所は三か所で餌はホーンラビット。設置場所は魔物が多い森の中にする。三か所の距離は離す、大体身体強化で走った時の20分くらいの距離だ。


 移動は身体強化あり、走りながら木々を避ける訓練も一緒にする。身体強化をするのは走るだけで、魔物を倒す時は身体強化を切るつもりだ。普段の力を使って基礎能力を鍛えていく。


 対スライムは一撃で急所を的確に突く訓練。対スネークは雷魔法の発動速度と威力調整の訓練。対ホーンラビットは火魔法の発動速度と威力調整の訓練と剣の訓練。


 うん、こんな感じでいいかな。明日からの討伐が楽しみだな。


 ◇


 身体強化を使って森の中を走って進む。景色がすごい速さで変わっていった。目の前に迫ってきている木々を縫うように避けていき、目的の場所へと向かっていく。


 目的の場所が見えてきた。すぐに身体強化を切り、茂みに入って身を隠す。呼吸を整えると、その茂みの中から餌を設置した場所を覗き見る。


 スライムが1体、スネークが1体、ホーンラビットが2体いた。身動きの速いホーンラビットから討伐することにする。


 茂みから飛び出すと、魔物がこちらに注目する。だけど、相手には先制させない。ホーンラビットのいる方向に手をかざす。瞬時に魔力を引き出して、手に魔力を集中させ、火の魔法をイメージして発現させる。


 ゴォォォッ


 手のひらから火が噴射した。それは2匹のホーンラビットの顔面に届き、驚きと熱さでひっくり返る。そこをすかさず剣で襲い、2匹のホーンラビットを倒すことができた。


 次にスライムを狙う。プルプルと震えているスライム目がけて剣を突く。一発で核に当たり、スライムの体は液状になって溶け出す。


 残ったのはスネークだ。スネークはこちらを見ながら威嚇をしている。そこに雷を纏わせた剣で叩くと、バチンッと雷が弾ける音が響いてスネークの体は地面に横たわった。


 ここでの戦闘が終了した。そこでようやく一息することができる。


「はぁはぁ、走るの結構大変だった」


 腰を屈めて膝に手をついて呼吸を整える。まだまだ身体強化になれていないから、体に負担がかかっていた。そんな負担がかかった間に討伐をするのはいい訓練にもなっている。


 体をしばらくクールダウンさせる。マジックバッグから水筒を出して水を飲み、呼吸を整えるために深呼吸を繰り返す。そうしていくと次第に体にかかっていた負担が軽くなる。


 今度は散らばった討伐した素材の回収だ。ホーンラビットはそのままマジックバッグに入れる。スライムの核とスネークは素材入れ袋に入れてから、マジックバッグに入れた。これで準備完了だ。


「よし、そろそろ行こう」


 意識を集中させて魔力を体中に巡らせる。体が魔力で包まれると身体強化の完成だ。今度の目的地目指して再び走り始める。


 しっかりと前を見据えて森の中を進んでいく。木々を避け、茂みを避け、まっすぐに走っていった。身体強化の速さに大分慣れたが油断は大敵だ、気を緩ませることなく身体強化を練って使う。


 この移動は身体強化の使用と速度に慣れるため以外にもいいことがあった。体を動かしながら魔力を練るという訓練にもなり、戦闘中に身体強化を使い続ける事前の訓練にもなっている。


 だから手先や足先まで集中力を維持しながら身体強化を使っている。きっとここで頑張っておけば、後々のためになると信じているから。


 そうして、集中力を切らずに次の餌場へと辿り着く。また身体強化を切り、茂みに身を隠す。茂みから覗くと、スライム3匹とホーンラビットが2匹いた。


 鞘から剣を抜き、茂みから飛び出していく。重たい体に力を入れて、まずはホーンラビットに向かう。ホーンラビットはこちらを向いて驚いたような反応をしている。そこにすかさず手をかざして火魔法を使う。


 ゴォオオオオッ


 手のひらから1m以上の火を噴射する。その火はホーンラビットの顔面に降りかかり、驚いてそこら中を駆け回る。その後を追うように走り、1匹ずつ仕留めていく。


 ジグザクに逃げ回るから追うのが結構大変だ。目で良く見て逃げる方向を先読みして、剣を振り下ろす。ホーンラビットはその一撃で倒れた。もう1匹も同じように倒す。


 ホーンラビットを討伐すると残りはスライム3匹だけとなる。プルプル震えるスライムに近づくと、核目がけて剣を突き立てた。一撃で仕留めると、スライムの体が液状になってドロッと溶ける。


「ふー、完了っと」


 戦闘が終了して一息をつく。今回も手早く討伐できたと思う。剣を鞘に納めるとマジックバッグから水筒を取り出して、休憩がてら水分を補給した。


 今日も順調に魔物と戦うことができている。少しずつだが魔法も体も強くなっていっている気がした。このまま鍛えていって、Eランクの魔物と対峙する前には初心者の域を脱したい。


 一通り休憩すると、落ちていたスライムの核とホーンラビットを回収する。これでしばらく置いておけばまた魔物が現れてくれるだろう。


 私は再び他の餌場に向かって走り始めた。

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