47.初めての戦闘(2)

 初めてのスライムと小さなスネークは危なげなく倒せたと思う。目標の残りはホーンラビット。ホーンラビットは頭に10cmから15cmの角が生えているウサギの魔物だ。あと短いながらも牙と爪もある。


 動物のウサギと比べて色んな物がついているが、魔物だからだろう。今度は動きも素早そうだし、凶器だってあるから気をつけてかからないと。


 スライムを潰して、スネークを感電させながらホーンラビットを探す。でも中々見つからない、草むらにはいないのかな?


 ウロウロと草むらを探している内にお腹が空いてきた。空を見上げると太陽がかなり高い位置まで来ていた、お昼だ。


 ホーンラビット探しは午後にして、先にお昼ご飯を食べよう。草の低いところに出るとその場に座る。今度こういう時に敷くシートとか買っておいた方がいいかな?


 マジックバッグから袋に入ったパン2つ、大きな葉に包まれた肉串焼き一本、革の水筒を取り出す。それぞれを地べたに置いて、早速食べ始める。


 折り畳まれた葉を開けるとほんのり串焼きが温かかった。マジックバッグの時間軽減・中が効いているみたい。串を手に持って一欠けらを噛むと温かい肉汁がジュワッと染み出してくる。


 今度はパンだ。串を葉の上に置いてから袋からパンを取り出す。パンも串焼きほどではないがほんのりと温かい。手で簡単に裂くことができた。鼻を掠める小麦の香ばしい匂いを嗅ぎながら、パンを頬張る。変わらずに美味しいパンだ。


 一人で開放的な場所で食べているからか、いつも以上に美味しく感じる。美味しい空気の中で食べるご飯ってやっぱりいいなぁ。


 食事はどんどん進みあっという間に平らげてしまった。最後に水筒の中の水を飲んで、ふぅ……お腹がいい感じに膨れた。


 少し休憩するようにボーっと空を見上げる。青空が広がっていて、雲がゆっくりと流れていく。時折、気持ちのいい風が吹いては頬を撫でていった。


 心地いい時間が過ぎていく。先ほどまで魔物を討伐していたのが嘘のような穏やかな時間だ。最近、冒険に出る前の準備で忙しかったから、穏やかさが余計に心と体に染みる。


 何気なく景色を楽しんでいると、視界の端で白い何かが動いたのを見つけた。目を凝らして見ていると、長い耳と角みたいのが草むらから出ているのを見つける。


「もしかして、ホーンラビット?」


 姿勢を低くして眺めていると、その白い物体が上半身を起こした。まぎれもなくホーンラビットだった、本の絵で見たまんまの姿をしている。


 ようやく現れた標的を前にして、まずは片づけから始めた。出したものを全てマジックバッグにしまうと、中腰になって立ち上がり剣を抜く。


 ホーンラビットは立ち止まっては進んでを繰り返していた。周りを警戒しているのだろうか、今までのスライムとスネークとは感じが違う。


 初めての遭遇なので慎重に近づいてみる。できる限り背後のほうに忍び寄って、姿勢を低くして近づいていく。


 しばらくは何も起こらない。もう少し速い足さばきで近づいていくと、ホーンラビットの耳がこちら側に向くのが見えた。すると、姿勢を高くしてこちらを見る。


 見つかった。だが、見つかっても始めはお互いに見ているだけで行動には移さない。しばらく見合っていると、ホーンラビットの顏がくしゃりと歪んだ。


「シャーッ」


 小さな牙をむき出しにしてこちらを向き、姿勢を低くして身構えた。私はとりあえずホーンラビットを観察する。まずは動きを見てから、自分がどう動けばいいか考えるつもりだ。


 ホーンラビットは威嚇をすると、今度はこちらに向かって走り始めた。速度は私と変わらない速度で、それほど脅威ではない。真っすぐとこちらに向かってくると、地面を蹴り上げて大きく飛んだ。


 ホーンラビットの攻撃は飛んでから角で刺す、本で見た通りだ。私は慌てずに半身を引いて角を避けた。


 避けられたホーンラビットは地面に着地したが、勢いに負けて大きく姿勢を崩す。コロコロと転がった後、すぐに体を起こして身構えるとまたこちらを威嚇してくる。


 どうやら角の攻撃をした後に大きな隙ができるみたい、攻撃をするならそこだ。剣を構えて次の突撃を待つ。


 ホーンラビットは威嚇をした後、また走り始めた。少し走ると、地面を蹴って飛び上がる。それを避けながら、目で姿を追う。ホーンラビットが地面に接触した瞬間、私は動き出した。


 後ろを振り向き、転がっているホーンラビットに向かう。剣を振り上げて全力で地面を踏んで駆け出す。柄を握る手に力を込め、ホーンラビット目がけて剣を振り下ろした。


 剣先は体を捉える。血が飛ぶと、ホーンラビットは悲鳴を上げながら地面の上に仰向けに倒れた。まだ足がピクピクと動き、体もモゾモゾと動ている。トドメを刺すために、首に剣を差し込んだ。


「ふぅ」


 初めての肉を断つ感触にちょっと手が震えた。動いていた時はなんでもなかったのに、いざ終わってみると緊張がドッと押し寄せてきたみたい。石オノで穴ネズミやウサギを狩っていたのに、動物と対峙するのと魔物と対峙するのとでは違うのかな。


 弱気になりそうな心を元気づけるために、ペチペチと頬を叩く。大丈夫、大丈夫。無事に討伐できたんだから、怖くない。


 自分を励まして深い深呼吸をすると、だんだん落ち着いてきた。手の震えもなくなり、握ってみると力がしっかりと入る。


「よし! 討伐の続きをしよう!」


 怖い気持ちなんて吹き飛んだ。こんなところで立ち止まってはいられない。倒したホーンラビットをマジックバッグに入れると、周囲を見渡し始める。


 先ほどまでいなかったのに、またホーンラビットが見つかった。緊張は……大丈夫。剣を構えるとホーンラビットに向かって駆け出した。


 ◇


「お疲れさまでした。討伐証明か本体をお出しください」

「はい」


 夕方前に冒険者ギルドに帰ってこれた。受付にいくと早速持ち込んだものをマジックバッグから出す。スライムの核が10個、小さいスネークが5体、ホーンラビットの本体が3体だ。


 カウンターに並べると受付のお姉さんが確認を始める。


「スライムの核、スネークは頭付き、ホーンラビットは本体ですね。合計金額は6800ルタです」


 惜しい、7000ルタを超えなかった。


「6000ルタを預かりでお願いします」

「かしこまりました。只今手続きをしますので、お待ちください」


 残金は12万6000ルタ。ここからまた地道に貯金をして行ってお金を貯めていこう。


 お姉さんとのやり取りを終え冒険者ギルドを出る。夕暮れ前の景色に染まっていて、今日も一日が終わりそうだ。


 初めての討伐は意外とあっさりと終わったと思う。途中魔物との対峙が怖くなっちゃったけど、なんとか乗り越えられた。討伐を始めたばかりだから、最初はゆっくりと馴染ませていこう。


 今日は初討伐記念に晩御飯はお店で食べようかな。今日頑張った自分にご褒美と、明日からまた頑張る自分へのご褒美だね。さーて、何を食べようかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る