46.初めての戦闘(1)

 東の門を抜け、30分歩いた先に東の森はあった。少し離れたところから見た感じ、東の森の入口は木がまばらに生えていて明るい感じがする。きっと奥に進むと木が密集してくるのだろう。


 いきなり奥へは行かずに入口付近で魔物を探してみよう。森の手前、草むらで周りを見回っていると遠くの方で草むらが動いたのが見えた。すぐにその場にしゃがみ込んで観察をする。


 草むらがユラユラと揺れていると、ピョンと何かが飛んだ。弾力のある緑の体、スライムだ。スライムはポヨンと飛び跳ねると草むらに隠れ、地面を這うように進むと草むらが揺れた。


 丁度いい敵が現れた。腰からぶら下げた剣を抜き、体勢が低いままゆっくりとスライムとの距離を縮める。


 スライムににじり寄りながら考えるのは、今朝見た本に書かれていた魔物の詳細。スライムの体はもろく打撃も剣撃も簡単に通す。だが、中心の核を壊さないと液状の体がついている限り動き続ける。


 まずは身体強化なしで戦ってみよう。今の力でどれだけできるか確認をして力量を計るのが目的だ。


 始めは慎重に近寄って、気づかれないように。スライムはこちらに気づきもせずに草むらを跳ねたり移動したりしていた。背後に回りたいけど、どこが正面なのか分からないので真っすぐに進んでいく。


 近づくたびに緊張でドキドキしてきた。剣を握る手に力がこもって、じんわりと汗が滲み出る。このままではダメだと深呼吸をして心を落ち着かせた。


 そして、あと数歩でスライムに剣が届きそうになるまで近づくことができる。まだスライムはこちらには気づいていないようだ。


 ギュッと剣を強く握りしめると、私は勢い良く飛び出した。剣を構えて、上から振り下ろす。


「はっ!」


 スライムはその場から動くことはなかった。そこに剣先が振り下ろされたが、核を外してしまう。体を切られたスライムはブルブルと震えるがそれ以上なにもしてこない。


 すぐに剣を振り上げ、今度は核を目がけて剣を振り下ろす。今度は核に当たった。硬いものにヒビが入る感触が剣から伝わってくる。すると、スライムはビクッと痙攣すると体は液状になって溶け出した。


 スライムの体が全て液状になるのを見届けると、ようやく私は緊張を解く。残された核を剣先でツンツンと触るが特に何も起きない。ということは、初戦闘は勝利になった。


「やった、初勝利!」


 嬉しくて、万歳と剣を高く掲げる。初めての戦闘は呆気なく終わったが、それでも勝利の余韻は残っていた。


 早速マジックバッグから素材入れ袋を取り出して、その中にスライムの核を入れる。これが一つで200ルタだ。小さな金額かもしれないけど、積み重ねれば大きな金額になるはず。


 素材入れ袋を腰のベルトに括りつけると、次の魔物を探した。周りをグルッと見渡すと、少し離れた草むらにスライムを発見する。さっきは慎重に行ったけど、今度は強襲をしてみよう。


 剣を上段に構えて、今度は全速力で走った。草むらをかき分け、スライムが気づくよりも早く距離を詰め、一気に剣を振り下ろす。また核を外してしまった。でもスライムはブルブル震えるだけで何もしてこない。


 すぐに剣を振り上げると、核を目がけて振り下ろす。硬い感触がすると核にヒビが入る。スライムはその衝撃でブルルッと震えて、デロンと液状の体を溶かした。


 壊れた核を拾いながら思ってしまう、手ごたえが無さ過ぎだけどこれでいいのか。Fランクだからこんな感じなんだろうか。今度はしっかりとエンカウントしてみよう。


 また辺りを見渡すと、ポヨンとスライムが跳ねた。剣を構えると、普通に歩く速度でスライムに近づいていく。どんどん近づいているのに、スライムから変わった動きは見られない。


 剣が届く距離に来てもスライムはズルズルと地面を移動するだけだ。仕方なく剣を振り下ろすと、今度は一発で核を壊すことができた。


「スライムって本当に弱いんだ」


 つい口が滑ってしまった。ちょっと注意深くなってしまったけど、無駄ではなかったはずだ。はずだけど、もう少し気を緩めても大丈夫そう。


 ここでようやく肩の力を抜く事ができた。気を張りつめすぎちゃって少し肩がこっちゃったよ。装備だって整っているし、訓練だってした、ちょっとは気を抜いても大丈夫。


 心に余裕をもって、周囲を見渡した。ジーっと目を凝らしてみてみると、遠くの方で草むらが揺れる。見た感じスライムが跳ねたような気配はない。もしかしたら違う魔物かもしれないな。


 少し警戒しつつ、草むらが揺れた方向に歩いて行った。歩いている最中もスライムが跳ねた光景はなく、違う魔物の確率が上がる。


 ちょっとドキドキしながら近づき、草むらを覗く。地面には細長い体が見えた、1mくらいのスネークだ。これがFランクの魔物。


 スネークは近づくとこちらに気づき、動きを止めた。お互いにジッとして動かないでいると、スネークは口を開いてシャーと威嚇をしてくる。


 このまま倒してもいいけど、確かスネークは頭がついていれば高い買い取り額になる。できることなら、頭を切り落とさずに倒したい。スネークが威嚇している最中に考える。


「あっ、雷」


 ふと、思い出した。雷を剣で纏わせて、電気ショックを与えれば倒せるんじゃないか、と。物は試しだ、剣を握った手に魔力を込めて、雷のイメージをして魔力を変換する。魔力は無事に雷に変換され、刀身に雷を纏わせることに成功した。


 あとは平らな部分でスネークを叩けばいい。傷つけないように剣先を近づけるが、スネークは体をくねらせて避けてしまう。何度も剣先を近づけていると、スネークが我慢できなかったのか牙をむき出しにして剣に噛みつく。


 バチンッ


 その瞬間雷が弾けた。スネークの体がビクンッと大きく揺れると、力なく地面に横たわる。


「いけたのかな?」


 魔力を消してから剣先で突いてみた、反応がない。今度はしゃがみ込んで手で突いてみた、反応がない。どうやら無事にスネークを討伐できたみたいだ。


 首を掴んで持ち上げると、スネークの体は力なく伸びている。マジックバッグから素材入れ袋を取り出して、その中にスネークを入れ、腰のベルトにそれを括りつけた。


「今回も手ごたえがなかったな。い、いいのかな」


 魔法を使ったから簡単に倒せたのだろうけど、ここまで簡単だと驚いてしまう。いや、これはきっと作戦勝ちなのだ。決して相手が弱すぎるっていうわけじゃない、ないよね?


 こうなったら数をこなしてみよう。歩きながら草むらを足でかき分けて進むと、今度はとぐろを巻いているスネークを見つけた。こっちを見てはいるが、まったく反応がない。


 再び剣に雷を纏わせると、刃のない部分で蛇の頭を叩く。


 バチバチッ


 音を立てて雷がはぜた。スネークは一瞬体を硬直させ、雷が流れ去った後にぐったりと地面に横たわる。剣から雷を無くして、剣先で突くが反応がない。しゃがんで突いても、反応がない。また成功だ。


「はー、雷の魔法って凄いんだなー」


 きっと雷の魔法のお陰だよね、あと作戦勝ち。スネークを掴んで素材入れ袋に入れる。えっと、討伐料400ルタと肉の買い取り800ルタだから合計1200ルタだね。


 パン屋で働いていた時の日当にはまだ届かないけど、順調にいけばそれくらい稼げるようになるかも。よし、まだまだ頑張るぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る