45.目的地を決めよう
全ての準備を終え、さぁ次の日から冒険だ! とはならなかった。一日の準備期間を作った。
まず装備品に着替えて具合を確かめたりした。体の動きがスムーズか、買った物に不備がないか、動き回ってどんな負荷があるのか。
教官との訓練を思い出して、剣を振り回したりもした。構えから切りつけて、かわして、また剣を振る。一つ一つの動作を確かめて、イメージトレーニングをする。
お陰で少し忘れかけていた力の加減、踏み込み方、足のさばきかたの誤差を修正することができた。やはり剣が違うと動きも少し変わる。
剣の長さと重さが変わったことで重心の取り方、踏み込む時の力加減、剣を振る時の力加減が変わっていた。動作の予習をしておいてよかった、あのまま即実践だったらミスをしていたかもしれない。
ある程度動きを確認してスムーズに動けると、今度は身体強化の練習をした。意識を集中させ、体に魔力を纏うとまずは走り込んだ。速度は全速力の1.5倍ほどで、息が上がり辛くなっている。
もっと速度を上げられそうだけど、今はこのままの速度にする。慣れない内に速度を上げてしまうと、意識して体を止める時に誤差が出てしまってミスしてしまいそうだからだ。
相手は低級魔物だし、身体強化に慣れるまでは少しずつ強くしていこう。いきなり超速度になっても対応できない気がしたから。
あと魔法の練習もちょっとした。今はじっくりと訓練している暇がなかったから、先に習ってた火と雷の予習だ。
火は練習した結果、1mくらいの火を5秒ほど噴射できるようになった。これなら魔物への牽制とかに使えそうだ。その内、火球を作って放ったり、火柱を起こしてみたいな。
雷の練習は剣と一緒にした。買った剣は魔法の力と親和性が高いって聞いたから、試しに剣に雷を纏わせてみる。するとバチバチと音を立てて成功した。これは魔物に対して電気ショック的な攻撃として使えそうだ。
こうして一日をかけて冒険前の予習をした。明日が楽しみだ。
◇
翌日、一人の起床はいいものだ。親がいなくなったのでシーツを買って敷いて寝てみたんだけど、とても気持ちが良かった。奪われる心配がないから、お金が貯まったら少しずつ物を買っていこう。
冒険用の衣服に着替えて、グローブとブーツを履く。シャツの上からマジックバッグをかけて、その上にショート丈の革コートを羽織る。そして、腰に剣のベルトをつけて冒険の準備が完了した。
朝の配給を食べに行った時、いつもとは違う装いだったので色んな人に驚かれ話しかけられた。外の冒険に行くと話すとみんな心配そうにしてくれて、心が温かくなったなぁ。
それから町に行き、冒険者ギルドの中に入る。事前にEランクの仕事は聞いていたので、真っすぐとボードの方に向かった。
Eランクになったばかりだけど、討伐依頼はFランクのものを受けようと思う。だって初めてだから、段階を踏んでいってからのほうが危なげないしね。
Fランクにはいくつか張り紙が貼ってあり、お目当ての常設の討伐依頼が張り出されていた。ホーンラビット、緑スライム、小スネークの三種類に決める。
ホーンラビット、討伐料300ルタ、討伐証明・角、肉買い取り300ルタ前後、森に生息。
緑スライム、討伐料200ルタ、討伐証明・核、森に生息。
小スネーク、討伐料200ルタ、討伐証明・頭、肉買い取り100ルタ前後、頭付きで無傷の場合400ルタ、森に生息。
Fランクなので討伐料は安めだが、肉の買い取りを合わせると中々いい金額になりそうだ。初めての戦闘だから無理はせずに低級だけを相手にして行こう。まずはどこの森に行くか決めないとね。
こういう場合は図書室に行ってみよう。朝早い時間だけど開いているといいな。
私はギルドの奥へと進み階段を昇って三階の図書室の前に来た。ドアノブを握って押すと簡単に開けることができた、良かった開いていたみたい。
中に入ってカウンターを見ると、いつものおじいさんと目があった。
「こんなに朝早くに誰かと思えば、お前さんだったか」
「おはようございます。冒険前に調べたいことがあって来ました」
「ほう、とうとう冒険にでるのじゃな。して、何を調べるんじゃ?」
「魔物の分布図みたいなものありませんか」
「おお、あるぞ。低級魔物じゃな、ちょっと席に座って待ってなさい」
おじいさんに話すだけで欲しいものが見つかる、本当に助かるなぁ。お言葉に甘えて席について待っていると、おじいさんが大き目の紙と手作り感満載の本を持ってきた。
「この大きな紙が周辺の地図じゃ。で、この本が低級魔物について詳しく書かれたものになるの」
大きな紙をテーブルに広げると、町を中心にした周辺の地図が書かれてあった。町を中心に東と西と南には森があり、北にはちょっとした丘のある平原が広がっている。ちなみに集落があるのは西側の森だ。
ということは、残りの森に今回の目標となる低級魔物がいることになる。おじいさんから本を受け取ると、本をめくって目的の低級魔物を探す。
そこには魔物の絵と共に様々な情報が記載されていた。よくよく読んでみると目的の低級魔物は東の森に多く生息していることが分かった。という訳で、目的地は東の森に決まる。
「どうじゃ、欲しい情報はのっていたか?」
「はい。目的の低級魔物は東の森に多く生息していることが分かりました」
「うん、そうじゃな。東の森は低級魔物が多くいて、初心者の森とも言われている危険度の少ない森じゃ。始めはそこにいくのがよかろう」
良かった、東の森であってたみたい。
「しまうのはわしがやっとくから、行ってきなさい。無事に戻ってくるんじゃぞ」
「はい、ありがとうございます」
おじいさんの優しさに感謝しつつ、私は図書室を後にした。東の森に行こう、とその前にもう一か所寄る所がある。ここに戻ってくるのは夕方前だから、お昼ご飯を買って行かなくちゃならない。
朝早くに通りで売っている肉の串焼きを買って、葉で包んで貰いマジックバッグに入れる。後欲しいのはパンなんだけど、この時間ならレトムさんのパン屋が開店しているはずだ。
私は久しぶりにレトムさんのパン屋に立ち寄ると、いつもの光景が広がっていた。子供たちが入れ替わりにパン屋の中に出たり入ったりしている。ふふ、なんだか懐かしいな。
私が中に入ると、すぐに声がかかる。
「あら、リルちゃんじゃない!」
「奥さん、お久しぶりです」
「ちょっとレトム、リルちゃんがきたわ!」
奥さんは赤ちゃんを背負いながらカウンターの前にいた。私の姿を見かけるとすぐに店の奥にいるレトムさんを呼ぶ。すると、奥からレトムさんが現れて驚きつつも話しかけてくれる。
「久しぶりだな、今日はどうしたんだ?」
「これから外の冒険に出るので、お昼ご飯のパンを買いに来ました」
「いくつ欲しいの?」
「2つお願いします」
二人は話に驚きつつもパンを用意してくれた。パン代の200ルタを奥さんに渡し、パンを受け取るとマジックバッグに入れる。うん、これで準備完了だ。
「気をつけて行ってこいよ」
「怪我しないようにね」
「はい、行ってきます!」
二人に見送られながら私は元気よく店を飛び出して東の森に向かった。
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