44.冒険前の準備
訓練をして戦い方を学び、装備品を買って冒険の準備をして、魔力感知のクエストで身体強化と魔法の発動ができるようになった。あとは冒険に必要な細々としたものを買うだけになった。
今日は装備品を全て受け取りに行き、残った買い物を終わらせる予定だ。それともう一つ忘れてはならない出来事がある。両親が移住する日だということ。
朝起きると、すでに両親は起きていて身支度を済ませていた。身支度と言っても髪の毛を整えるくらいしかできないんだけどね。
「今日でリルともお別れだな。後で寂しくて泣いても戻ってやれないからな」
「あなたが悪いのよ。しっかりしないからこんなことになるのよ、自業自得だわ」
相変わらず私の両親は何を言っているのか全然分からない。去る優越感からなのか不遜な態度でこちらを見下ろしてくる。ちょっとだけムカッとした。
「そっちだって、帰ってきたくても帰ってこれないんだからね」
ついつい、捨て台詞を吐いてしまう。村に行くことがどんなに大変なことなのか知りもしないで、調子づくことができるのは今だけだよ。
私の捨て台詞が犬の遠吠えに聞こえたのか二人は顔を見合わせて笑っている。ふっ、笑えるのは今の内だよ。絶対に苦労するのは両親の方なんだからね。
でも、これでこの家には私一人になるってことだよね。ということは、草のベッドの上にシーツを被せて寝る事だってできちゃう。一人の天下だ、やっほーーい!
両親はさっさと家を出ると、私は少し遅れて家を出た。別に見送りとかはしない、朝の配給を食べにいくだけだ。
いつものように広場に行って朝の配給を頂く。その時、女衆から話しかけられた。
「とうとう、あんたの両親が移住するね」
「本人たちが決めた事なので仕方ないです。あ、家はそのまま使ってもいいのでしょうか?」
「そのことについては何も話が出てきてないから使ってもいいと思うよ。何かあったら遠慮なくいうんだよ」
「はい、いつもありがとうございます」
どうやら今日両親が移住しに行く話は広まっているようだ。私は全然問題ない。というか、両親よりも他の難民たちのほうが家族みたいだよね。うん、みんなのことを大切にしていこう。
朝の配給を食べ、後片付けをすると私はみんなと一緒に町を出た。この後、役人さんたちが両親を迎えに来るんだけど見送りはしない。きっと誰も来ないと思う。
さようなら、もう会う事はないでしょう。私はこれからみんなと協力しながら一人で生きていこう。
◇
それから町へ行き、冒険者ギルドに寄ってお金を引き出す。ここで初めての金貨を手にすることができてすごく緊張した。店で会計するまで緊張しそうだ。
お金を引き出すと、周囲を警戒しつつ通りを進んだ。まず荷物を入れられるマジックバッグから受け取りに行った。店の中に入るとあの時のお兄さんが居てすぐに対応してくれた。
店の奥に取り置きして貰ったマジックバッグを貰い、必要な金額を支払う。金貨を持つ手が少し震えたのは仕方がないよね。
マジックバッグは肩から腰にかけてベルトで締めてかけるものだ。装着させてもらうと、店を後にした。
残りの革防具屋と武器屋にも寄って必要な金額を払って注文していた品を受け取った。受け取ってすぐにマジックバッグに入れた、こういう時ってマジックバッグは役立つからいいよね。
これで注文した品を全部受け取り終えた。次に冒険時に着る服を買いに行った。行く場所はもちろん以前お世話になった古着屋だ。
古着屋につくとお姉さんが顔を覚えててくれて喜んで迎え入れてくれた。私は今度冒険に行くことと、希望する服を伝えるとお姉さんは驚いた後にすぐに服を見繕ってくれた。
ブーツとグローブの邪魔にならないように、下は膝上のズボン、上は肘上のシャツを3着ずつ選んでくれる。それとは別に革の鎧を装備していないことを伝えると、革のショート丈のコートを見繕ってくれた。
ちょっと体の装備が心もとなかったので、すぐに購入を決めた。ここでは2万3000ルタかかったが、問題のない範囲だ。品物を全てマジックバッグの中に入れて、古着屋を後にした。
最後に残ったのが道具屋、カルーが働いているところだ。久しぶりに会えるのが嬉しいからか、足取りは軽かった。
通りを進んでいくと目的の道具屋の看板が見えてくる。早速扉を開けて中に入ってみた。
「すいません」
「はーい、いらっしゃいってリルじゃない!」
「久しぶりです、カルー」
奥のカウンターでカルーの姿を発見した。カルーも私の姿を見ると声を上げて反応してくれる。私がカウンターに近づくと、カルーは笑顔で対応してくれた。
「思ったより早くきて驚いたわ。元気でやっているのね」
「はい。冒険の準備があらかた終わったので、最後に道具を買おうと思ってここに来ました」
「そう、もう外の冒険にいっちゃうのね。ここで必要なもの全部買いそろえちゃいなさい」
外の冒険に行くと伝えるとカルーは少し寂しそうにだけど心配するような表情を向けてくれる。そんな優しいカルーを心配させないためにも必要な物を買わないとね。でも、何が必要なんだろう?
「あの、カルー。冒険に必要な物ってなんですか?」
「リルったら図書室で調べなかったの?」
「えへへ、忘れてました」
「もう。そういうことなら私に任せなさい。こういう時のメモがあるのよね」
そういったカルーはカウンターの裏でゴソゴソと何かを出してきた。台帳みたいな冊子を取り出すと、中をペラペラとめくる。
「まずは、冒険の中に外で泊まる事はあるかしら」
「今は泊まる事はないです」
「マジックバッグは持っている?」
「持ってます」
「ならこれね、えっとまず水を飲む水筒、水入れのタル、傷薬、包帯、傷口のあて布、ナイフ、素材入れ袋5つ、余裕があればポーションね。ちょっと待ってて、今見繕ってくるから」
カルーがカウンターから出てくると、店内を動き回り始めた。一つずつ見つけてきてはカウンターの上に並べていく。あっという間にカウンターの上が荷物で一杯になった。
「結構大荷物になったけど、お金の方は大丈夫かしら?」
「値段次第だけど、いくらくらいになるんです?」
「ちょっと待って計算するわ。あ、ポーションも入れていいの? 傷の回復用と体力の回復用一本ずつなんだけど」
「入れてもいいです」
カルーは品物の値段を見つつ、ゆっくりと計算していった。時々指を使いながら計算をしてくれて、ちょっと可愛いなって思ってしまう。いやいや、真面目にやってくれているんだから、うん。
しばらく待っていると、俯きがちだったカルーの顏が上がった。
「お待たせ。全部で1万7500ルタよ」
「分かりました、今出しますね」
まとめて買うとそこそこの値段になってしまった、でも払えない金額ではない。硬貨袋からお金を取り出してカルーに手渡した。
今日残った金額をもう一度預かって貰ったら、残りは12万ルタだね。うぅ、働いたお金ほとんど使っちゃった。
「買って早々、なんでそんなに落ち込んでいるのよ」
「ちょっと出費が多くて」
「落ち込むリルって珍しいわね。大丈夫よ、それだけいい物を買え揃えたってことでしょ。外の冒険で簡単に取り戻せるわよ」
カルーに肩を叩いて励まされた。うん、そうだよね。きっと外の冒険が上手くいって、簡単に取り戻せるよね。
とうとう外の冒険に出られるんだから、落ち込んでいられない。頑張って行こう!
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