43.魔力感知
今日は魔力感知のクエストの日。待ちに待った日が嬉しくて、居てもたってもいられず午前中は薬草採取に精を出す。合計で10個以上見つけられて、二日分の食事代くらいにはなった。
受付のお姉さんに言われて待合席で待っていると、黒いローブと黒い帽子を被った人が近づいてきた。もしかして、あの人なのかな?
「あ、あの……リルさん、ですか?」
「はい、リルです。もしかして魔力感知のクエストを受けて下さった魔法使いさんですか?」
「は、はいっ。きょ、今日はよろしく、お願いします」
なんだか挙動不審なお姉さんだなぁ、大丈夫かな?
「では、ギルドの裏に行きましょう」
「そ、そうですね。ぜひ、行きましょう! 人が少ないですし、その方がやりやすいですし」
もしかして、人がいるところが苦手なのかな? 余計な詮索はしないでおこう。
私はお姉さんを引きつれてギルドを出ると、グルッとギルドを回り込んで進み、裏の広場までやってきた。その広場の片隅にあるベンチに腰掛けると、お姉さんも力が抜けたようにベンチに座る。
「ふへ~、ギルドの中は人が一杯いるから緊張したー」
「あ、やっぱり人がいるところが苦手なんですね」
「えへへ、ごめんなさい、そうなんです。だから、人とあんまり関わらなくても済むゴミの焼却とか魔石への魔力充填の仕事ばかり受けてて」
私と話すのは大丈夫なんだね。どうしてだろう、子供の女の子だからかな?
「あらためて、今日は魔力感知のクエスト受けて下さってありがとうございます」
「こちらこそ、依頼出してくれてありがとう。今日は依頼者でもあるリルさんに満足して頂けるように頑張りますね」
簡単な挨拶をすると魔法使いさんも返してくれる。良かった、私には本当に大丈夫そうだ。
「ちなみに魔力感知の後はどんな魔法を使いたいんですか?」
「外の冒険に行くのに必要な身体強化の魔法を使えるようになりたいです。その後に色んな属性の魔法も使えるようになればいいなって考えてます」
「子供の女の子でも外の冒険に行くのね。なら、私がしっかりと教えます」
むん、と両手を握ってやる気のアピールをする魔法使いさん。いい人に当たったようで良かったなぁ。
「まずは両手を貸してください」
「こう、ですか?」
「そうです。そして、目を閉じて集中します」
魔法使いさんは私の両手を握った。言われた通りに目を瞑り、意識を高めていく。
「今から私が手を通じて魔力を流し込みます。それを感じ取って下さい」
「はい」
「いきますよ」
意識を手に集中させる。始めは何も感じなかったが、少しずつ魔法使いさんの手が温かくなってきた。じんわりとした心地いい熱が指先に広がっていくと、その熱が私の手に移動してくる。
ゆっくりと伝うように移動してきた熱はあっという間に私の手に広がった。
「今、リルさんの手に魔力を流し込みました」
「これが魔力」
「もう少し流し込みますね」
魔法使いさんはそういうと熱みたいな魔力を流し込み続けてきた。熱は手首を越え、肘を越え、肩まで移動する。
「この状態で自分自身の魔力を引き出して下さい。体の真ん中に小さな熱が出てくるはずです」
「はい」
この熱と一緒の熱を探す。体の中心の熱、意識を集中して感じ取っていく。腕に広がった同じ熱よ出てこい、出てこい。中々出てこない。
「もう少し魔力を送り込みますね」
魔法使いさんがそういうと肩までで止まっていた魔力がだんだんと広がっていく。その間に私は意識を集中して自分の魔力を探す。しばらく意識を集中させると、自分の中の一点がほんわかとした熱に侵された。
「今、ちょっと小さな熱が出てきました」
「そう、それが魔力よ。その熱を引き出すように意識を集中していきます」
現れた小さな熱を逃がさないように意識を高めていく。じんわりと温かかったものがだんだんと温度が増してくる。それはゆっくりと体に広がっていった。
「私もリルさんの魔力を感じ取れました。手を離すので、そのまま体中に魔力を行き渡らせて下さい」
「はい」
魔法使いさんが手を離すと温かい魔力がなくなって、私の小さな魔力の熱だけが残った。その熱、魔力を消さないようにさらに意識を集中させて引き上げていく。
すると、魔力がどんどん広がっていた。胸辺りまで広がっていくのに時間はかからなかった。
「今、胸辺りまで広がりました」
「じゃ、指先とか足先まで行き渡らせて下さい」
一度深呼吸をして心を落ち着かせると、体の中心にあった魔力を更に引き出して広げていく。一度魔力を感知すると簡単に魔力を広げられることができた。水が染みていくような感じでどんどん魔力が広がっていく。
意識を集中させ、指先や足先まで魔力を行き渡らせることができた。
「できました」
「なら、目を開けてそのままを維持するように走ってみて下さい」
魔法使いさんの言葉に従って目を開ける。それから意識を集中したまま私は駆け出した。
「!?」
突然体が加速して、今まで以上の速度で走ることができた。ここで意識が途切れないように集中しながら走る。やっぱり、初めて走る速度で動くことができてしまった。
一通り走り切ると魔法使いさんの所に戻ってくる。
「はい、今の状態が身体強化です」
「これが身体強化」
まさか、身体強化の魔法を教えて貰えるなんて思ってもみなかった。驚いた顔で魔法使いさんを見てみると、頷きながら笑っている。
「魔力感知が出来たので、次の段階まで教えてみました。迷惑でしたか?」
「いいえ、とても助かりました。報酬とか上乗せした方がいいですか?」
「ふふ、そこまでしなくても大丈夫です。私にとって破格のクエストだったので、逆にこちらが恐縮してしまったくらいですから」
なんていい人なんだ。まさか身体強化を教えてくれるなんて思ってもみなかった。これで力と体力が不足している部分を補えるよ、外の冒険に行く前に身体強化ができて本当に良かったよ。
「まだ時間もありますし、魔法の発現のやり方もちょっと習いますか?」
「是非、お願いします」
「と言っても私が得意な属性だけになるんだけど、火と雷だけどいいですか」
「もちろんです」
魔法まで教えてくれるの、すっごい助かる! 私はウキウキしながらベンチに座って魔法使いさんの言葉を待った。
「魔法の発現の仕方はイメージです。火なら熱い、雷ならビリッとした痛み。それらを魔力で表現して行く感じですね」
「魔力でイメージ」
「まず指先に魔力を集中させて、集中させた魔力を変換したい属性をイメージしながら表現、そして魔力を開放して発動です」
人差し指を立てて、魔力を集中させていく。だんだん魔力が集まっていくと、それを変換したい属性にイメージしながら表現。火、火、火。燃える、熱い。それから魔力を開放して、発動!
ボッ
指先から小さな火が灯って、すぐ消えた。
「やりましたね、発動成功です。継続して出したい時は魔力を放出し続けることが大事ですよ。このまま雷の属性もやってしまいましょう」
「はい」
呼吸を整えて、また魔力を指先に集めていく。魔力が集まっていくのを確認すると、雷のイメージを頭に思い浮かべながら。静電気のようなパチッとしてビリッとする感覚で、魔力を開放して発動!
バチッ
指先から小さな電気が流れて、すぐ消えた。
「わぁ、すごいですね雷の魔法も発動しちゃいました」
「あの、こんなので良かったんですか?」
「はい、大丈夫です。魔法の効果を高めたいのであれば、魔力を引き出す力、魔力を開放して発動する力を鍛えていってください。これは回数をこなさない限りは難しいのでコツコツ頑張りましょう」
小さな魔法しか発動しなかったから不安だったけど、足りないものが多すぎたせいだ。そっか、これからコツコツ魔法を発動していって鍛えていけば、魔物を討伐できる魔法を使えるようになるよね。
魔法使いさんのお陰で私は身体強化と魔法の発動ができるようになった。自分一人で悩んでないで、お金を使ってでも解決する方法をとって正解だったと思った。
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