42.革防具とマジックバック

 武器屋で武器を買った後は革の防具屋に立ち寄った。店の中に入ると様々な革製品が並んでいて、どれを選んだらいいか分からない。そこでここでも店員の人に見繕って貰うことにした。


「あの、すいません」

「ん、どうしたんだい?」

「革の防具が欲しいんですけど、どれを選んだらいいか分からないんです」

「そうかい、なら一緒に選んであげようか」


 受付にいくとおばさんがニッコリと笑って対応してくれる。


「武器はなんだい?」

「片手剣です」

「戦闘スタイルはどんな感じだい?」

「敵の攻撃をかわして攻撃するタイプです。力と体力には自信がないです」

「じゃ、動き回って敵をかく乱する感じだね」


 おばさんは一つずつチェックしていき、ふむふむと何かを考えている。


「予算はどれくらいだい?」

「70万くらいなんですが、中古でマジックバッグや冒険に必要な道具を買わないといけないです」

「中古品だと20万から30万くらいで買えるから、他の雑貨も合わせたら最大35万くらいは出せるってことだね」


 中古のマジックバッグ、それくらいするんだ。結構高いけど買えない金額じゃないね。


「革の鎧は必要かい?」

「すぐには必要ない気がします」

「革の鎧もそこそこ重いからね、今の状態じゃ戦闘スタイルに支障がでちまうね。なら革のグローブと革のブーツがオススメだ」


 攻撃を避けるために身軽の方がきっといいはずだ。あった方がいいけど、避けるんならない方でもいい。低級魔物しか相手にしないから、そこまで防具に拘らなくても大丈夫そう。


「その2点をお願いします」

「ちょっと金銭的に余裕がありそうだから、普通の革よりもちょっと上の革をお薦めするよ。ブラックリザードっていう山岳地帯にいる魔物の革なんだ。普通の革と比べると強度もあって、伸縮性もあって、摩擦や熱にも強いっていう品物さ」


 おばさんは棚から黒いブーツを取り、私の前に差し出した。茶色の革よりも光沢があり、触ってみるとざらざらと固い印象がある。だけど引っ張ってみると伸びたり縮んだりして、固いのに伸縮性があって不思議な感じだ。


「動き回るタイプだったらこの素材がいいと思うんだよね。グローブは肘下まで、ブーツはひざ下まで。だけど肘と膝をガードする部分もつけるよ。値段は16万ルタだ。普通の革製品だとこれくらいで9万ルタくらいなんだが、どうだい?」


 またしても上位ランクの素材だね。でも買えない値段ではないし、何よりも力と体力に不安がある私にとって動きを阻害するものでもない。伸縮性があるってすごく魅力的だ。


「ブラックリザードの革でお願いします」

「はいよ、毎度。ここはオーダーメイドで作るから、作るのに数日貰うよ。さて、サイズを計るから奥のイスに座ってくれないかい」


 買ってしまった、また上位ランクの素材でお願いしてしまった。しかもこの後にマジックバッグも買わないといけないから、なんだか高い買い物ばかりしているから不安になってしまう。


 イスに座って少し挙動不審になりながらサイズを測って貰った。


 ◇


 革防具屋を出て行き、次の目的地でもあるマジックバッグ屋に向かう。どうやら新品も中古品も一緒に取り扱っているらしい。


 えっと、貯金が118万あって今日61万使ったから、残りが57万だね。あんまり使いたくないけど、いい商品があったら買いそうで怖いな。うぅ、気を付けないと。予算は最大35万までにしよう、絶対にこれ以上のお金は出さないぞ。


 お金のことを考えながら歩いているとあっという間にマジックバッグ屋に辿り着いた。高級品があるせいか店の佇まいも綺麗目な感じで、入るのを少し躊躇してしまう。


 一呼吸をすると、ゆっくりと中に入って行く。


「いらっしゃいませ」


 入るとすぐに声をかけられてびっくりした。扉の向こう側、奥の方にカウンターがあって、そこに座っている仕立ての良い服をきたお兄さんが話しかけてきたようだ。


「マジックバッグをお求めですか?」

「はい。中古品のマジックバッグも置いているって聞いたんですけど」

「それでしたら右側の棚になりますので、ごゆっくりごらんください」


 右側の方を見てみると棚の上のほうに中古品と書いてあった。うん、私はこっちだな。棚に近づいて行って一つずつ商品を見ていく。


 まず、マジックバッグには重量軽減、容量増大、時間減速の三つの項目があった。教官の話だと超高級品は重量が無かったり、すごい量の品物を入れられたり、時間経過がなかったりするものもあるらしい。


 私はまだEランクの低級冒険者だから、高級品は要らない。予算の35万ルタでいいマジックバッグが見つかればいいんだけど。早速一番安いマジックバッグを見てみよう。


 一番安いマジックバッグは17万ルタ。えっと、重量軽減が低ランク、容量が1立方メートル、時間軽減が低ランクか。大事な容量がそんなに入らないような気がするから、パスかな。


 次に安いマジックバッグは23万ルタ。重量軽減が中ランク、容量が2立方メートル、時間軽減が低ランク。これくらいでもいい気はするけど、予算はあるからもうちょっと高めでも大丈夫そうだな。


 次のランクはっと、31万ルタだ。重量軽減が中ランク、容量が3立方メートル、時間軽減が中ランク。うん、これくらいだと予算内で収まりそうだし、機能に中ランクがあるからイイ感じだね。


 もうちょっと上のランクはどんな感じかな、43万ルタ。重量軽減が高ランク、容量が5立方メートル、時間軽減が中ランク。予算はオーバーしちゃうけど買えなくはない、でも低ランクの冒険者に必要な機能なのかは謎だ。


 あー、どうしよう困っちゃう。今はこんな機能無くても大丈夫だけど、買えなくはない金額なんだよね。いや、今回は今の自分に見合ったマジックバッグを買うんだ。


「お客様、何かお困りですか」


 しまった、すごく悩んでいたから店員のお兄さんにうかがいを立てられた。


「こっちとこっちで悩んでいて」

「あー、悩みますよね。でも、こちらのマジックバッグはですね」


 そう言ってお兄さんは高い方のマジックバッグを手に取り、説明を始めた。


「機能以外にも高機能なんですよ」

「機能以外?」

「大きさはあちらのマジックバッグよりも小さいだけでなく、入口が広がるんです」


 高い方のマジックバッグは三つに折り畳まれていた。店員のお兄さんはその入口を広げてみせると70cm以上の長さのある形に変形する。


「普段は折り畳んで体に括りつけて、物を出し入れする時は入口を広げて物の出し入れがしやすいようになっております。もちろん、折り畳んだまま物の出し入れもできます」

「むむっ」

「おっと、この値段はちょっと間違えていました。申し訳ありません。41万ルタでいかがでしょうか?」


 くっ、ここにきて値下げを見せられるとは。いや、元々の値段が41万ルタだった可能性はあるわけで。迷っている客がいたらすかさず値引きをしたように見せかけているのかもしれない。


 でも、でも……


「こちらの商品をください」

「毎度ありがとうございます」


 負けた、お兄さんの勝ちだよ。付加価値のあるものに私は弱いんだよー、悔しいけどいい買い物ができたー。


 現金がないため一週間の取り置きをしてもらい、私は店を出る。夕暮れが迫ってきて、今日の買い物は終了した。

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