40.訓練(2)
初日の訓練は無事に終わった。終わり際、サービスだとポーションを貰った。なんでも体の疲労を取るもので、三日間の訓練を続けるためには飲んでいた方がいいと用意してくれたものだ。
初めての訓練でヘトヘトだった私は3分の1を飲む。すると、体の疲労が少し消えて、翌日の筋肉痛は軽いもので終わった。ポーションってすごい。残りは次の訓練が終わってから飲もう。
そして、今日も訓練をするためにギルド裏の広場まで来ていた。
「今日はどんな訓練をするんですか?」
「攻撃を避ける訓練をする」
「受け止める訓練ではなくてですか?」
「リルは体が軽いから、攻撃を受けるよりも避けたほうがいいタイプだ」
教官がいうには敵の攻撃を受けてもその場で踏み止まることができる訓練が必要。だが、私はまだ体は小さいし力も小さいしで、攻撃を受けたら吹き飛ばされる可能性があるから攻撃は避ける方がいいらしい。
身体強化ありだったら受けてもいいのか、と聞いてみたけど答えは否だった。受け止めるタイプか避けるタイプか、どちらかに特化したほうがいいという話だ。
普段は避けるタイプなのに、身体強化したら受けるタイプに切り替えはできない。体に染みついた動きというものがあるからだ。
「まずは小石を投げるから、それを好きなように避けてみろ」
「はい」
教官から3m離れて立つ。身構えると早速小石を投げてきた。始めは簡単に避けられる速度だ。投げて来ては右に避け、投げて来ては左に避け、簡単だ。
「今は遅く投げているが、だんだん速くなっていくぞ。速くなる前に足さばきや次の動作とかを考えて避けてみろ」
なるほど、今は避ける訓練でもあり足さばきの訓練でもあるのか。次の動作を考えつつ右に避けて、足さばきを注意しつつ避けてみる。うん、かなりいい感じに避けられた。
「うん、大分良くなったぞ。少し速くするぞ」
そういうと教官は小石を投げる速度を上げた。今度は避けるのにリズミカルな動きになった。このくらいの速さになると足さばきがとても重要だ。次の動きも考えて避けていると大分さまになってきた。
「その調子だ、もう少し速くするぞー」
少しずつ速くなっていく小石。今度は息が上がるほどの運動量だ。上手く避けられているような気がするが、長く続けると息が持たなくなってしまう。息が上がり動きが鈍ると、とうとう小石がお腹にあたった。
「よし、ちょっと休憩だ」
「はぁはぁっ」
「中々いい調子だったぞ。足さばきもさまになっていた」
「あ、ありがとう、ございます」
その場にへたり込んで息を整える。じんわりと汗もかいて体が火照ってくる。やっぱり外の冒険は大変なんだなぁ、と改めて実感した。
経験も何もない状態で外の冒険に出て行ったとしたら、無事に帰ってこれたのだろうか? 私の場合力がないから危なかったのかもしれない。こういう訓練があって本当に良かったよ。
その日はひたすら小石を避ける訓練をした。とっても疲れたけど、沢山訓練をしたお陰で足と体が避けることに慣れてくれたみたい。心もとないのは体力だけとなった。
◇
あっという間に訓練最終日がやって来た。今日はどんなことをやるのかな?
「今日は実戦形式で訓練を行う。魔物の大きさは様々違うので、それに対応した剣捌きの訓練だな。俺が指示した場所に剣を打ち込んでいくんだ、分かったな」
「はい」
木剣を渡されるかと思いきや、本物の剣を渡された。実戦形式ってそういうこと?
「なんだ、心配そうな顔をしているな。大丈夫だ、その剣の刃は潰してあるし、何よりも初心者のお前の剣は経験者の俺には通じないからな」
そっか、そういうことなら大丈夫だよね。私の剣が教官に当たることなんてないだろうし、ここは気にしないで全力で剣を振るってしっかりと訓練をしよう。
「まずは俺の膝から足元の高さだ。この位置だとホーンラビット、スライム系、スネーク系などを相手にする高さだな。低い位置だから腰を落として剣を構えるといい」
「その魔物はランクEでも倒せますか?」
「うむ、その通りだ。じゃ始めるぞ」
教官が腰を落として剣を下段に構える。私も同じ構えをして教官と対峙した。一呼吸の後、地面を蹴って教官に向かっていく。下段に構えた剣を横にスライドさせて薙ぎ払う、と簡単に防がれた。
何度か剣を振るうと一旦距離を取る。また構え直してから、もう一度切りかかる。教官の脛や足元を狙って剣を振るが、全て教官の剣によって防がれてしまっていた。
「その調子だ。一旦距離を取るのもいいぞ。あとは剣に力が籠っていたらいいぞ。力を温存するのはいいが、魔物を一撃で倒せる力を込めないとダメだ」
剣の太刀筋が弱いことを見切られていた。次の攻撃が必要もないくらい強い力を入れないとダメみたい。剣を握る手に力を込めて、何度も剣で切りつける。
しばらく剣を打ち込んでいくと、息が上がり我慢できずにその場にへたり込んでしまった。そこで休憩となり、私は息を整えていく。
息が整い、体が動くようになると早速次の訓練が始まった。
「次は俺の腹から太もも辺りの高さだ。この位置だとゴブリン系、ウルフ系、ボア系だな。今度はこの間やった構えをしながら、力一杯切りかかってこい」
少しだけ腰を落として剣を構えた。二日前のおさらいでもあるので切りかかりやすそうだ。地面を蹴って教官に向かっていき、縦に切りかかった。
何度も切りかかり、少し息が上がってきたら離れる。離れている間も相手を見て動きを観察しながら、再び切りかかっていく。
「いいぞ、自分の体力の限界を見極めて離れ、離れている時は相手を観察する。魔物との戦闘では終わらない限り気が抜けない。ずっと気張っていけ」
教官に剣を打ち込んでいく。先ほどよりは剣を振るいやすいが、敵が大きくなっているので油断大敵だ。できるかぎり力を込めて打ち込んでは、離れて息を整えながら相手を見極めていく。
訓練は私の体力がなくなるまで続いていった。
◇
「ありがとうございました」
「おう、お疲れさん。訓練を見た限り動きは問題なさそうだ。後は力と体力をつけることだな」
訓練が終了して、少しの休憩の後に解散となった。まだ体力が回復していない私はフラフラとした足取りでギルド内を歩いていた。待合席で少し休ませて貰おう。
「そうだ、ここでちょっと待ってろ」
待合席に座ったらそんなことを言われた。まだ訓練が終わってなかったっていうのかな? でも、さっきお疲れって言われたし、なんの用事なんだろう。
座りながら待っていると、教官が片手に紙を持って戻ってきた。
「待たせたな。この紙におすすめの武器屋や道具屋を書いておいた。ここに行って必要なものを買い揃えて来い」
「助かります。正直、どこに行ったらいいか悩んでいたので」
「始めは誰だってそうだからな、少しでも力になれたんなら良かった。じゃ、なんか困ったことがあったら声かけてこいよ」
「はい、ありがとうございました」
教官は紙を手渡してきて片手を上げ、そのまま受付の奥に姿を消してしまった。最後の最後までお世話になっちゃった、いい人に出会えて本当に良かったなぁ。
貰った紙を見てみると、オススメの武器屋の名前と通りの名前が書かれてあった。道具屋は……こ、これカルーが働いている道具屋の名前だ!
店に顔を出す予定だったけど、いいきっかけになって良かったな。カルーに会えるの楽しみだ。明日は集落のお手伝いをして、ついでに訓練の続きもしよう。明後日にギルドに来て、魔力感知のクエストの進捗を聞きに来よう。
明日は町に来ないからパンを多めに買っておいて……ふふ、カルーに会える日が楽しみだな。
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