38.魔力

 講習が終わり、図書室までやってきた。やっぱり図書室は静かでひと気が全然ない。それでも受付に視線を向けるとあの日にお世話になったおじいさんが座っていた。


「こんにちは」

「はいはい、ん? あの時のお嬢さんか」

「はい、あの時はお世話になりました。無事に文字とかを覚えることができて、新しい仕事を受けることができました」

「そうかそうか、役に立ったんなら教えたかいがあったよ」


 あの時、おじいさんが教えてくれたから私は無事に文字を覚えることができた。その時の感謝を伝えるとおじいさんは笑って嬉しそうに何度も頷く。


「して、今日はどんな本が読みたいんじゃ?」

「魔法を覚えたいので、そういう本がありませんか?」

「魔法か、分かった。席に座って待ってなさい」


 おじいさんは席を立って本を探しに行ってくれた。私は部屋の中央にあるテーブルの席につき、おじいさんが戻ってくるのを待つ。


 どんな風に魔法を使うのか、今から楽しみだ。属性とかあって、個人で得意なものとか分かれたりするのかな。そうだとしたら自分は何が得意なんだろう。


「待たせたな、まずはこれを読むといい」


 おじいさんが戻って来て一冊の本を私の前に置いてくれた。本の題名には「初めての魔法」と書かれてある。厚さは1cmくらいでそんなに厚くない。


「この本は魔法を使う上での基礎中の基礎の話がのっている。まずはこれをクリアしないことには魔法は使えんから、これから勉強しなさい」

「ありがとうございます」


 まずはこれを読んでいれば大丈夫なんだね。よし、頑張って読むぞ。


 おじいさんは受付に戻り、私は本を開いて中身を読み始めた。


 ◇


 じっくりと本を読み終えた。


 魔法とは魔力を具現化した力の総称らしい。体内や体外にある魔力を集めて、属性に変換させ、発現させる。そんな内容が本には詳しく書かれていた。


 属性も「火」「水」「風」「土」「雷」「時」「光」「闇」の八種類に分けられていて、変換させる力は個人個人で違うらしい。


 とにもかくにも、始めは魔力を感じ取ることが何よりも重要らしい。魔力を感じられないのであれば、魔法の適性はないと言ってもいい。


 本を閉じて、手を膝の上に置き、目を瞑った。深呼吸をして心を落ち着かせると、意識を集中して魔力を感じ取る。


 ……何も感じない。意識の仕方が悪かったのかな、もう一度意識を集中して…………ダメだ。


 それから、イスに座りながらずーっと魔力を感じ取るために集中していた。でも、どれだけ頑張っても魔力を感じ取れない。もしかして、私って魔法の適性がないってこと!?


 いやいや、ステータスにはCって出ていたはずだし全くないってことはない。特殊な訓練でも必要なのかな、武器の訓練と並行して魔法の訓練とかもできないかな。


「どうしたんじゃ、唸っておったぞ」


 わっ、びっくりした。


「えっと、魔力を感じ取ろうとしたんですか全然感じ取れなくて困っていたんです」

「ほうほう、魔力か。魔法に馴染みがなかった者がいきなり魔法を使うのは大変だからな。身近に魔法を使う者はいないか?」

「……いないと思います」


 難民の中に魔法を使う人なんて見たことないし、きっといないだろうなぁ。


「魔法を見たり触れたりしていると、それがきっかけになって魔力を感じ取れるようになるんじゃが」

「だったら、誰かに魔法を見せてもらえれば私も魔力を感じ取れるようになりますか?」

「見るって言ってもそれこそ何十回とか必要じゃぞ。今の状況では現実的ではないじゃろうな」


 魔力を感じるために何十回も魔法を見ないといけないなんて、見せてくれる人は誰もいないよね。だったら、どうすればいいんだろう。魔法を諦めることができない。


「そうじゃのぅ、一つだけ簡単に魔力を感じ取る方法がある」

「えっ、なんですか!?」

「クエストを出すことじゃな」


 ど、どういうことだろう。クエストを自分で出して何をするんだろう。


「クエストで魔力感知のお手伝いっという依頼を出せばいい。お前さんがお金を出して、魔法を使える冒険者を雇うんじゃよ」

「そ、そうですね。その手がありましたね!」

「詳しいクエストの内容はギルド員に聞けばいいじゃろう」

「分かりました、早速行ってきます。今日もありがとうございました」


 なるほど、その手があったか。一人で感知できるか分からない魔力と格闘するよりは、お金を払ってでも早く感知できるようになったほうがいいよね。


 おじいさんに勢い良くお辞儀をすると、足早に図書室を後にした。


 ◇


 一階に降りてくると、すでに冒険者は出払っていて閑散としていた。私は誰もいない受付に並ぶと、すぐに受付のお姉さんが対応してくれる。


「今日はどうされましたか?」

「クエストを出したいのですが、いいですか?」

「はい、大丈夫ですよ。どういった内容のクエストですか?」

「魔力感知のお手伝いです」


 受付のお姉さんは紙を出してメモを取り始めた。


「それはリル様が魔力を感知したい、という内容で間違いないですか?」

「はい。それでいくらぐらい出せばいいのか分からなくて」

「そうですね、この内容だと1万5000ルタから2万ルタがいいと思います。ですが、いい人に当たりたいという気持ちがあればそれ以上を出したほうがいいと思います。また、ギルドの仲介料として出して頂いた金額の1割を頂くことになりますので、それを含めて考えて下さい」


 そっか、ギルドは依頼人から依頼料を貰っているんだ。1割取られるっていうから、それを含めていくらがいいかな。できればいい人に当たりたいし、優秀な人に出会う為には高い金額のほうがいいし。


 よし、決めた。


「3万ルタでお願いします」

「分かりました。それではお預かりした金額から差し引きますね」


 残り118万ルタか、それと手持ちに1万ルタ以上ある。うん、装備品を買えるお金は残っているから大丈夫。受付のお姉さんが後ろを向いて作業をすると、再びこちらを向いて冒険者証を渡してきた。


「冒険者証をお返しします。一週間の内に適任者に声をかけておきますね。一週間前後には一度ギルドにお越しください」

「分かりました、よろしくお願いします」


 こうして初めてのクエスト依頼は終わった。予定外の出費があったけど、お金には余裕があるので大丈夫。あ、でもマジックバッグを買いたかったんだ……大丈夫だよね。


 遅めの昼食を食べて、夜ご飯用の100ルタのパンを買い、まだ明るい内に薬草を採取しながら集落に戻った。今日も何事もなく終わるはずだったんだけど、集落につくと広場で女衆が集まって話していた。


 なんだろう、と横目で見ていると女衆がこちらに気がついて少し慌てたように近づいてくる。な、なんだろう。


「ちょっと、リルちゃん」

「は、はい。どうしたんですか?」

「今日、配給がきたんだけどあんたの両親、村に移住を希望したのよ」


 な、なんだって……あの両親が?


「しかも、リルちゃんを置いていくらしいわ!」


 私を置いて、村に移住を希望?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る